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働き方で激変"単価の高い副業・低い副業"

プレジデントオンライン / 2018年12月26日 9時15分

最近、副業を解禁する企業が増えています。副業解禁は、企業と社員の双方にどのような影響をもたらすでしょうか。

一口に副業と言っても、コンビニなどでのアルバイトから起業まで、さまざまな種類があります。そこで、収入とケイパビリティの2つの軸で分類すると、図のように表すことができます。なお、ケイパビリティとは「何かを遂行できる能力」のことで、ここでは副業を通じて身につく個人のスキルや外部とのネットワークを指します。

「伏業」は、会社に伏せて行う内職やアルバイトなどの仕事です。残業の削減・禁止の流れが進む中、経済的事情でこの種の副業をせざるをえないケースもあります。時給換算すると、会社の残業代より少ないことも多く、ケイパビリティも高まりません。

「副業」は、昔から行われてきた、本業の収入を補完するための「副業(Side jobs)」です。コンビニ・外食産業の店員や警備員などが該当します。単価は高くないため、一定の収入を得るには、時間や回数を稼ぐ必要があります。

「幅業」は、ボランティア活動やNPO活動などです。仕事で培った専門性を社会や公共のために生かす「プロボノ」は、その代表例です。収入は多くを期待できませんが、人間の幅やスキルの幅を広げます。

「複業」は、収入も多く、ケイパビリティも高まる仕事です。新しい事業の起業などが該当します。本業に加えて新たな業を持つことから、「複業」と呼びます。複業を行うには、高いスキルが求められるため、長い期間をかけた準備が必要です。

副業を解禁する理由は企業によってさまざまだと思いますが、取材した企業の多くに共通していたのは、人材育成と新規事業開発が目的でした。幅業や副業を通じて、新規事業開発を担えるような人材を、社外の環境下で育成しようという考えです。

経営環境がめまぐるしく変化する中で、多くの企業において新規事業開発は必要とされています。新規事業開発とは、言わば1つの事業を起こして経営することですから、その能力を座学や社内の仕事だけで身につけることには限界があります。一方、副業をやってみると、自分が1人で、あるいは社長として、営業もキャッシュマネジメントも含めたあらゆる面に対処しなければならないため、新規事業開発に必要な要素を実地で学ぶことができます。また、法務や税務などのように自分で対処しきれないことは、専門家と組んで行う必要も出てきます。企業は、副業によって得られるこうした人材育成効果に期待しているのです。

■なぜロート製薬は、いち早く解禁したのか

副業解禁のリスクとして、企業秘密の漏洩がよく挙げられます。しかし、副業を解禁する/しないにかかわらず、企業秘密が漏洩する危険は常にあります。これはむしろコンプライアンスの問題であり、副業を解禁しない理由に企業秘密の保持を挙げるような企業は、コンプライアンスのほうに問題があるのではないかと思います。

大企業ではソフトバンクも副業を認めている。(AFLO=写真)

むしろ、副業解禁によって起こるのは、法律上の問題です。労働時間が通算8時間を超えたら残業代を支払わなければならない残業通算規定や、労災補償、雇用保険などは、複数の仕事を持って働くことに対応しておらず、今後副業が広がるにつれて見直さざるをえなくなるでしょう。

現状は日本企業の多くが副業を認めていませんが、将来的には、副業を認めない企業は、採用面で影響が出てくることが考えられます。若い世代を中心に、副業をしたいと考える人が増えてきています。優秀な人材の獲得は今後ますます厳しくなることが予想されるだけに、副業を認めないと、優秀な人材を確保できなくなるかもしれません。副業解禁を人材確保施策としてとらえると、報酬増のようなコストアップにはつながりません。そういう意味では、副業解禁は「現金流出のないインセンティブ」と言えます。

したがって、業界の中で先行して解禁するメリットは大きいでしょう。メディアにも求職者にも注目されやすくなります。逆に、「あの会社がやったからうちも」という後追いでの副業解禁は、うまくいかない可能性があります。副業解禁は人事システムの仕組みの一部ですから、他の部分を変えずに副業だけを解禁すると、問題が起こります。経営者の意識や社風も、併せて見直す必要があるかもしれません。

大手企業でいち早く副業解禁を打ち出し、注目を集めたのがロート製薬です。同社はヘルス&ビューティケアの領域で一般用医薬品や化粧品、食品の製造・販売を行うほか、再生医療やアグリビジネスといった新分野にも取り組んでいます。ロングセラー商品としてパンシロン、V・ロート、メンソレータムなどが知られるほか、化粧品の「肌ラボ」というヒットブランドもあります。分野は多岐にわたりますが、ほとんどの分野に強力な競合企業が存在しているため、常にチャレンジが求められる環境にあります。それが、他社がやっていない副業解禁というチャレンジに繋がったと言えます。

同社が副業を解禁した目的は、企業の枠を超えた働き方によって、ベンチャー精神と行動力を持った、自立した社員を育てることです。その背景には、「日本企業は社員を囲い込み、縛り付ける風潮がある。その結果、社員が内向きになり、世間とズレて、時代の変化にも乗り遅れる」という山田邦雄会長の問題意識がありました。副業を解禁して以来、入社10~20年目の社員を中心に副業が始められています。

■「人生100年」時代に、もたらすメリットとは

副業解禁は、企業だけでなく、企業で働く社員にもメリットがあります。今、副業が最も必要とされているのは、役職定年や定年を迎えるような50~60代のシニア世代です。「人生100年」と言われる中、定年の60歳や再雇用が終わる65歳で、きっぱりリタイアしにくくなっています。しかし、60歳や65歳で退職して、翌日から新たな仕事を探しても、これまでやってきた仕事とは無関係の、単価の高くない仕事がほとんどです。仕事へのモチベーションも上がらないでしょう。

しかし副業を解禁すれば、在職中から副業を通じて退職後も働き続けるための準備ができます。また、役職定年や退職後の再雇用になると年収が大幅に下がりますが、副業を認めることでその差を埋めることも可能になります。

先に触れた通り、単価の高い複業をするには一定の準備期間が必要です。例えば、中小企業診断士を目指すとすれば、資格取得のために1年以上かかりますし、資格を取ってもすぐに顧客を確保できるわけではありません。50代になってから焦るのではなく、30代、40代から早めに準備を始めた人ほど、複業ができる可能性は高まります。

複業を実現するうえで大切なポイントは、「能力は掛け算で広がる」ということです。例えば転職する場合、現在の仕事と全く別の仕事をやりたいと思っても、0×1=0ですから、面接を受けてもなかなかうまくいきません。むしろ、今の仕事で身についた能力や経験を別の分野で生かすようにしたほうが、1×1=1、1×2=2……となって可能性が広がっていきます。複業も同じで、現在の仕事と全く別のことをゼロから始めるのは難しい。しかし、今の仕事に関連したことや、あるいは人より秀でた趣味や特技を持っていれば、可能性は広がります。あなたは今、何か掛け算できるものを持っているでしょうか。もしあれば、さらに磨きをかけましょう、もしなければ、今から仕込みを始めることをお勧めします。

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山田英夫(やまだ・ひでお)
早稲田大学ビジネススクール教授
慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了後、三菱総合研究所入社。大企業のコンサルティングに従事。1989年早稲田大学に移籍、現在に至る。専門は競争戦略、ビジネスモデル。学術博士(早大)。近著に『マルチプル・ワーカー:「複業」の時代』。

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(早稲田大学ビジネススクール教授 山田 英夫 構成=増田忠英 写真=AFLO)

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