希林さんのような"見事な最期"5人の実例
プレジデントオンライン / 2018年10月8日 11時15分
■樹木希林が娘に「(私を)置き去りにして」と言った理由
女優の樹木希林さんが亡くなりました。その“生き様”は、夫の内田裕也さんに「見事な女性でした」と言わしめるものでした。
葬儀では娘の也哉子さんが「おごらず、人と比べず、面白がって、平気に生きればいい」という希林さんの言葉を紹介していましたが、この言葉が胸に響いた方も多かったと思います。
希林さんのような覚悟を持って、それを貫き、生涯を閉じるということはとても難しいことだと想像しますが、今回、筆者はその難しさを承知の上で「人生の冬支度」というテーマで綴ってみたいと思います。
筆者は介護アドバイザーとして、高齢者の介護に関わっているプロの方々、また、そのご家族からお話をうかがう機会があります。今回は、その中で「こんな風に生きて、死ねたら理想だな」と感じた5つの事例をご紹介させてください。
【1:自分の人生を人任せにしないという思考で生きる】
9月26日放送のNHKスペシャル「“樹木希林”を生きる」で、希林さんは自らの余命を悟った上で、娘の也哉子さんにこう話す場面がありました。
「(私を)置き去りにしてって言っているの。みんな、ジリツしてくれって……」
筆者はこの“ジリツ”という言葉は“自立”よりも、むしろ“自律”を希林さんは意識していたのではないかと想像します。つまり、「他からの支配や助力を受けずに、存在すること」ではなく、「自分で自分をコントロールし、自分の意志によって行動できること」に重きを置いていたのではないでしょうか。
自身がそう生きてきたように、娘さんたちにも、母を棄てることに罪悪感を感じず、自分の暮らしを大切にしてほしい。それが幸せにつながる道だから。そんな意味を含んだ言葉だと私は解釈しました。
■希林さんと同じような考えだった末期ガン77歳男性
先ごろ、亡くなられた潔さんという77歳の男性も希林さんと同じような考え方をしていました。末期ガンで余命1年と診断された後は、すべての財産を処分し、公正証書遺言を作成した上で、実子に葬儀式次第、死後やるべき手続き、挨拶をしなければならない人などを明記した「エンディングノート」を託したそうです。
当然のようにリビングウィル(尊厳死の権利を主張すること)にも加入し、延命治療は拒否。看取りを引き受けてくれる医院併設の老人ホームを自ら探し出し、実子にすら「見舞い無用」と言って、そこにひとりで引っ越したそうです。
例え、実子といえども、自分のことで暮らしのリズムを崩してくれるなということが潔さんの願いだったと、娘さんに聞きました。
「エンディングノート」などを使って、希望を伝えるということの良さは、むしろ託された側にあるのです。託された側は、できる限り、その思いをかなえようと動きますので、それが結果的に、永遠の別れを迎えることになったとしても「これが親の意志だった」と思い切れます。
他人任せにせず、最期まで「自分の人生を生き切る」という意志を持つことが、旅立つ側、見送る側、双方に納得感がある幕引きになる。そう感じさせる事例でした。
■「それは慎まねばなりません。そういう年になったのです」
【2:「お天道様が見ている」という思考で生きる】
90歳を超えた貴代さんという女性も希林さんに負けず劣らず、素晴らしい生き方をした人でした。この方は観劇が趣味で毎月のように、都心までの片道1時間、おひとりで電車に乗って出かけていました。
ところが、90歳の誕生日を迎えた途端、都心への観劇には一切出かけなくなったそうです。要介護認定も受けていないほどお元気だったのですが、息子さんは「ひょっとして具合が悪いのか?」と心配します。
すると貴代さんは「どこも痛くもないし、具合も悪くない」と。それならば、と息子さんはこう言います。
「ひとりで行くのが不安ならば、一緒に行くよ。俺のことなら全然、迷惑じゃないから」
ところが、貴代さんは息子さんにこう返したそうです。
「いくら、あなたが『迷惑じゃない』と言ってくれたとしても、(私が出かけることは)『世間様のご迷惑』。そういうことは慎まねばなりません。そういう年になったのです」
息子さんは筆者にこう言いました。
「母は常日頃から『誰も見ていないと思っても、お天道様が必ず見ておられる』『お天道様に恥ずかしくない生き方をせねば』と言っていたのです。自分の我を通すことで、誰かの迷惑になってはいけない、分相応をわきまえるという生き方を貫き通した人でした」
貴代さんはその数年後、もうひとつの趣味である庭いじりをしている最中に倒れ、そのまま亡くなったということでした。
■「おいしく頂けて幸せ」「手足を伸ばして寝られて幸せ」
【3:「おかげ様」思考で生きる】
こちらは懇意にしているケアマネージャーに聞いた話です。
美津子さんという「要介護1」の85歳の女性がいました。足が悪い以外は特にこれといった疾患もなく、身の回りのことも全部、自分でしていたそうです。美津子さんは、ケアマネが訪問する時も含め、どんな人にも必ず「おかげ様で」「ありがとう」という言葉を添える方だったそうです。
ケアマネはこう言いました。
「ご家族に聞いたらね、人間にだけではなくて、例えば、お食事をする、寝床で眠る、そういう何でもない日常生活に対しても『おいしく頂けて幸せ』『手足を伸ばして寝られて幸せ』『ありがたい』という感謝の言葉を頻繁に口になさるんですって」
ある夜、美津子さんが同居の家族にこう告げたそうです。
「今まで、本当にお世話になりました。なんだか、今夜、お迎えが来るような気がしてね。それで、今、お風呂に入って念入りに体を洗ってきたところ……」
そして「ありがとう」の言葉を残して美津子さんは床につき、ふすまの向こうからはいつもの寝息が聞こえてきたそうです。「冗談」だと思い込んでいた家族ですが、翌朝、美津子さんは本人が言ったとおりに旅立ったそうです。
「美津子さんの死に方は理想。かくありたいものだよね……」とは、そのケアマネの言葉です。こういう亡くなり方もあるのだなぁと思っています。
■「みな嫌がるけれど、シワやたるみは勲章よね」
【4:「これもまた善し」という思考で生きる】
年齢を重ねると、体の各部位が思うように機能しなくなり、シワやたるみといった“経年劣化”も感じるようになります。
それが、どれほどの“恐怖”なのだろうと思うと、筆者は年を取ることが怖くなっていました。ところが、桂子さんは違いました。ある老人ホームで知り合った桂子さん(当時81歳)は筆者にこう言ったのです。
「こんなところにいつのまにかシワができるなんて、面白いと思わない? 気が付いたら、できているなんて、それまではどこに隠れているのかしらね(笑)。みんなは嫌がるかもしれないけど、これも年を取ったからできたことで、いわば勲章よね……」
そして筆者に続けて、こう教えてくれました。
「この世は修行の場。いろんな嫌なこともあるけれども、それをも含めて『ああ、修行中の身だから、修行させようとしてくださっているのか……。ならばこれもまた、善し!』って、そのことを面白がれるようになるわね」
それから、数年。病が進んでも笑顔が絶えない桂子さんでしたが、ある時、誤嚥性肺炎であっという間に亡くなりました。
老人ホームの介護士さんたちが泣きながら「きっと『これもまた善し!』っておっしゃっていますよね……」とその遺影に語りかけていたシーンを思い返します。
【5:今よりもブラッシュアップするために生きる】
最後に久志さんという男性の話をします。
この方は89歳で、おまけに国指定難病に罹患されていました。徐々に手にしびれを感じるようになり、歩行も困難でしたが、ある日、パソコンの存在に気付きます。
そして、パソコンを使って自分史を作ろうと発奮したのです。お孫さんの協力を得ながら、キーボードでの作業をイチから覚え、一文字ずつ打ち込んでいきました。
約2年の年月をかけ、戦中戦後を生き抜いた「自分史」が完成したそうです。そして、その原稿が本として刷り上がってきた、その日に亡くなってしまいました。看取りをしたドクターによると、久志さんは当初の余命を大幅に超えた頑張りを見せていたそうです。
久志さんの娘さんから聞いた話です。
「父は『人間はいかなる時も目標を失ってはいけない』と言っていました。『常に勉強して、昨日よりも今日、“より良い人間になる”のだという気概が大事だ』ってこともよく口にしていましたね。父のことは本当に尊敬しています」
■死に向かって、この身をどう使っていくのか、という“覚悟”
以上、ご紹介した5人は、いずれもご自分なりの人生観を持ち、生き抜いた方々です。希林さん同様に、自律をまっとうされた方々です。共通しているのは、「人は死に向かって生きていく」といった哲学を持っていること。死に向かって、この身をどう使っていくのか、という“覚悟”をもって生きていたと思うのです。簡単にできることではないでしょう。しかし、その姿勢に学ぶことは多いのではないでしょうか。
筆者は、両親の介護を通して「どう死ぬのかは、どう生きるのか」とイコールであるという実感を抱いています。とても難しい課題ですが、樹木希林さんの生き方は改めて、私たちに「あなたはどう生きますか?」と問いかけているように思うのです。
(エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー 鳥居 りんこ 写真=AFP/アフロ、iStock.com)
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