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弱小軍団はどんな策で大敵を負かしたのか

プレジデントオンライン / 2018年10月20日 11時15分

写真=iStock.com/bowie15

『孫子』は兵法書として比較的すぐに評価されました。『三国志』の主役の1人である魏の曹操は『孫子』が好きで『孫子』を再編纂し、今、我々が読んでいるのは曹操が再編纂した版です。ライバルの蜀の諸葛孔明も『孫子』を引用していますし、呉の孫権一族の正史の冒頭には「我々は孫子の末裔らしい」と書かれています。つまり『三国志』は『孫子』を読んでいる者同士の戦いなのです。

日本でも戦国時代、武田信玄や黒田官兵衛などの武将、幕末には吉田松陰や西郷隆盛など維新の志士たちが『孫子』にヒントを得ています。

ヨーロッパで『孫子』が注目を浴びるようになったのは、オスマン帝国に対するアラブ人の反乱を支援したアラビアのロレンス(イギリスの諜報部員)の友人でもあったリデル=ハートの『戦略論』からです。第一次世界大戦を戦い、ひたすら物量を投入する戦争は誰の得にもならないと感じたハートは『孫子』を高く評価し、戦闘はできるだけ回避すべきだと考えました。アメリカではベトナム戦争末期に「なぜ勝てないのか」が研究され、ベトナム側の戦略の基盤に『孫子』があることが明らかになり、1970年代初めに大ブームとなりました。ゲリラ戦の戦略として評価されたのです。ビジネス的に言うと、自分が有利になる土俵をうまくつくって、そこで戦いましょうという話です。

『孫子』で有名な「兵は詭道なり」という奇襲攻撃も、同じ相手とはできれば一回しか戦わないで済ませるという考えから生まれたものです。

これはビジネスで言えば「観光地のぼったくり商売」でしょうか。そういう商売は長続きしません。しかし、モノの消費からコトの消費、つまり原価が計算できないソフトの消費に変わってきた現代では、買う側の満足、いかにサプライズを感じてもらえるかが重要になってきました。詭道というと卑怯な手のようですが、サプライズと考えるとビジネスと繋がるかもしれません。

将棋の羽生善治さんは「将棋で奇襲はあまり役に立たない。一回は勝てるかもしれないが、それでおしまいなので、王道を磨いたほうがいい」と言っています。『戦争論』で有名なクラウゼヴィッツと同じ考えです。

『戦争論』と『孫子』では発想の違いというか、西洋哲学と東洋哲学の違いみたいなところがあって、『戦争論』は戦争の本質を明らかにして、対処を考えようとしています。そこで、導き出された戦争の本質の一番重要な要素が、「相互作用」。戦争はエスカレートするものだということです。そう考えると、枝葉よりも、まず正攻法で負けないようにしないと勝負にならないと考えるのです。

一方、『孫子』は、戦争の本質を考える面はあまりありません。むしろ戦争を構成する基本的な要素、たとえば虚とか実とか、勢いのあるなしだとか、要素の絡み合いから戦争を考えているのです。

取引先の信用を得るような仕事を続けるのがビジネスの基本、正攻法です。しかし、規制緩和、グローバル化、デジタル化などで、競争の激しさは増すばかり。生き残りの知恵を『孫子』から学びたいという声が増えてきたのは、それだけ身を守りにくい時代になってきたということかもしれません。

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守屋 淳
1965年生まれ。早稲田大学卒業。大手書店勤務ののち、中国古典研究家として独立。著書に『最高の戦略教科書 孫子』ほか。
 

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(中国古典研究家 守屋 淳 写真=iStock.com)

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