メルカリ創業者山田会長"狙うは世界制覇"
プレジデントオンライン / 2018年10月9日 9時15分
■マザーズ時価総額一時8000億超、狙うは世界制覇!?
もともと旅行が好きで世界中を回っていました。2010年、私が創業したソーシャルゲームのウノウを米ジンガに売却したあと、会社も辞めて次の方向性を考えていたとき、「会社をつくったら、また旅行ができなくなる」と思って、12年初頭から、アフリカや南米、中東など新興国や途上国を回る旅に出ました。
その旅を終えて年末に帰国したとき、とても驚いたのは日本でスマホが急速に普及していることでした。旅に出たときは、日本はまだガラケーが中心。ところが、1年も経たないうちに、多くの人がスマホでLINEを使って会話をしているのです。
■新しい時代の到来を確信した
そのとき、新興国も含め、これから間違いなく全世界の人がスマホを使うようになると確信しました。スマホを使えば、モノやカネのやり取りをもっと効率化できる。当時、日本ではパソコン向けのインターネットオークションサイトが停滞する一方、スマホのフリーマーケット(フリマ)アプリは女性向けのアパレル関連を中心に流行っていました。そうした中、もしオールジャンルで簡単に出品できてすぐに売れ、しかも安心・安全で決済も一緒にできるフリマサービスならいけるのではないか。そう思って13年2月、メルカリを創業したのです。
ベンチャーキャピタルを手がけるユナイテッドに話をしにいったのは、アプリリリース後、1カ月も経っていないときでした。もともとユナイテッドでは、「CocoPPa」(ココッパ)という女性向けのスマホの壁紙やアイコンをきせかえることができるアプリをつくって、グローバルでも成功しており、「何か一緒にできないか」という話をしにいったのです。
そのとき、先方は一緒に事業をすること以上に、出資に興味を持ってくれました。当時私は、9月に3億円の資金調達をするつもりでいました。通常、資金調達は時間のかかるものです。こちらもまだアプリをリリースしたばかりで、具体的に見せられる数字は十分にない状態でした。にもかかわらず、ユナイテッドは事業計画書を見て、3億円の出資を即決してくれたのです。
■事業計画書がシンプルすぎるわけ
事業計画書をつくるうえで気をつけたことは、「わかりやすさ」です。私はこれまでも新しい事業をつくる過程で、多くの失敗を経験してきました。そこから学んだことは、わかりやすく伝えられることが重要だということです。結局、ぱっと聞いて、誰もが何なのかわかるサービスでないと、一般の人に使ってもらえません。どんなサービスなのか、一言で言えるのがいいサービスだと思っています。それはBtoBだろうがBtoCだろうが変わらない。だからこそ、事業計画書はシンプルなものがいい。誰が見ても、確かにそうだと思えるものをつくればいいのです。
例えば、ウノウのときにつくった「まちつく!」であれば「街を育てていくケータイゲーム」みたいに、誰が聞いても、「あっ、なるほどね」と思えて、かつ「何か、ちょっと面白そうかも」というふうに思ってもらえるっていうところがないと、やはり使ってもらえないと思っています。
ただ、シンプルではありますが、論理構成はしっかりしていたほうがいい。例えば、メルカリの事業計画書では、サービスの「特徴」「経営陣」から始め、なぜそのサービスを始めるのかという「Why」、参入する市場が拡大する「理由」、競合の「状況」、新サービスの「内容」、その結果として目指すべき「世界」を説明しています。
「競合の状況」については、アメリカのインターネットオークションサイトである「eBay」(イーベイ)の流通額が月約6000億円、日本の「ヤフオク」の流通額が月約500億円ですよというのを1行書いただけでしたね。
それから、私の事業計画書の特徴は、とにかく文字が大きいということかもしれません(笑)。私の場合、一枚当たりの文字量を減らして、余計なことは一切書かない。できる限りシンプルに見せることを心掛けています。
なぜそうするのか。それは私自身があまり長大な資料を好まないからです。そのため、社内文書でもパワーポイントなどは使わずに、3行のテキストでまとめてほしいと言っています。
10行になってしまってもいいんですけれど、どんな提案であれ、重視しているのは、プロコン(=「pros and cons(賛否)」)、つまり、メリットとデメリットを必ず併記することです。例えば、A、Bの選択肢があったとき、Aのメリットとデメリット、Bのメリットとデメリットというように書く。Aならこういうプロセスになって、こんなことができる、と書くだけでは、デメリットがよくわかりません。細かい説明は要らないので、どんな案件でもメリットとデメリットを併記して、長くても10~20行くらいに整理してもらう。それを見れば決断できます。
経営のミーティングなど、自分自身で文書をつくる際には、たいていGoogleドキュメントでつくっています。そこに議題や選択肢のメリット・デメリット、リコメンデーション(推薦)の度合いを書いておいてもらいます。リコメンデーションがAとなっていたら、進めていいと言うときもありますし、でもAでもこういうデメリットがあるよねという追加事項が出てきたら、デメリットの欄に書き足す。やはり、そうしたほうが、私にはわかりやすいですね。
事業計画書でいうと、私は起業家ですが、一方でエンジェル投資家としての活動も2年前まで行っていました。
エンジェル投資家として出資をするときは、ほとんど直感です。そのとき、決め手となるのは、事業計画書のプランを見るというよりは、やはり人です。私の場合はインサイト(洞察力)があるかどうかを見ます。私と違う新しくて深い考えをどれだけ持っているのか。そうした知識欲のある人は、常に新しい情報によって、自分自身もアップデートでき、起業家としても成功する可能性がある。私も国内外問わず、何か新しいサービスが出たときは、それがどれくらい伸びるのか、その後の動向も定期的にチェックしています。
(1)わかりやすい
(2)シンプル
(3)面白いと思ってもらえる
(4)論理構成がしっかりしている
■シリコンバレー流の仕事術を実践
メルカリを創業してから5年が経ちました。正直、ここまで会社が大きくなるとは思っていませんでした。もちろん大きくなることを目指していましたが、時代の波に乗ったり、スマホが普及するタイミングで参入できたりしたことがやはり大きかったと思っています。だからこそ、今の恵まれたポジションを活用して世界を目指して、多くのチャンスをつかんでいきたい。
なぜ海外にこだわるのかといえば、マーケットが大きいからです。インターネットオークションの市場規模も10倍くらい違う。可能性に投資をするのは、難易度は高いですが、成功したときのリターンが大きいという意味で、十分、勝負する価値があると思います。現在、日本、アメリカ、イギリスでサービスを提供していますが、世界中の国に進出し、最終的にはすべての国と国をまたいで使われるサービスにしていきたいですね。
現在の従業員数はグローバルで1000人強、うち外国人は20カ国以上から採用しています。メルカリでは日本人、外国人関係なく、実力主義です。18年10月には新卒でインド人のエンジニアが約30人入社予定です。日本ではコンピュータサイエンスの学生が非常に少ないのが現状です。将来的にエンジニアの社員を1000人以上にしたいのですが、日本人だけでは足りないので、半分くらいは外国人を採用しなければならないと考えています。
私たちはシリコンバレー流の仕事を実践しています。例えば、グーグルをはじめとしたグローバル企業が採用している目標管理手法OKR(=Objectives and Key Result〈目標と主な成果〉)を導入し、ストックオプションなど会社の構造自体も日本企業というより、グローバルスタンダードに近いものを採用しています。そうしなければ、グローバルでよい人材を採ることができないからです。
外国人エンジニアをどんどん採用すれば、コミュニケーションも自然と英語になります。もちろん日本人社員に対しては英語研修や通訳のサポートを行っていますが、社内での告知、ビジネスチャットの「Slack(スラック)」ほか、全社会議の資料は今ではもうすべて英語と日本語が併記されています。
これからメルカリのサービスは、テクノロジーで差別化を図っていく局面に来ています。その意味では今後、メルカリはテックカンパニー(テクノロジー企業)に転換していきたいと考えています。イメージとして目指しているのは、エンジニアの楽園とも言われるグーグルです。グーグルはエポックメーキングな会社であり、グーグルが登場する以前と以後では働き方も非常に変わったと思います。グーグルもフェイスブックも検索やSNSといった大きな市場で大きなビジネスをつくったからこそ、できたことだと思います。メルカリもCtoCという大きな市場で、マーケットプレイス的なビジネスを軸にこれから大きく成長していきたい。グーグルやフェイスブックのような会社になりたいと考えています。
■これが3億円の出資をゲットした事業計画書だ!
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メルカリ会長兼CEO
1977年生まれ。早稲田大学在学中に、楽天で「楽天オークション」の立ち上げを経験。卒業後の2001年、ソーシャルゲームなどを手がけるウノウ設立。10年、ウノウを米ジンガに売却。世界一周旅行を経て、13年2月、メルカリ創業。17年4月から現職。
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(メルカリ会長兼CEO 山田 進太郎 構成=國貞文隆 撮影=村上庄吾 写真=AFLO)
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