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前科者経営者「人生はやり直せる」の意味

プレジデントオンライン / 2018年10月17日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/high-number)

「前科者」というと殺人や強盗を犯した犯罪者というイメージが強い。だが実際は、交通事故など、ほんの少しの過ちで図らずも前科者となる可能性もある。一度、塀の中に入ってしまえば、再就職はもちろん、住むところを探すことすら難しい。『前科者経営者』(プレジデント社)の著者、高山敦氏は、意図せず罪を犯し約5年の刑務所生活を送った元経営者だ。高山氏が「どんな人間であっても、きっとやり直せる」と語る理由とは――。

※本稿は、高山敦『前科者経営者』(プレジデント社)の一部を再構成したものです。

■犯罪と気づかずに詐欺をしていた

私は1986年、27歳で不動産業で起業して以来20年間順調に事業を続けてきました。折しもバブル景気のまっただ中、不動産売買が次々とうまくいき、同業者からは「営業の天才だね」と言われるほど好調でした。

ところが、バブル経済が終焉を迎えるとともに事業規模は縮小。下がる売上を何とかせねばと思い、未知のIT業界に手を出しました。韓国で開発された会議用インターネット・カメラ・サーバーシステムの独占販売権を取らないかという誘いがきたのです。代金は1億円。その資金を集めるため、FXの営業を始めました。

もともと営業センスがあっただけに、次々と契約は決まりました。そうして、「法に触れない」という確証を持たないまま突き進んだ結果、2005年12月7日、「出資法違反」で逮捕されてしまったのです。

逮捕されて初めて、自分がやっていたことは犯罪だったと知りました。まったくの初犯でしたが、判決は5年の実刑。意図して犯した犯罪ではありませんでしたが、大きく損害を受けた人がいる以上、判決を受け入れ、控訴はしませんでした。

■出所までの約5年間を耐えられた理由

絶対に来てはいけないところ、それが刑務所でした。囚人服を着たその瞬間から、私は私ではなくなり、それまでの人生をすべて失いました。犯罪とは無縁の生き方をして来たはずなのに、「ワル」「犯罪者」「囚人」となりました。

厳しい刑務所内での生活に自分は人間としてダメなんだ、罪を犯した自分はもう人としては扱ってもらえないんだと思わずにはいられませんでした。刑務所に来てしまったのは自分が罪を犯してしまったからであり、誰かを責めることはできません。刑務官に罵倒され、人間性もそれまでの人生もすべて否定される日々が続きました。

出所までの約5年間をどうやって耐え抜くことができたのか。ひとつは家族です。毎月差し入れと手紙を送ってくれ励ましてくれる妻と「5年は長いけれど、大学に入ったと思って勉強する気持ちで頑張って」と励ましてくれる娘の存在がありました。

自分を待っていてくれる人がいるという事実はなんと心強いことか。自分の至らなさから迷惑をかけてしまった多くの人たちのためにも、頑張って一日も早く刑務所を出よう。そのためにも強くなろうと思ったのです。

■「自分の命の使い道」を考えた

つらい刑務所での日々の中、慰みは読書でした。そこで出合った本が、五木寛之氏の『親鸞』です。それまでは自分が金持ちになることばかりを考えていた私に、社会の底辺にいるような人たちを救わんとする生き方を教えてくれた一冊でした。

それからは、時間を見つけては「自分の命の使い道」について考えました。企業として利益を出し、従業員も取引先もお客様も喜び、幸せになっていただける事業とは何だろう。そんなことを考えてワクワクしている自分を感じ、「これこそが本当の自分なのだ」と気づきました。

念願の出所を果たした後、保護司の先生に「これから何をしたいのか」と聞かれ「CSRをベースにした事業をしたい」と答えました。そうして、保護司の先生から提案を受け、ともに立ち上げたのが、再犯のない社会実現を目指す株式会社ヒューマン・ハーバーだったのです。

■再犯をなくす仕組みをつくる

ヒューマン・ハーバーは、スクラップ業を行う会社です。スクラップ業で利益を出し、服役経験者に就職から教育、住まいの支援をして、再犯のない社会を実現することをテーマにしています。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Natnan Srisuwan)

具体的には、刑務所をまわり、就職希望者の面接を行います。その時に重要視するのは「まっとうな人生を送りたい」という意思がどのくらいはっきりしているかです。仮釈放されるために、ただ単に「就職先が決まればいい」と思っている本末転倒な受刑者も数多くいるのが現状。彼らの面接は必然的に厳しくせざるをえず、執拗な質問が多くなると、受刑者と対立関係になることも少なくありません。しかし、そのくらいこちらも真剣だということを分かってもらうためには、避けて通れないことです。

採用された人には住居と仕事、そして才能を発揮するための教育を受ける機会を与えます。中には義務教育をきちんと受けていない人もいるのです。採用期間は1年間という期間限定。その間に、自分が本当にやりたいことを見つけます。こちらはその目標に向かって努力する人を本人に合った形で応援し、社会へと巣立たせるのです。

本気でやり直したい人に対して優しく手を差し伸べる一方で、ルールを守れなければすぐに刑務所へ戻すとも伝えます。環境は整えた、あとはあなたのやる気次第です、というわけです。元受刑者にとって社会復帰をするのは容易なことではありません。新しい環境に慣れるまでにはさまざまなストレスがかかる。しかし、それを乗り越えて、仮釈放から出所を経て、新しい生活の扉を開き、前に進むことが必要なのです。

■元受刑者の厳しい就労状況

受刑者が再犯に陥る構図はおおよそ決まっています。出所しても頼れる家族のいない人や一時的にでも身を寄せられる場所がない場合、まず住む場所が必要ですが、家を借りるためにはある程度のまとまった資金がいる。そして何より毎月家賃を払える定職がないことにはどこも貸してはくれない。一方、履歴書を書くにしても住所がないと書くことができない。当然、仕事にも就けない。結果、住まいや仕事などのために昔の悪い仲間を頼るようになり、再び犯罪に手を染めるようになる。負のスパイラルに陥ってしまうのです。

高山敦『前科者経営者』(プレジデント社)

また、小さいころから悪い仲間とつるみ、悪いことばかりをしてきた人は、一般常識がわからない。だから、運よく就職しても常識がわからないため叱責され、反抗してすぐにドロップアウトしてしまう。物事の解決策は、ケンカか逃げることしかないと思っている人が多い。友達もワルばかりだと、助けを求める先もないのが現状です。

さらには、どんな犯罪かも知らずに、「前科者」というレッテルを貼られ十把ひとからげに見られてしまうことも復活を妨げる大きな要因です。たいていの前科者は(本来はいけないことですが)経歴書の必罰欄に前科を記入しません。そのため、仕事ができるから契約から社員へしましょうという話があっても身上調査でその前科が発覚し、ご破算になってしまいます。

かといって、前科を書いては仕事に就けません。自らが犯した罪を償い改心して、いちから人生をやり直そうにも現実はその機会さえ与えられないのです。このため受刑者の再犯率は4割にものぼります。長年保護司をされてきた先生はこの悪の連鎖をなんとかしたい、再犯をなくしたいという思いからヒューマン・ハーバー設立に力を貸してくれたのです。

■自分の限界を超える力を信じる

おかげさまで、ヒューマン・ハーバーの設立から3年間で支援した服役者の再犯率はゼロであり、その取り組みは着実に実を結んでいます。社会起業として、ユヌス・ソーシャルビジネスカンパニーの日本第一号認定を受け、また日本財団の職親プロジェクトの企業にもなりました。

だまされて詐欺に加担してしまい、刑務所に。4年7カ月の刑務所生活を終え、51歳で出所して初めて本当の自分に気づき、「人生をやり直そう。人のためになることをしよう」と思い立ちました。あの地獄のようなどん底の日々から、私は51歳でやり直すことができました。

どんな人間であっても、きっとやり直せる。そう信じています。

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高山 敦(たかやま あつし)
高校卒業後、税理士事務所に勤務した後、27歳で起業。ITバブルを見て「自分も億万長者に! 」とIT関連事業に進出するために資金を集めるために始めた事業で詐欺に加担。 4年7か月の刑務所生活を送る。刑務所で人生を見直し、社会のためになることをやろうと決意。出所後、保護司とともに受刑者の社会復帰を目的とした会社を立ち上げた後、現在は、独立して元受刑者の就労支援や自身の体験をもとにした講演活動などを行っている。

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(高山 敦 写真=iStock.com 構成=館山菜穂子)

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