名門商社社長が会社を辞めようとした理由
プレジデントオンライン / 2018年10月18日 9時15分
2018年3月期の連結純利益が過去最高の3085億円となり、15年3月期の赤字転落からV字回復を果たした住友商事。その追い風を受け、1兆3000億円の投資を盛り込む中期経営計画を牽引するのが18年6月に就任した兵頭誠之社長だ。
兵頭氏はインフラ事業部門の出身。30代半ばで参画したインドネシアの石炭火力発電事業は、通貨危機の影響で工事が中断するなど困難を極め、第1号機の稼働が契約締結から11年後という伝説的なプロジェクトとなった。前任の中村邦晴会長が「諦めずにやり抜く胆力がある」と評した人物像とは。
――就任後、社員に訴えてきたことは何か。
【兵頭】1つは、熱意をもって一生懸命に仕事をやり切ること。これはきれいごとでなく、商社の仕事では基本中の基本。私が最初に配属されたのは中東の電力インフラを担当する部署で、当時は住友商事が弱い分野だから各地でほとんど相手にされなかった。それでも職場は活気があり、深夜3時、4時まで働いて、よく酒も酌み交わした。まさに体力勝負で、いつか見返してやろうという意気込みがあった。いまでは考えられない働き方だが、熱意がなければ困難な仕事を乗り切れないのはいつの時代も変わらない。
――キャリアのターニングポイントとなった出来事は。
【兵頭】入社5年目にヨルダンで最初の海外駐在を経験した。自分が入札した発電事業の案件で、現場の所長を任せてもらった。しかし現地は食べ物、飲み物にも事欠く岩だらけの土壌で、日本人はただ1人という過酷な環境だった。そこで3年を過ごして帰国すると、昭和が平成になっていて浦島太郎のようだった。赴任直前に生まれた娘は、見知らぬおじさんが家にいると怖がって抱っこもさせてもらえなかった(笑)。
――その後は中東からアジアに移り、困難を極めたインドネシアの発電事業に参画する。
【兵頭】実はヨルダンのあと「自分の人生はこれでいいのか」とワークライフバランスに悩み、会社を辞めたいと周囲に相談していた。そのことをインドネシアにいた元上司が聞きつけ、「こっちにこないか」と誘われてジャカルタに出張した。元上司は「俺の仕事を黙って見ていろ」と半年ほど私を仕事に同行させた。現地の政府関係者などに「電力事業は、この国の発展を支える基礎づくりだ」と真剣に語る姿を見て、自分の視野が狭くなっていたことに気づかされた。社長就任時に「夢を持とう」「志を大切にしよう」とメッセージを発信したのもこの経験があったから。19年12月で住友商事は創業100周年を迎える。次の100年に夢と志を受け継ぎ、まずは当社がパートナーから信頼されるようになりたい。
仕事における熱意の大切さを説く兵頭社長は、既存領域の充実に加えて、AIやIoTなど技術革新が盛んな先端分野への投資に大きな意欲を示す。シリコンバレーやロンドンの拠点に大幅な権限を委譲し素早い投資を可能にするなど挑戦的な戦略と体制を打ち出している。11月13日(火)のイベント「PRESIDENT祭 逆転の発想で勝つ ビジネス大予測2019」では、兵頭社長がA.T.カーニー日本法人の梅澤高明会長を迎え、世界経済の最先端の潮流、そして日本企業が第4次産業革命にどう対応すべきか、その戦略について語ります。
1 出身高校
千葉県立千葉高等学校
2 長く在籍した部門
インフラ事業部門(電力)
3 座右の書
『皇帝フリードリッヒ二世の生涯』
4 座右の銘
夢なき者に成功なし
5 趣味
ゴルフ
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住友商事社長
1959年、愛媛県生まれ。84年、京都大学大学院工学研究科修了後、住友商事入社。インドネシア住友商事社長、電力インフラ事業本部長、経営企画部長などを経て2017年に専務執行役員、18年6月より現職。
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(住友商事社長 兵頭 誠之 文=Top Communication 撮影=市来朋久)
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