応援団も"飽き"を隠せない安倍政権の驕り
プレジデントオンライン / 2018年10月5日 9時15分
■政権復帰以降で最も多い「初入閣」の背景
入閣待機組の「在庫一掃セール」とからかわれても仕方ないだろう。
第4次安倍改造内閣が10月2日に発足した。その顔ぶれは、どう見ても自民党総裁選の論功行賞そのものである。初入閣が12人を占め、その数は2012年の自民党の政権復帰以降で最も多く、各派閥がこれまで入閣させたかったベテラン議員が目立つ。
政権の骨格となる側近らを留め置き、その一方で自民党各派閥の要望を大幅に取り入れて党内力学に目配りした布陣だ。対抗馬だった石破茂元幹事長の石破派にもポストを用意した。
安倍晋三首相は、来年の参院選勝利や待望の憲法改正実現に向け、党内を安定させ、融和を図りたいのだろう。
3日付社説で新聞各紙は一斉に安倍改造内閣をテーマに取り上げた。さっそく各紙を読み比べたいが、今回はその前にベテラン記者が書いたコラムを取り上げたい。
■「正直さ」と「謙虚さ」が今度も見えない
筆者は読売新聞特別編集委員の橋本五郎氏。1面左肩(東京本社発行、10月3日付)に「拝啓 安倍晋三様」「『画竜点睛』何が必要か」との見出しを立て、掲載されたものだ。
橋本氏は「安倍内閣は今回の改造によって文字通り第4コーナーを回ることになります」と書き出し、「日本憲政史上最長の内閣」の可能性を指摘した後、訴える。
「大切なのは国民の信頼を背に、何を成し遂げるかにあります」
まさに橋本氏の言う通りで、安倍首相の第4次改造内閣が成功するかどうかは、国民の信頼をどこまで得られるかにかかっている。
沙鴎一歩は国民の信頼を逸していると信じて疑わないが、橋本氏は違う。「国民のために必要だと真摯に訴えればある程度理解されるのです」と安倍首相を励まし、そのうえで鞭を打つ。
「森友・加計問題では身にしみたと思いますが、国民の信頼を取り戻す努力がいっそう大切になります。その場合何よりも大切なのは『正直さ』と『謙虚さ』だと思います」
コラムの最後でも「そのためには思い切った若返りが必須になります。その姿が今度も人事で見えません。何とも残念です」と書く。ですます調の効果もあるだろう。橋本コラムは鞭は鞭でも「愛の鞭」だ。読売新聞は安倍政権擁護の論陣を張っているが、そのなかでも橋本氏のコラムは圧巻だった。
安倍首相はこのコラムを読んだだろうか。この機会に「安倍1強」による驕りと緩みを強く反省してもらいたい。
■読売の「政権擁護」の主張はもう読み飽きた
一方、同じ3日付の読売新聞の社説は、中盤でこう主張する。
「首相復帰から間もなく7年目に入るが、守りに入ることは許されまい。漫然と目の前の課題の処理に追われるようでは、国民の間に『飽き』が広がろう」
「長期政権ゆえの緩みや驕りが目立つ中、内閣全体が緊張感を保ち、優先順位を付けて政策を遂行することが重要である。その努力を怠れば、内閣は直ちに失速することを、首相は肝に銘じるべきだ」
読売新聞の社説としては、安倍首相にかなり厳しく注文をつけている。
続けて読売社説は「政権の総仕上げを果たすためには、来年夏の参院選を乗り越える必要がある。今秋から来年にかけて、国内外の懸案を確実にこなすことが大切だ」とも主張する。
これがいけない。政権の総仕上げはあくまでも国民の信頼をしっかりと得られてのことである。
信頼獲得ができなければ、解散総選挙となり、安倍政権に代わる新政権が誕生する。
それが政治や政治家の運命であり、何も大新聞が安倍首相や安倍政権のために主張を繰り返す必要はない。ここが読売新聞が「政権擁護」と言われてしまう理由だ。
1人の読者として読売新聞の政治担当の論説委員に言いたい。政権擁護の主張はもう読み飽きた、と。この論説委員は、1面にあった橋本氏のコラムをどう読んだのだろうか。
■甘利氏の「復権」を徹底追及する朝日
アンチ安倍政権の朝日新聞の社説(10月3日付)は、半本だった。見出しも「信頼回復には程遠い」と手厳しい。
書き出しでも「総裁選で支持してくれた派閥にポストで報いる。『政治とカネ』の問題を引きずる側近も、党の要職に据える。こんな内向きの人事では、政治や行政への信頼を取り戻し、難しい政策課題に取り組む足場を固めることなどできはしまい」と強く批判する。
「内向きの人事」とは言い得て妙である。
朝日社説は「党人事で見過ごせないのが、金銭授受疑惑で2年前に閣僚を辞任した、盟友の甘利明・元経済再生相を党4役である選挙対策委員長として『復権』させたことだ」とも指摘する。
さらに具体的に訴える。
「甘利氏はきのう、『私、秘書とも刑事訴追されていない』と釈明した。確かに、検察は不起訴処分としたが、あっせん利得処罰法はかねて抜け道の多いザル法と指摘されている。何より、甘利氏が当時、説明責任から逃げ続けたことを忘れるわけにはいかない」
朝日社説が主張するように、甘利氏には説明責任がある。そんな人物が選挙対策委員長では自民党の参院選での勝利は期待できない。
朝日社説は「来年の統一地方選、参院選で国民に広く支持を求める立場についた以上、甘利氏には改めて、納得がいくまで丁寧な説明を求める」と甘利氏をとことん追及する。
新聞社説には国家権力に対抗しようとする強い意識が必要だ。ときに朝日社説は過激に走ることもある。読者に対する説得力を失わずに論を展開していってもらいたい。
■安倍首相は「女性活躍」に本気ではない
朝日社説は「『女性活躍』を掲げながら、女性閣僚が1人というのも、看板倒れだろう」とも批判しているが、毎日新聞の社説(10月4日付)はそれをひとつのテーマとして扱い、「女性閣僚たった1人」「本気でないのが明らかに」という見出しを掲げて批判する。
「安倍晋三首相を含む20人中、女性は地方創生・女性活躍担当の片山さつき氏ただ一人。政権は政府や民間企業に、女性の意思決定参画度などを数字で表す『見える化』を求めてきた。まさに旗振り役の本気度のなさが見え見えになった形だ」
「『女性が活躍する社会』を看板政策にしながら、どういうことか。記者会見で問われた首相は、『日本は女性活躍の社会がスタートしたばかり』と釈明した。就任から5年半以上たった首相の言葉ではなかろう」
毎日社説は朝日社説と肩を並べて安倍政権には厳しい。「本気度のなさ」「首相の言葉ではなかろう」という書きぶりからもそれがうかがえる。
そして毎日社説は主張する。
「この間、本気にさえなれば、女性の国会議員を増やし、閣僚となるべき人材も育てられた。足りなければ民間からの起用もできたはずだ」
「派閥の領袖の意見を聞いているうちに女性は1人になってしまったようだ」と分析する新聞記事もあったが、実は本気になっていなかっただけなのだ。今回の毎日社説はそのことをうまく書いている。
毎日社説は「『閣僚待ち』状態の男性議員を多数入閣させ、党内のバランスをとる内輪の事情があったのだろう。しかし『女共同参画』は、国内外で繰り返してきた約束だったのである」と指摘した後、皮肉を込めて主張する。
「安倍氏は『紅一点』となった片山氏について、『超人的なガッツの持ち主』であり、『2人分、3人分の発信力を持って仕事をしていただける』と述べた」
「軽い調子の発言かもしれないが、男性以上の働きを示さなければ女性を一人前として認めない風潮が、女性の社会進出を阻んできたことを忘れてはならない」
やはり安倍晋三という男は、「女性が活躍する社会」の重要性を分かっていない。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)
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