日本のシェアエコが"途上国並み"で低迷中
プレジデントオンライン / 2018年10月12日 9時15分
■シェアエコのランキングでは213カ国中91位
スウェーデンのシンクタンク「Timbro」が今年7月、シェアリングエコノミーについて、213の国や地域のランキングを発表した。これによると、1位はアイスランド、2位はタークス・カイコス諸島、3位はマルタといった島国が占め、EUではデンマークが8位、アイルランドが10位、フランスが19位、スペインが23位などとなっている。
こうした中、日本は91位と先進7カ国(G7参加国)中で最下位である。シンガポール、マレーシア、スリランカはそれぞれ65位、69位、78位と日本より上位にある。フィジーやトンガよりも日本の順位は低く、シェアリングエコノミーの世界では、わが国は発展途上国と言ってよいだろう。
シェアリングエコノミーという言葉は最近、しばしば聞かれるようになってきているが、IoTに注力する日本が同じインターネットを活用するシェアリングエコノミーで、ここまで後れを取っているのはなぜであろうか。
■遊んでいる資産やスキルを活用するシェアリングエコノミー
シェアリングエコノミーとは、他人の保有する遊休資産やスキルをインターネット上で提供したい者と利用したい者をマッチングすることにより、有効活用を図るものである。提供者と利用者のマッチングにはプラットフォームが必要であり、これを提供するのがシェア事業者である。総務省「情報通信白書28年版」には、シェアリングエコノミーの各国合計の市場規模は2025年には約3350億ドルに拡大するとの予測がある(※1)。
企業が営利目的で所有する自動車を会員に貸し出す「カーシェア」のような形態も、シェアリングエコノミーの範疇から外す必要はないと考えるが、基本的にシェアリングエコノミーは、提供者と利用者およびこれらを仲介するシェア事業者の3者から構成されている。
こうした個人間のシェアリングエコノミーを代表するのが民泊である。有償のライドシェアも世界中で広まりを見せているが、日本では禁止されており、本稿では民泊を中心に課題を掘り下げてみたい。
(※1) 出典元:PwC「The sharing economy - sizing the revenue opportunity」
■過剰な民泊規制の背後にあるもの
民泊は空いている部屋を泊まりたい人に貸すサービスであり、借りる側は安さや利便性を享受でき、貸す側は収入が得られる。両者を仲介するシェア事業者は手数料を得る。シェア事業者で有名なところとしては、日本でも米サンフランシスコに本拠を構えるAirbnbがある。
日本で民泊拡大の動きが見られなかったかと言えば決してそうではない。2018年春ごろにはAirbnbのサイトには6万件以上も掲載されていたとされ、むしろ民泊の存在感の拡大が問題となっていた。
問題視される理由の一つは旅館等との競合である。日本で旅行者に宿泊サービスを行うためには、原則、旅館業法による許可が必要である。旅館やホテル側からすれば、許可を得ずに類似のサービスを提供する民泊事業者は不平等な競争を強いる相手であり、経営上の脅威となり得る。違法事業者の増大として問題視していたのは事実であろう。
その他の問題点には、ゴミや騒音、共有スペースの無断利用といった周辺住民の被害がある。民泊と言ってもホームステイのようなタイプばかりではなく、家主不在でマンションの一室などを貸し出すタイプもあり、このタイプでは問題が生じた際の周辺住民への対応が不十分となる可能性がある。民泊は提供者、利用者、シェア事業者に利益があっても、周辺住民に不利益が及ぶようであれば問題である。
■現状は届出ではなく、自治体の許可制
こうした民泊を巡っては、厚生労働省・観光庁の「『民泊サービス』のあり方に関する検討会」や、当時の規制改革会議等で検討がなされ、その結果、住宅宿泊事業法の施行(2018年6月15日)に至っている。実態先行で広がった民泊を旅館業法とは別の枠組みで取り込むかたちになったことから規制緩和とも取れるが、これまでのところホスト(提供者)にとっては高いハードルとなっている。
同法の下では、旅館やホテルが立地できない住居専用地域でも事業ができ、しかも許可ではなく届出で事業ができることになっている。しかし、年間180日を超えて住宅宿泊事業を行うことができないため、ビジネスとして捉えれば稼働率の上限規制はネックとなる。その上、法の規定で自治体の条例により制限できることになっているため、多くの自治体で住居専用地域では営業を週末のみとするなどの上乗せ規制が課されることとなった。
問題となるのは事業性だけではない。ホスト希望者が届出を行うには多く書類を整えた上で提出することが求められ、負担が大きい。制度設計段階においては原則インターネットの活用を想定していたはずの届出の方法に関しても、「Webのみで届出完結率0%(ホスト1600人にアンケート実施結果)」(※2)という惨憺たる状況にある。「現状は届出ではなく、自治体の許可制になっている」(※2)との指摘もあり、第35回規制改革推進会議(2018年6月26日)で大田議長は「これでは何のための民泊であったのか」と発言している。こうしたこともあってか、新制度による民泊の届出受理済件数は、8月31日時点で7028件にとどまっている。
(※2)Japan Hosts Community オーガナイザー「住宅宿泊事業の現状報告とお願い」(第35回規制改革推進会議(2018年6月26日)、資料1-1)
■依然、認知度も低く、利用にも及び腰
シェアリングエコノミーが広まらない別の背景としては、認知度の低さが挙げられる。総務省の「平成30年版情報通信白書」の中で、「駐車場のシェアリング」、「ライドシェア」、「民泊サービス」、「個人の家事等の仕事・労働のシェアサービス」、「個人所有のモノのシェアサービス」の認知度について国際比較調査(※3)が記載されている。
この調査ではいずれも認知していない割合が日本で57.2%であり、アメリカの34.7%よりも割合が高い。また同調査のシェアリングサービスを知っている人の利用経験についても、上記5分野において利用経験がないとする割合が日本で81.1%と極めて高く、アメリカの38.7%と比べてかなりの格差となっている。過半数が知らない上に、知っていても大半が利用しないのであれば、普及が遅れるのは当然である。
日本人がシェアリングサービスに及び腰なのは、トラブルに巻き込まれたくないと心理もあろうが、消費者の要求水準の高さも関係しているとみられる。戦後、日本の企業は厳しい業法規制を受けてきたが、消費者側からすれば高品質のサービスを享受できた。企業に対する消費者の立場は強く、時にはクレーマーやモンスター化する消費者までいる。国内企業の提供するサービスに対し、消費者として常に要求水準を高く設定してきたと考えられる。
シェアリングエコノミーにおける提供者と利用者の立場は、企業と消費者のように固定されておらず、双方が入れ替わることもあり得る。長年にわたって純粋な「消費者」であった人ほど、「プロ」以外が提供するサービスには抵抗があるに違いない。
(※3)出典:総務省「ICTによるインクルージョンの実現に関する調査研究 報告書」(2018年3月)(請負先:フューチャー株式会社)
■海外の情勢を見てからでは成長の機会を失う
シェアリングエコノミーについては、新旧の競合以外にも多くの課題が残されている。しかし、海外では課題を抱えつつも、新たなチャレンジをつぶさずにルール化し、支援する向きもある。米カリフォルニア州では、有償のライドシェアを既存のタクシーなどとは別のTNC(Transportation Network Company)としてルール化している。
日本国内でも民泊については新法によってルール化されたが、依然として「業法」による規制である。シェアリングエコノミーを業として厳しく規制すれば、「プロ」にならざるを得ず、参入者はおのずと限られてくる。民泊新法とは名ばかりで、規制緩和とのお題目とは裏腹に既存業者保護の内容になっている。
仮に日本社会がリスクを取りつつ試行錯誤することを望んでいないならば、海外で課題がなくなるまで待ち、その手法を取り入れるというのも一つの手段ではある。競合する既存事業者の売り上げ減少や近隣住民への迷惑といった負の面だけを捉えれば、こういった手段もあながち間違いとは言い難い。
しかし、リスクを取りつつ前進するということを怠ると、本来得られるはずのリターンも得られない。提供者の収入の機会、利用者の利便性の向上が得られないばかりか、シェア事業者もデータの蓄積とビッグデータを活用していくことも困難になる。日本がIT分野で国際競争力を高めようというのであれば、シェアリングエコノミーだけ例外とするわけにはいかないであろう。冒頭で述べたように、日本はシェアリングエコノミーで途上国であるからこそ、まず前進することが必要なのである。
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大和総研経済調査部 主任研究員
1967年生まれ、上智大学卒業、1992年大和総研入社、1995年海外駐在、1998年地域経済を担当。2012年~14年外務省出向の後、2015年地域経済担当。2018年現在、シェアリングエコノミー等国内外の経済全般を担当。
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(大和総研経済調査部 主任研究員 市川 拓也 写真=AFP/アフロ)
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