"エセ医学"にすがるがん患者の残念な末路
プレジデントオンライン / 2018年10月13日 11時15分
■がん告知で思考が止まり根拠のないエセ医学に……
一口にがんといっても、さまざまな種類が存在します。体のどの部位にできたのか、進行状況がどうかによって治療方針は個別に異なってきます。
治癒を目指したときに、胃がん、大腸がんの場合は手術で治せるがんの代表例といってもいいでしょう。また、抗がん剤に対する感受性の強い白血病のような血液のがんや男性の精巣腫瘍などは抗がん剤の投与のみで治癒を目指します。一方、食道がんや頭頸部がんでは、手術と同等な利益が得られるのであれば、形態や機能を温存できる放射線治療も念頭に置くべきです。
がんは早い段階で発見できれば、かなりの確度で完治が期待できます。その場合、根治性を維持しながら、できるだけストレスの小さな治療方法も選択可能となります。内視鏡的切除がそれに相当します。
ここで求められるのが患者さんのリテラシー、すなわち、情報を正しく吟味し、大切な意思決定に生かしていく能力です。そうでないとがんを告知されたときに思考が止まり、根拠のない安易なエセ医学に引っ張られかねないからです。時間とお金のみが一方的に奪われ、後戻りのきかない後悔を抱えている患者さんは少なくありません。
がん治療では、標準治療とか先進医療という表現が使われます。標準治療は、安全性と有効性が臨床試験でしっかりと証明された「推奨レベルの最も高い最良治療」とされており、日本ではほとんどにおいて保険診療が可能です。一方で、アメリカで標準治療を受けようとすると、個人でいい保険契約をしておかなければ、非常に高額な治療費が請求されます。結果的には、日本のほうが恵まれていると考えてよいでしょう。一方、先進医療は現段階ではまだその有用性が十分に確立されていないテスト段階の暫定治療なので、治療費は自己負担となるわけです。
■民間療法に陶酔したS・ジョブズは標準治療に戻った
先進医療で代表的なものが「粒子線治療」です。よく「切らずに治す」との謳い文句で注目を浴びていますが、万能治療でも魔法の杖でもありません。現在の進歩した放射線治療を凌駕するエビデンス、つまりより優れていることを証明した根拠はありません。しかし、患者さんは「300万円も払うのだから見返りは必ずあるはず」と思いがちです。要するに、何のがんで、どのような状況に対して粒子線治療を選ぶべきか冷静に考える必要があります。
免疫療法は要注意です。それを語ってよいのは、オプジーボに代表される免疫チェックポイント阻害薬のみで、抗がん剤の一種として扱われます。しかし、多くのクリニックで行われている免疫療法は、本当に治療として成り立つのかさえ不明なモノばかりです。にもかかわらず、不当な広告をネット上で展開し、「あきらめない」「治る」という甘言を囁きながら、藁にもすがりたい患者さんを誘導する高額ビジネスが絶えません。
膵悪性腫瘍で亡くなったスティーブ・ジョブズ氏も最初はさまざまな民間療法に陶酔しましたが、最後には標準治療に戻ったといいます。いくらお金を積んでも治らないものが治るハイグレードな治療はこの世には存在しないことを意味します。
身近な「がん」は、人生や命に関わる重要なテーマです。お金を払えば解決できる病気でもありません。だからこそ、普段からリテラシーを育み、賢い患者になることが必要です。
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東京オンコロジークリニック代表
医学博士。外科医、腫瘍内科医。金沢大学医学部卒業後、東京大学附属病院などを経て現職。著書は『大場先生、がん治療の本当の話を教えてください』など。
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(東京オンコロジークリニック代表 大場 大 構成=岡村繁雄 写真=iStock.com)
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