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病気やケガのとき"役所からもらえるお金"

プレジデントオンライン / 2018年11月22日 9時15分

公的な備えとして、公的年金、健康保険、介護保険、雇用保険などの制度がある。加えて、民間の備えである生命保険、がん保険、年金保険、住宅ローン付帯の保険などで補えば、経済的な不安はより軽減される。

幸せな家庭を襲う病気や介護。突然の大出費をサポートする制度を適切に使いこなし、必要なお金を必要なときに得るためのポイントを専門家に聞いた。
病気編
黒田尚子

■制度は豊富にあり。見逃さずに申請を

病気やケガをしたとき、治療やそれに伴う痛みへの不安はもちろんのこと、同時に頭をもたげてくるのはお金のこと。万一の医療費や療養中の生活費は、病気にまつわる心配事の上位にあがってきます。病気やケガをすると経済的リスクが発生するのは事実です。でも、日本には、それをカバーできるさまざまな公的保障があることをご存じでしょうか。

たとえば、医療費が高額になったら健康保険の「高額療養費」、障害が残ったら年金保険の「障害年金」がもらえるほか、雇用保険や福祉サービスにも病気やケガによる経済的負担を軽くできる制度があります。

とはいえ、これらは病気になればいつでも自由に使えるわけではなく、利用できる期間や障害の状態が決まっています。どのタイミングでどんな制度を使えるかを知っておかないと、せっかくの制度も使えるチャンスをみすみす逃すことに……。

そんな失敗をしないように、ここでは病気やケガをしたときに「もらえるお金」を、病気の発症から進行していく過程に合わせて時系列で確認していきましょう。

■高額療養費は、世帯合算も可能

まず、治療中の医療費の自己負担を抑えられるのが健康保険の「高額療養費」です。通常の治療では、病院や診療所の窓口で年齢や所得に応じてかかった医療費の1~3割を負担します。でも、がんなど大きな病気をして医療費が高額になると、一部負担金を支払うだけでも大変です。そこで、健康保険では1カ月に患者が自己負担する医療費に上限を設けて、家計に過度な負担がかからないように配慮しています。

写真=iStock.com/baona

現在、70歳未満の人の高額療養費の限度額は所得に応じて5段階。たとえば年収約370万~770万円の人は【8万100円+(医療費-26万7000円)×1%】。1カ月の医療費が100万円かかっても自己負担するのは約9万円です。高額療養費は、いったん窓口で1~3割の一部負担金を支払ったあとで、限度額との差額を払い戻してもらう方法もあります。

しかし、所得区分を証明する「限度額適用認定証」を医療機関の窓口に提示すると、最初から限度額までを支払えばよくなります。この認定証は加入している健康保険で発行してもらえるので、入院や手術をしたり、継続的に通院したりする場合は、早めに入手しておきましょう。

高額療養費にはほかにもオプションの保障もあり、療養が長引いたときに役立つのが「多数回該当」です。医療費が高額になった月が直近1年間に3回以上になると、4回目から1カ月の限度額がさらに引き下げられ、前述の一般的な所得の人なら4万4400円です。

原則的に高額療養費の計算は個人ごと、1カ月ごと、医療機関ごとに計算しますが、「世帯合算」の申請をすれば、同時期に使った家族の医療費や個人で複数の医療機関を受診したときの医療費をまとめて申請できます。合算できるのは同じ健康保険に加入している家族の医療費で、自己負担額が2万1000円を超えていることが条件です(70歳未満の場合)。例外は院外処方の薬代。高額療養費の対象になった病気の治療で、医師に処方された薬は金額にかかわらず合算対象になります。ただし、世帯合算の手続きは医療機関では対応してもらえないので、自分で健康保険に申請してください。

おもに大企業の従業員が加入する組合管掌健康保険(組合健保)は、法定給付に加えて独自の保障を上乗せする「付加給付」のある組合もまだまだあります。高額療養費の限度額が所得に関係なく月2万~3万円など充実した保障のところもあるので、自分が加入している健保組合の保障を調べてみましょう。

医療費がたくさんかかった年は確定申告でお金を取り戻すことも可能です。原則的に1年間に支払った家族みんなの医療費が10万円を超えると「医療費控除」の申告ができて、所得税の還付を受けられる可能性があります。2017年分の申告から薬局で購入した市販薬(スイッチOTC)が1万2000円を超えると税制優遇を受けられる「セルフメディケーション税制」も始まりました。ただし、利用できるのはどちらか一方なので、支払った医療費によって有利なほうを選びましょう。

手続きを忘れていた場合も、高額療養費も医療費控除も過去に遡って申請可能です。ただし、いずれも時効があり、前者は2年、後者は5年。申告時に慌てないで済むように、医療費関係の領収書はまとめて保管しておくことをお勧めします。

■退職日に働くと、給付打ち切りに

治療後、すぐに社会復帰できればいいけれど、なかには療養が長引いて休職せざるをえないケースもあります。そうなると「収入がなくなるのでは?」と不安になりますが、会社員が病気やケガで仕事を休んで勤務先から給料をもらえなかったり、減額されたりした場合は、療養中の所得補償として健康保険から「傷病手当金」がもらえます。給付要件は「労務不能」の状態なので、病院に入院していればもちろんのこと自宅療養も対象です。

1日あたりの給付額は、休職前12カ月間の平均日給の3分の2。会社から給料が支払われていても、この金額に満たない場合は差額がもらえます。給付期間は、病気やケガで連続して3日休んだあとの4日目から最長1年6カ月の間に実際に休業した日数です。1年6カ月分まるまるもらえるわけではないので、その点はご注意を。ただし、「以前、心筋梗塞で休業して傷病手当金をもらったが、今度はがんになって休職した」というように因果関係のない病気になると、それぞれ最長1年6カ月ずつ傷病手当金をもらえることは覚えておきましょう。

もうひとつ注意したいのが、傷病手当金の受給期間中に退職することになった場合です。本来ならあってはならないことですが、休業が長くなってくると、「治療に専念しては?」と体のよい肩叩きに遭うことがあるようです。

そうした退職勧奨に応じる義務はありませんが、病状によっては仕事を続けるのが難しいこともあります。そのとき、受給期間が残っていれば、仕事を辞めて勤務先の健康保険の資格を喪失しても引き続き傷病手当金の給付は受けられます。ただし、受給要件は「連続して3日休んだあとの4日目から」なので、退職日(健康保険の資格喪失日)に会社に挨拶しに行って出勤扱いになると給付が打ち切られてしまいます。挨拶は資格喪失日の3日前までに済ませておくのが鉄則です。

■働けない場合は、ハローワークで申請

退職後の健康保険は、(1)サラリーマンの家族の被扶養者になる、(2)前の勤務先の健康保険の任意継続被保険者になる、(3)国民健康保険に加入する、という3つの選択肢があります。

(1)の被扶養者は、保険料の負担なしで健康保険に加入できるので、サラリーマンの家族がいて自分が年収要件を満たしているなら第一候補です。ただし、高額療養費の多数回該当は、健康保険が変わると継続できません。病気の治療が続いていて毎月のように高額な医療費がかかっている場合は、(2)の任意継続被保険者のほうが安心です。とくに独自の「付加給付」がある健保組合なら、(2)を利用したほうが医療費の負担を抑えられるので、退職後の健康保険は、保険料だけでなく、健康状態や付加給付の有無を考慮して選んでください。

通常、退職するとハローワークで雇用保険の「基本手当(失業給付)」の受給手続きをします。1日あたりの給付額は、退職前の6カ月間の給与を180で割った金額の50~80%。年齢や勤続年数、離職理由に応じて90~360日間給付を受けられます。でも、傷病手当金をもらっている間は失業給付を同時に受け取ることはできません。失業給付の受給期間は原則的に離職した日の翌日から1年間なので、傷病手当金の受給中に失業給付の受給資格が消滅してしまうことがあります。ただし、病気やケガ、出産などで30日以上働けない場合は、失業給付の受給開始を最長4年間延長できます。退職後も傷病手当金をもらっている人は、ハローワークで忘れずに失業給付の延長手続きをしておきましょう。

傷病手当金や失業給付で療養中の生活を乗り切り、その間に健康を取り戻して社会復帰できればいいけれど、なかには症状の改善を望めないこともあります。その場合は公的年金保険から「障害年金」をもらえる可能性がありますが、気をつけたいのは手続きのタイミング。障害年金は病気やケガで障害が残った人の生活を支えるための保障なので、原則的にその病気ではじめて受診した初診日から1年6カ月経過していないと請求できません。

■「身体障害者手帳」を取得すればNHK受信料は半額

例外的に、「永久人工肛門を造設した」「脳梗塞で麻痺が残った」など症状が固定したものは、1年6カ月を経過しなくても請求できますが、高額療養費のように病気になったらすぐにもらえるものではありません。障害認定日以前に申請しても給付は受けられないので、タイミングを見極めて最寄りの年金事務所で請求しましょう。

もらえる金額は障害の程度によって、障害基礎年金は1級と2級、障害厚生年金は1級・2級・3級があり、数字が小さいほど給付額は高額になります。

1度認定を受けても症状が悪化した場合は再申請できますが、2~3カ月はその等級のままになってしまうので、症状が進行しているときは様子を見て申請するほうが賢明です。

同時に「身体障害者手帳」を取得しておくと、所得税や住民税の減免、公共の交通機関の運賃割引など、生活のさまざまな場面で優遇を受けられます(内容は自治体で異なる)。たとえば、身体障害者手帳1級または2級を所持している人が世帯主の場合、NHK放送受信料が半額になります。身障者手帳は身体障害者福祉法で定められた障害のある人に対して、都道府県または指定都市が交付しているので、利用要件は障害年金とは異なります。年金はもらえなくても、手帳の利用はできることもあるので別途申請を。

障害に対する保障で、もうひとつ利用できるのが介護保険です。

介護保険は原則的に65歳以上で介護が必要にならないと利用できませんが、末期がんや脳血管疾患など加齢が原因の病気で介護を必要とする場合は、40~64歳でも利用可能。介護保険を使うには要介護認定を受ける必要がありますが、実際にサービスが使えるようになるまでには原則的に1カ月程度かかります。介護が必要になりそうになったら、早めに住所地のある「地域包括支援センター(包括)」等で要介護認定の申請をしてください。

病気やケガをしたときの保障は健康保険の給付だけではなく、雇用保険や介護保険、障害年金など複数の制度が網の目のように重なり合って、治療後の療養生活を支えるように設計されています。制度ごとに申請窓口は異なるので少々やっかいですが、自分の状況に合ったものを、早め早めに専門家や相談窓口で相談しながら適宜申請していくことが大切です。

治療や療養生活を支えるように、複数の制度が設計されているため、適切に申請していけば経済的損失はかなりカバーできる。逆に、給付を受けたいがために状況を改ざんして申請すると、辻褄が合わなくなって結局損をする可能性もある。
介護編
おちとよこ

■要介護認定が肝。区分変更申請も

総務省統計局の「就業構造基本調査」(2012年)によると、11年10月から翌年9月までの1年間に、家族の介護などのために退職した人は10万1100人。「介護離職」は大きな社会問題になっています。

Getty Images=写真

介護の始まりは、誰でもある日突然です。準備のないまま親や配偶者の介護に直面したことでパニックになり、仕事を辞めてしまう人があとを絶ちません。でも、介護は「いつまで」と区切ることができません。

生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査」(15年度)によると、介護期間の平均は4年11カ月ですが、4~10年と答えた人も約3割います。当初は貯蓄や退職金で介護できても、長引けば自分の暮らしもままならなくなり、共倒れした例を数多く見てきました。長丁場の介護を乗り切るためにも、くれぐれも仕事を辞めて自分が直接介護しようと思わないこと。実際の介護はプロに任せ、親族は介護環境を整えるマネジメント役に徹しましょう。

私自身、16年に及んだ父と母のダブル介護をしていたときは、何度も「仕事を辞めよう」という考えが頭をよぎりました。でも、その都度、公的制度と情報に助けられ、なんとか仕事と介護を両立させることができました。

現在、経済的な負担を抑えながら介護していくために利用できるおもな制度は、介護保険、障害者支援、市町村の補助の3つ。その中心になるのが介護保険で、介護が必要な人の負担を社会全体で担うために00年にスタートした国の制度です。原則的に65歳以上で介護が必要な人は誰でも利用できるので、まずは住所地にある包括に相談しましょう。包括は高齢者支援のよろず相談所で、介護に利用できるさまざまなサービスの紹介や支援、手続きを行っています。

ここで要介護認定の申請をすると自宅などに調査員が来て、チェックリストや聞き取りによる調査が行われます。

調査結果と医師の意見書をもとに審査が行われ、要介護度が決められます。要介護度は、非該当、要支援1・2、要介護1~5の8段階。非該当になると介護サービスは使えませんが、数字が大きくなるほど使えるサービスの限度額が増えていく仕組みです。たとえば、要支援1の1カ月の利用限度額は約5万円、要介護5は約36万円。

サービス料金は1単位あたり10円(地域によって異なる)を掛けた金額で、利用者は使ったサービス料金の1~2割(18年8月以降は1~3割)を負担します。ただし、限度額を超えると全額自己負担になります。

調査員が家に来ると、高齢者本人は日頃できないこともつい頑張ってしまいがちです。が、そうなると適切な認定が受けられないので、必ず家族も同席して「食事の見守りに1時間かかる」「衣類の着脱に1回20分のサポートが必要」など、かかる時間を具体的に伝えるのがコツです。

1、2割の負担といえども、まとまれば大変です。介護保険では「高額介護サービス費」という制度で、1カ月の自己負担額が一定ラインを超えると払い戻しを受けられるようになっています。たとえば年金収入280万円以上の人が要介護5で30万円分のサービスを使うと、2割負担なのでいったんは月6万円を支払いますが、1カ月の限度額は4万4400円なので、高額介護サービス費を申請すると、超過分の1万5600円が払い戻されます。

高額介護サービス費は世帯合算でき、申請すると、あとは自動的に市町村で処理します。また年間(8月~翌7月末)の介護費と医療費の自己負担額を合わせて基準額を超えると払い戻される「高額医療・高額介護合算療養費制度」も利用できます。同じ医療保険に加入していれば、家族の分も合算できるので各健保に相談をしてみましょう。

また、介護度には有効期間がありますが、いつでも「区分変更申請」ができます。自己負担が限度額を超えるようなら、ケアマネジャー、包括に相談をしてみましょう。

■事前申請必須! 先走り購入に注意

介護保険のサービスは、自宅で受ける「居宅(在宅)サービス」、施設に入所して受ける「施設サービス」のほか、住民票のある市町村でしか利用できない「地域密着型サービス」があります。

家事支援や排泄介助などの訪問介護、デイサービスやショートステイなどはもちろんのこと、介護度に応じて介護用ベッドや車椅子、杖など福祉用具のレンタルは全国どこでも受けられます。

レンタル料は1~2割負担で、搬入搬出、身体状態に合わせた機種交換や返却が含まれます。購入に比べレンタルのほうが、状態変化に応じてその都度、用具や機種を変えられるので使い勝手がよく、経済的です。

また、ポータブルトイレや入浴用の椅子など直接肌に触れ、他人が使ったものに抵抗がある特定福祉用具は、10万円まで1~2割負担で購入できます。

さらに住宅改修も介護保険の認定を受けると、手すりの取り付けなどの対象工事は、総額20万円までは1~2割負担で行えるようになっています。

私の場合、実家のトイレと浴室の改修、玄関と廊下の手すりの取り付けで、80万円を超える費用がかかりましたが、身体障害者手帳で自治体の補助を受けたおかげで、その大半が戻ってきました。20万円を超える工事には、多くの市町村が独自の補助をしています(所得制限あり)。

現在は、一定の要件を満たしたバリアフリー改修工事をして50万円以上かかると、「バリアフリー特定改修工事特別控除制度」で最大20万円の所得税控除が受けられます。また固定資産税の3分の1が減額される優遇制度もあるので、事前に税務署や市町村に確認を。

改修費用が介護保険の給付を超えても、身体障害者手帳や自治体独自の給付、税制優遇を余すところなく使えば、かかる負担はかなり軽くできます。

障害者手帳では、等級によって水道代や公共交通機関などの割引、自治体からの補助等が受けられます。

要介護申請をしても「非該当」になると介護保険は利用できませんが、17年4月からは、各市町村に介護予防、自立支援の拡充が課せられ、見守りや配食、通所サービスなど市町村の総合事業が始まっているので、確認を。

ただし、これらはすべて事前手続きや申請が必要。税控除は申告期限があります。情報は向こうからは歩いてきません。包括やケアマネジャー、障害福祉担当にどんどん聞いてみましょう。

これからは働きながら介護するのが当たり前の時代になります。介護保険や自治体のサービスを利用しても、容体の急変や緊急事態で、仕事を休まざるをえないこともあります。その場合は勤務先の年次有給休暇のほか、介護支援制度を上手に活用しましょう。

国の法律では、介護が必要な家族ひとりにつき、年間5日間の介護休暇が半日単位で取得できます。さらに93日間、3回に分割して休業を取れます。その間は給与の67%の介護休業給付金が雇用保険から支給されます。また労働時間の短縮やフレックスタイム、始業、終業時間の繰り下げ、繰り上げ等の制度を企業が行うこととされています。期間延長や上乗せ支援を行う企業も増えているので、事前にしっかり確認を行いましょう。

使える制度をフル活用して、仕事を辞めないこと。それが一番の経済的安心の礎。最近はテレワークやサテライト勤務など、多様な働き方が推進されつつあります。仕事と介護の両立を糸口に、真の働き方改革の実践が広がることを願っています。

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黒田尚子
CFP(R)
乳がん体験者コーディネーター。2009年末に乳がん告知を受ける。著書に『がんとお金の真実』『親の介護は9割逃げよ』など多数。
 

おちとよこ
医療福祉ジャーナリスト
高齢者問題研究家。高齢者介護、医療、福祉などをテーマに活躍。著書に『一人でもだいじょうぶ 仕事を辞めずに介護する』など。
 

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(ファイナンシャルプランナー 黒田 尚子、医療福祉ジャーナリスト、高齢者問題研究家 おち とよこ 構成=早川幸子 写真=Getty Images、iStock.com)

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