プログラミング教育の肝は"教えない"こと
プレジデントオンライン / 2018年10月5日 9時15分
※本稿は、『知識ゼロのパパ・ママでも大丈夫! 「プログラミングができる子」の育て方』(日本実業出版社)を再編集したものです。
■子供は宿題より「遊び」を優先するべき理由
2020年にプログラミング教育が小学校で必修化される。私が主宰しているフリースクール「YESインターナショナルスクール」でも、数学とプログラミングの教育には力を入れている。
そもそもプログラミングとは、一言でいえば、コンピュータを自在に動かすためのものだ。AI(人工知能)、IoT、クラウド、RPA(ロボット)、フィンテックなどが急速かつ高度に発展・普及する現代社会において、そのテクノロジーの中心にあるのはコンピュータであり、それらを扱うためにはプログラミングが必要になる。つまり、プログラミングは、「読み書きソロバン」のような、社会人にとっての必須スキルとなる。これを否定する人はいないだろう。
■プログラミングは「教えない」のが教えるコツ
「プログラミング教育って、何からはじめればいいのですか?」
こんな質問を、お父さんお母さんからよくいただく。
そんなとき、私はこのようにお答えしている。
「実は、教えないのが、教えるコツなんです!」
どのようなことか。小学生のうちから、やれCだ、Pythonだのといったプログラミング言語を詰め込み式で教えることには意味がない、ということだ。覚えたりコピペしたりすることでプログラミングのまね事はできても、それでは質の高いプログラムは書けるようにならない。したがって、高給取りのプログラマーにはなれない。
プログラミングに大切なことは、問題を発見し、その解決方法を創造する力だ。これは、暗記式の勉強では絶対に身につかない。それを身につけるには、子どものうちから、自分で考えて自力で解決するトレーニングをさせるのがいい。
逆に、子どもに「勉強しなさい」と強制するのは最悪だ。「勉強しなさい」といわれて勉強ができるようになった子どもはいない。「勉強しなさい」「ゲームをやめなさい」「早く寝なさい」、私はこれらの言葉は、すべて逆効果であり禁句だと思っている。
では、強制もせず、教えもせずに、子どもをプログラミングの世界にうまく誘導してあげることができるのだろうか。
それには、楽しい体験をさせて、子どもが自分からプログラミングに興味をもつように仕向けよう。実は、それが得意なのは、学校の先生ではなく、プロのプログラマーだ。プロのプログラマーは、いうまでもなくその道のプロだから、子どもたちはきっとその言動を見て「スゲー」と感銘を受けたり、そうしたプロの技やプロの一挙手一投足をまねしようとしたりするだろう。
けっして押しつけたり強制したりしない。子どもたちの知的な興味を引き出し、自発的にプログラミングを学びたい、と思わせたらしめたものだ。
■「宿題」よりも身体を使って思い切り「遊ぶ」こと
私のフリースクールでも、その道のプロフェッショナルに指導を依頼しているのだが、親御さんから「もっと宿題を出してください」と言われることもある。そのときに私は、「いえいえ、そんな暇があったら、もっと外で遊ばせたほうがいいですよ」と話している。
![](https://president.jp/mwimgs/6/1/-/img_61ada08fa073d67d7422ac53f23e001f127362.jpg)
みなさんはネコの親子が何気ない遊びの中でじゃれているのを見たことがあるだろう。ネコ科の動物は、こうした遊びのなかで狩りの方法を学んでいる。野生の世界で生きるライオンやトラは狩りをして生きていくしかない。しかし、子どもがいきなり本番の狩りをしようとしても、捕食される動物も必死で逃げるから失敗してしまう。そこで親ライオンは、子どものうちから、遊ばせながら狩りの方法を、すなわち「サバイバルの技術」を教えているのだ。
遊びながら学ぶことが重要なのは、人間も同じだ。
私が小学校のころを振り返ってみると、同級生には「ガリ勉くん」が大勢いた。みんなが遊んでいるのに、その子たちは親に遊ばせてもらえず勉強ばかりさせられていた。もちろん、そのような子たちは成績も優秀だった。しかし、それは小学校のときだけで、中学校に入ってしばらく経つと、成績がどんどん落ちてしまった。
それはなぜか。私は、「身体性」の獲得に失敗したからだと考えている。
実は、勉強する力や勉強の成果は、身体性があってこそ伸びるものだ。そして、遊びには、身体性がつきものである。屋外での遊びはもちろん、将棋や囲碁のような室内ゲームでさえ、駒を動かす、碁石を打つという身体性を伴っている。
つまり、子どもが小さい時期にやらなければならないのは、「遊ばずに勉強すること」ではなく、「遊んで身体性の器を大きくすること」なのだ。
小学校までに身体性の器を大きくできた子どもたちが、中学生になって本気で勉強をはじめたとき、本当の意味での学力を身につけることができる。なぜなら、彼らは勉強を楽しむ「遊び心」を身につけているからだ。
■東ロボくんの東大合格断念から学ぶこと
身体性の重要性を裏づけるのが、「東ロボくん」の存在だ。
東ロボくんとは、日本の国立情報学研究所が中心となって、2011年から2016年にかけておこなわれた、「ロボットは東大に入れるか」というプロジェクトで研究・開発が進められた人工知能(AI)だ。
この東ロボくんは、偏差値57.1と、国公立大学も狙えるところまで成績を上げたものの、東大合格は不可能と判断され、開発は凍結、2016年11月に東京大学合格を断念することになった。
なぜ東ロボくんは東大に合格できなかったのか。これについても、ひと言で言えば身体性が獲得できなかったからだと私は見ている。いくら過去問ばかり勉強しても、学校に行った経験がない、友達や先生と外で体を動かして遊んだ実体験がないからだ。
■身体も失敗の経験もないロボには限界がある
たとえば、こんな読解問題はどうだろうか。
この文章に自然に続く文章は次のどれでしょう?
1『私は遅刻した。』
2『試験には宿題の問題も出る。』
3『Kくんはきっと先生にしかられるだろう。』」
簡単だろうか? 正解は3番で、人間なら正解を導くのはむずかしいことではない。でも、東ロボくんはこのような簡単な読解問題が苦手なのだ。頭でっかちで過去問の世界しか知らない東ロボくんは、人間社会の暗黙のルールがわかっていない。つまり、常識に欠けている。なぜなら、東ロボくんには身体がないので、自分で学校に行って、失敗した経験がないからだ。
実は、社会におけるさまざまな経験は、身体あってのことなのだ。遊びや実体験を通じて獲得した身体性が、問題発見力、問題解決力を養うのである。
だから、身体性はプログラミングを学ぶうえでも重要だ。私の学校のプログラミング授業では、体を動かすトレーニングも積極的に取り入れている。
「前に歩こう!」といったら子どもたちは前に歩く。「ジャンプしよう!」といえば子どもたちがジャンプする。このように、まずは体で覚えさせてから、はじめてタブレットを使ってプログラミングのゲームをおこなうのだ。
そのゲームにしても、まずは子どもたち自身がキャラクターになって動くことを体で覚えることで、空間認識能力を身につけていく。こうした授業が、身体性を獲得し、学びの成果を最大化する重要なポイントなのだ。
身体性は、人間にしかできないことを創造する力の源泉になる。コンピュータやプログラミングに親しませると同時に、子どもにどんどん遊ばせる。その遊ばせた分だけ、子どもの可能性の伸びしろをさらに大きく伸ばすのだ。
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サイエンスライター。1960年生まれ。東京大学教養学部教養学科(科学史・科学哲学専攻)、東京大学理学部物理学科卒業。マギル大学大学院博士課程修了(素粒子物理学、宇宙論専攻)。理学博士。2016年春に小学校レベルのフリースクール「YESインターナショナルスクール」を設立し、校長に就任。日本語と英語、プログラミングを学ぶ「トライリンガル教育」を実践。『99.9%は仮説』(光文社新書)、『ペンローズのねじれた四次元』(講談社ブルーバックス)など著作多数。テレビ、ラジオ、講演など執筆以外にも多方面で精力的な活動を続けている。
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(サイエンスライター 竹内 薫)
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