なぜカリスマは「信者」を集められるのか
プレジデントオンライン / 2018年10月15日 9時15分
※本稿は、小山竜央『パブリック・スピーキング 最強の教科書』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■「身体6割、声3割、言葉1割」を使いこなす
「メラビアンの法則」を知っているでしょうか。コミュニケーションで相手に伝わる情報は、視線やジェスチャーなども含めた「ボディランゲージ」からが55%、テンポやトーン、大きさや口調も含めた「声の使い方」からが38%、残った7%が話の内容となる「言葉」である、という理論です。
ざっくりいえば「ボディランゲージ」が6割、「声の使い方」が3割、「言葉」が1割ですが、この3つを上手に使えば、カリスマになることも可能なのです。
もっとも大きな割合を占める「ボディランゲージ」は、身体の使い方がポイントになります。人間は、たとえまったく言葉が通じ合わなくても、ある程度、身振り手振りで意思疎通を図ることができます。パントマイマーの動きを見ると、その人が何をしているのかがわかるように、言葉抜きでも身体の動きで情報を伝えることができるのです。
もう1つの重要な要素である「声の使い方」も、やり方次第でさまざまな情報を伝えることができます。ただし、どちらも本当にうまい使い方ができる人は少なく、演劇をやっている俳優、役者といった人たちでもなければ、普段意識して効果的に使うこともないと思います。これらを鍛えたいと思ったら、芝居を見に行って、役者さんたちの身体と声の使い方をよく観察するのがお勧めです。
■「言葉」の影響は少ないが決定的
聴衆に影響を与える最後の要素は「言葉」です。言葉自体がコミュニケーションに与える影響は10%程度、正確には7%であり、こう聞くと多くの人が、「大して影響を与えないのであれば、それほど気にしなくてもいいのかな」と感じると思います。
しかし、実はその裏には大きな意味があるのです。全体に占める割合としては小さくても、結果に大きく影響する要素というものがあります。料理を例にしましょう。
料理ではメインの要素は素材そのものであり、それから調理をして、味付けに使う調味料を入れて料理全体が作られます。ここで、同じ食材、同じ作り方でも、塩や砂糖、醤油などの分量を間違えてしまったら、味がまったく変わってしまいます。
調味料が料理全体に占める割合は、10%どころか1%程度かもしれません。それでも、分量を間違えてしまっただけで、取り返しのつかない事態になります。同じように、言葉の影響は、決定的なのです。
■相手を動かす3つの条件「EMS」
ボディランゲージ、声の使い方、言葉といった要素は、目に見える、もしくは五感で感じ取ることのできるテクニックとして、聴衆と良いコミュニケーションを取るために必要です。しかし、スピーキングの場では、こういった目に見える要素以前に、それらを支える部分がどうであるかが、最後には全体を決めてしまうのです。
それは「E(エモーション/感情)」「M(メンタル/価値観)」「S(スピリチュアル/信条)」の3つです。この3つが、表に現れているボディランゲージや声、言葉といったものすべてを支えている、内面的な要素です。
たとえ、ここまで紹介したテクニックのすべてを知らない、もしくはそれらがうまくできなかったとしても、内面的な3つの要素が素晴らしければ、あなたはカリスマ・スピーカーと呼ばれるかもしれません。逆に言えば、表面的な要素をすべて完璧にマスターして実践できたとしても、内面が崩れてしまえば、そのセミナーは失敗に終わる可能性が高いでしょう。
見えない部分である感情がどれほど重要か、例を挙げましょう。
あるラーメン屋さんの店長は、パブリック・スピーキングの技術など1つも知らないのに、ステージに登場した途端、聴衆を魅了しました。それは、彼の感情がいつもハッピーで、メンタル、すなわち価値観の部分がお客様と一緒で、信じているものがはっきりしていたからです。それらが十分備わっているだけで、高度なテクニックを持っていて、鉄板の話ができるプロのスピーカーよりも、ずっと大勢の人を巻き込むことができたのです。
■いらだちを見せる人の話は聞かれない
我々がいるセミナーの世界は、結局のところ、あなたが考えていることが何らかの形ですべて表に現れている、と思ったほうがいいのです。特にスピーカーという存在は、それがかなり表面に出やすいものです。
実際に多いのは、機材トラブルであったり、セミナーの進行がグダグダだったりするような場合に、怒りの感情を抑えきれないまま壇上に立ち、話し始めるような人です。これではお客様とのコミュニケーションは取れず、実際にコンテンツも売れないという状態になります。
このような目に見えない感情をコントロールすることは、非常に重要になってきます。
■共感できる価値観が一体感を生む
次にメンタル、つまり価値観というのは、どうして重要なのでしょうか。
価値観とは、わかりやすく言えば、自分が人生において何を重要視しているか、何を大切にしているかといったことです。それは人によって、家族かもしれないし、夢や目標かもしれないし、健康が大事かもしれません。
カリスマに求められるのは、共感できる価値観です。自分にとっていちばん大切なものが、お客様にとってはそれほど重要ではない、もしくはあまり共感を得られない価値観であったとしたら、お客様との一体感は生まれません。
家族、健康、友人、祖国といった価値観には、まんべんなくほぼ全員が納得するような、誰もが大切にするものという側面があります。それらの誰もが納得できる価値観をあえて打ち出すのです。
■価値観の打ち出し方は宗教団体の手法に近い
価値観を打ち出すときのやり方というのは、実はある意味、宗教団体が使っている手法によく似ています。
宗教団体が信者を集められる理由は、そのプロセスにあります。教祖がいて、教団になっていく過程で、そこには「教義」というものが必ず存在するようになります。教義とは、教団内で重要な価値観のようなものです。
教義を信じ、忠実に守ると信者になります。この信者を作るプロセスとして、ごく当たり前のことを「大義名分」をつけてやらせる、という方法が使われます。
たとえば、電車のなかで座っているときに、目の前に、腰の曲がったお年寄りの方がいるとします。そこですぐに席を譲る人もいれば、何らかの理由でためらい、席を立たない人もいるでしょう。
しかし、仮に、ある宗教では「年配の人は必ず、何があっても大切にしなければならない」という教えがあったとします。あなたがその宗教の信者であれば、迷うことなくすぐ席を譲る行動に出るはずです。たとえそのお年寄りが席に座ることを断っても、実は自分も具合が悪くて座っていたくても、あなたにとっては、教えを守ることが自分のなかの絶対的な正義であり、席を譲ることには立派な大義名分があるのです。
■大義名分があれば人目は気にならない
人はなぜ、何かの宗教、イデオロギーの信者になるのでしょうか。その仕組みは、誰もがやるべきだと考える当たり前のことを、大義名分をつけてやらせるからです。大義名分を背負った瞬間、やるべきことが正義になるのです。
覚えておいてほしいのは、「人は自分の代弁者を常に求めている」ということです。普段言いたくても言えない、自分が感じていることを代わりに言ってくれる人が登場すれば、その人はリーダーとして人の上に立ちます。これがリーダーの定義です。
ほとんどの人は人目を気にして、思っている通りに行動することができません。それに対して、リーダーは人目を気にしません。それは、彼にとっての大義名分がしっかりとあるからです。
リーダーとはカリスマであり、カリスマにはアンチも大勢います。ネットで叩かれたり、「炎上」騒動があったりして、「オワコン(終わったコンテンツ)」と呼ばれることもしばしばです。しかし、カリスマと呼ばれる人たちが叩かれるのは当然のことで、常に仮想敵を作って、あえてそれと戦う姿勢を見せているからです。
■カリスマに敵がいるのは当然
そもそも敵がいない人間は、カリスマとは呼べません。世の中の大勢の人たちを巻き込みたいのであれば、敵ができるのは当たり前です。
どんなに批判されても、いつもフラットな感情で、大義名分を持って、自分の価値観を打ち出すこと。同時に、「スピリチュアル」が備わっていることが、人を魅了する条件になります。
スピーキングのテクニックについては、すでにたくさんの本で語られています。だから、皆さんも技術だけであればいくらでも学ぶことができるでしょう。
しかし、皆さんの背後に大義名分があるかないかによって、聴衆に伝わるものが大きく変わってきます。だからこそ、組織的なものにせよ、自分1人の個人的なものにせよ、信じるべき理念、大義名分というものを必ず背負ってスピーキングすべきです。
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ライブクリエイト代表取締役
1982年、香川県生まれ。2005年、大手広告代理店に入社しSNS開発、ゲーム開発、マーケティングに携わる。その後、独立し、過去に培った知識を元に「ゲーム理論マーケティング」を取り入れた法人へのビジネス指導と、講演会を全国で開催。著書に『5分の使い方で人生は変わる』『スマホの5分で人生は変わる』(ともにKADOKAWA)、『なぜか、自動的に幸せになれる72の習慣』(サンマーク出版)、『ストーリー思考で奇跡が起きる』『神速スモール起業』(ともに大和書房)など多数。
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(株式会社ライブクリエイト代表取締役 小山 竜央 写真=iStock.com)
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