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文句ばかり出る人を「ポジ変換」する方法

プレジデントオンライン / 2018年10月17日 9時15分

(写真提供=トレイルランニングワールド)

富士山の周囲168キロメートルを夜通し走る「ウルトラトレイル・マウントフジ(UTMF)」。世界一のレース「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB)」の初の姉妹大会です。開始は2012年ですが、そこに至る道のりはレースのように過酷なものでした。鏑木毅氏が、個性派メンバーをまとめてプロジェクトを成功させたコツを紹介します――。

※本稿は、鏑木毅『プロトレイルランナーに学ぶ やり遂げる技術』(実務教育出版)の第6章「開拓者として生きる:プロトレイルランナー、レース運営の哲学」の一部を再編集したものです。

■富士山を走って一周する46時間のレース

ヨーロッパアルプスの最高峰、フランス・イタリア・スイスにまたがるモンブランのまわりを1周するトレイルランニングのレースがあります。フルマラソンを4回分、丸1日で走るというだけでも信じられないのに、その間に標高2500メートル級の山をおよそ10個、累積標高差9600メートルの山道を駆け上り、駆け下りるというのですから、その桁外れのスケールたるや、想像もつかないかもしれません。

これが、僕が人生を賭けて挑戦してきたウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB)という化け物の正体です。毎年8月に開催されるUTMBは、すべてのトレイルランナーにとってあこがれの舞台であり、まさに世界一の山登りランナーを決めるのにふさわしい難コースです。

UTMBのようなレースを日本にもつくりたい。モンブランのあの興奮、あの舞台、あの文化、あのホスピタリティを日本人にも体験してほしい。それには日本一の富士山を一周するコースがふさわしい。これらの思いが結実したのが、ウルトラトレイル・マウントフジ(UTMF)です。

距離は約168キロメートル、累積標高は約8000メートル。コースは富士山を一周する山道で、制限時間は46時間。トップ選手でも20時間程度なので、夜通し走ることになります。

UTMFはUTMBとウルトラトレイルの精神を共有する世界初の姉妹大会で、2012年に始まり、半周コースも含めると、いまでは2000人以上の方が参加されています。

■日本一の大会を実現するメンバーに求めた3条件

最初からプロジェクトチームがあったわけではありません。しかし、「富士山を走って一周する」という前代未聞のコンセプトは、シンプルなだけにインパクトも甚大で、たくさんの人を魅了しました。ワクワクするようなロマンあふれるアイデアだったからこそ、ただのムーブメントで終わらず、多くの仲間たちの協力を得て、実現に向けて動き出したのです。

UTMFの実現に向けて、プロジェクトチームを立ち上げました。実働部隊であるメンバーを決めるに当たって、僕が意識したのは次の三つです。

一つめは、想いが強い人。何が何でもこの大会を実現したい、という情熱を持っているということです。

二つめは、責任感の強い人。「これをやってください」と言われたら、期日までにしっかりやるということです。

三つめは、コミュニケーション能力がある人。大勢の人がかかわるプロジェクトなので、話し上手で説得力のある人がいると助かります。

この三つが全部揃っている人がいれば理想ですが、どれか一つでも持っていれば、それぞれの得意・不得意を見極めて、適材適所で仕事を割り振ることでチームとして機能すると思って人選を進めていきました。

■一匹狼の個性を生かすチームマネジメント術

ところが、トレイルランニングはもともとチームスポーツではなく、ソロスポーツだということもあって、集まってきたのは、一匹狼タイプの人が多かった。それぞれが一国一城の主で、必ずしもチームプレイを得意としない人も含まれていたわけです。

『プロトレイルランナーに学ぶ やり遂げる技術』(鏑木 毅著・実務教育出版刊)

そうすると、誰もが旗振り役になりたがる。意見もバラバラだし、全員が最高責任者になってしまうのです。

しかし、もともと意見が違うところに、全員がジャッジに回ってしまうと、お互いに譲らず、いつまでも結論は出ません。いろいろな意見があるからこそ、最終的にリーダーが一人で決断しないと、チームをまとめることができないのです。

もともと人を引っ張るタイプではない僕にとって、最後は自分でジャッジしなければいけないというのは、ものすごくストレスが溜まる仕事でした。毎回プレッシャーとストレスにさらされ、胃が痛む思いをしているので、日々重い決断をしている政治家や企業のトップの方はすごいなと、素直にリスペクトしています。

40歳でサラリーマンを辞めた僕には、管理職の経験はありません。でも、この競技の先駆者としてみんなに夢やビジョンを説いていく中で、いつのまにかそういう立場に立たされていて、いまでは、日本トレイルランナーズ協会(JTRA)という競技団体の会長も引き受けています。

実行委員長というリーダーになった以上、決断から逃げないこと、どんなに苦しくても、みんなから望まれてそういう立場に立ったことを意気に感じて、意思決定するしかありません。

ただ、大会の実行委員長や協会の会長をしていて、わかったこともあります。トレイルランナーはみんな個性が強いので、その個性をコントロールするというよりは、調整役に徹したほうがうまくいくということです。

リーダーがグイグイ引っ張るのではなく、誰に対しても壁をつくらず、同じように接することで、それぞれの個性を生かしながらバランスをとる。少なくとも、僕にはそういうリーダーシップのほうが向いています。それは、どちらも任意参加のボランティア型の組織ということも関係しているかもしれません。

■刺々しい言葉が会議参加者に刺さらない方法

ボランティア型の組織で一番よくないのは、否定的な思考の人の存在です。ネガティブな発言ばかりする人がいると、それがまわりに伝染して、「そんなに言うなら、こんなのやめればいいじゃん」と放り出したくなる。会社なら、上司がひと言注意すればすむかもしれませんが、全員が対等な関係で参加している組織だと、そのあたりのさじ加減が難しいのです。

僕が気をつけているのは、棘のある言葉が出たら、それを和らげるような言葉をかぶせて、棘がみんなに刺さらないようにすることです。

たとえば、ちょっと苦笑いしながら「またそんなこと言って」と少し茶化すように言えば、そこでみんな和みます。「そういう言い方はダメでしょ」と高圧的に言っても雰囲気が悪くなるだけで、誰のためにもならないので、その場でうまく解消するようなひと言を言うようにしています。

■ポジティブな意見が出やすくなる最初の一言

会議自体をネガティブな意見を言いにくい雰囲気にしてしまうという手もあります。僕は毎回、会議の冒頭で、「僕はこの大会(組織)をこういうふうにしたい」「こういうビジョンがあるから、この会議はこういうふうに進めていきたい」という話をしています。あらかじめポジティブな目標が設定されていれば、ポジティブな意見が出やすくなるので、それを意識しているのです。

たとえば、大会終了後の反省会では、「自分はほとんど3日間寝ずに働いた」「雨の中ずっと外に立たされて大変だった」などとストレスの発散合戦になりがちです。そこで、「ネガティブな意見も次に生かすための貴重な意見なので、誰かを否定するとかではなく、客観的にみなさんが感じたことを言ってください」と最初に断っておく。

すると、「同じ人に負担が偏りすぎないように、来年からはどうしたらいい?」というように、次につなげることができます。1回限りのイベントだと、反省を次に生かすことはできませんが、UTMFは毎年開催する前提なので、否定的な意見も次に生かして昇華することができるのです。

そうやって、ポジティブな意見が大勢を占めてくると、ネガティブ思考の人はだんだん居づらくなってきて、自分から自然と遠ざかっていきます。この人はみんなの足を引っ張っているなと思っていると、本人から「来年はちょっと勘弁させてください」と言ってきたりするので、きっとお互いに感じるものがあるのではないかと思います。

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鏑木 毅(かぶらき・つよし)
プロトレイルランナー
1968年、群馬県生まれ。群馬県庁で働きながら、アマチュア選手として数々の大会で優勝。40歳でプロ選手となる異色の経歴を持つ。2009年、世界最高峰のウルトラトレイルレース「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(通称UTMB、3カ国周回、走距離166km)」にて世界3位。現在も世界レベルのレースで常に上位入賞を果たしており、50歳でのUTMB再挑戦を表明。主な著書に『極限のトレイルラン』(新潮社)などがある。

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(プロトレイルランナー 鏑木 毅 写真提供=トレイルランニングワールド)

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