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世界同時株安「GAFA」は評価されすぎか

プレジデントオンライン / 2018年10月16日 9時15分

2018年10月11日、大幅続落で取引を終えたニューヨーク証券取引所のトレーダーら(写真=EPA/時事通信フォト)

■共和党が過半数を失えば、トランプ政権は厳しい

10月10日、米国の株式市場が大きく下げた。これを受けて、翌日のアジアの主要株式市場は総崩れとなり、日経平均株価は前日の終値から1000円超下落する場面があった。そうした株安の連鎖を受けて、米国の株価は一段と下落し、一時、“世界同時株安”の連鎖に歯止めが掛からない状況になった。

米国の株価を下落させた要因の一つは、何と言っても米国中間選挙の不透明感だろう。中間選挙では、下院で民主党が過半数の議席を獲得するとみる専門家が多い。仮に与党である共和党が過半数を失うようだと、トランプ大統領の考えに沿って政策を運営することはかなり難しくなる。それは、米国の政治と経済の先行きが一段と見通しづらくなる。

基本的に、投資家はリスク(不確実性)を避けたい。中間選挙の不透明感に加えて、金利の上昇懸念が高まっていることも、株価を不安定化させるよう要因だ。さらに、米・中の貿易戦争などさまざまな不安要素が顕在化する中、大手投資家の利益確定を狙った売りが株価下落のトリガーになったと考える。

■さらに「プログラム取引」が一斉に売り注文を出した

もう一つ重要なのが人工知能などを用いたプログラム取引の影響だ。ビッグデータの活用が進むにつれ、多くの投資家が人工知能にデータを分析させ、ごくごく短時間での利得獲得を狙っている。プログラム取引が一斉に売り注文を出したことが株安を増幅させた。

それが顕著に表れたのが米国のIT先端銘柄だ。それは米国のITセクターの業績拡大期待が高まりづらくなっていることの裏返しでもある。当面、米国を中心に株価の上値は抑えられ気味になる可能性がある。それは、わが国の株価動向を考える上でも重要なことだ。

2月の株価急落の後、米国の株式市場は緩やかに上昇してきた。8月末にはIT銘柄の多いナスダック総合指数が最高値を更新した。また、9月中旬には、S&P500指数も最高値を更新し、その後も全般的に米国の株価は高値圏で推移した。中間選挙が近づく中、10月上旬の相場環境は多くの投資家にとって利益を確定する良い機会だったといえる。これが10月10日、11日の米国株式市場の下落の背景要因だろう。

■トランプ大統領「自分を弾劾すれば株価は暴落する」

11月6日、米国では中間選挙が実施される。大統領選挙と異なり中間選挙は有権者の投票によって議員が選出される。そのため、中間選挙はその時の大統領の通信簿としての意味合いが強い。大統領再選を目指すトランプ大統領としては、何とか自らの成果を誇示して有権者の支持を獲得しておきたいところだ。それが、米中貿易戦争やイラン制裁再開などにつながっている。

中間選挙では下院の435議席すべてが改選される。一方、上院は35議席が改選対象だ。下馬評では、ロシアゲート疑惑などを理由に下院で民主党が過半数の議席を確保するとの予想が多い。

本当にそうなれば、トランプ政権の政策運営は停滞するだろう。近い将来、下院の過半数の賛成を得て大統領の弾劾訴追案が可決される可能性も否定できない。8月にはトランプ大統領自ら「自分を弾劾すれば株価は暴落する」と述べた。これは、トランプ氏が中間選挙の結果にかなりの危機感を持っていることを示した発言だ。

そう考えると、中間選挙はトランプ大統領の経済政策に無視できない影響を与える。民主党が下院の過半数を獲得すれば財政の悪化につながる経済刺激策を進めることは難しくなるはずだ。そのほか、移民政策など経済以外の政策分野でもトランプ政権への反対が増えるだろう。

中間選挙後の政策がどのように運営されるか、市場参加者は慎重にならざるを得ない。その見方が、今回の米国の株価急落と、それに続く各国の株式市場の下落につながった直接の要因と考える。

■大手投機筋の「プログラム取引」の影響か

中間選挙への懸念が高まる中、投資家は株価が上昇してきた米国のIT先端企業を中心に株式を売却した。10日、IT銘柄の多いナスダック総合指数がS&P500指数などよりも大きく下落したことはIT銘柄への売り注文が多かったことをよく示している。それに加えて重要なのが、人工知能などを用いたプログラム取引の影響だ。

大手機関投資家を中心に、より高いリターンを獲得するためにビッグデータを分析し、マイクロ秒(100万分の1秒)レベルでの高頻度取引を行うことなどが重視されている。データ分析の手法は統計学の理論を応用したものだ。各社の投資手法には共通点が多い。特徴としては、株価上昇の確率が高いと考えられる銘柄に買いが集まりやすい。その典型が米国のIT先端企業だった。

在ニューヨークのファンドマネージャーにヒアリングしたところ、10日の株式市場では、一部投資家の売りを受けて、プログラム取引を用いたファンドから米国のIT先端銘柄への売り注文が殺到したそうだ。その結果、売るから下がる、下がるから売るという連鎖反応が発生し大幅に株価が下落した。各社が似通った高頻度取引のプログラムを導入したことが、ナスダック総合指数を中心とする株価の下落を増幅させたということだ。

なお、プログラム取引が相場の不安定性を高めたことは過去にもみられた。1987年10月19日に発生した“ブラックマンデー(一日でNYダウ工業株30種平均株価が約23%急落)”の背景には、ポートフォリオインシュランスという投資プログラムの影響があった。これは、株価が下落すると先物を売り建て、さらに下落すると追加的に先物を売り建てるという取引プログラムだった。

また、2007年から2008年の米国株式市場では、統計学の手法を用いて株式投資を行うクオンツファンドからの住宅や金融関連銘柄への売り注文が増えた。各運用会社の用いる分析手法には共通点が多く、特定の銘柄・業種に売りが殺到して株式市場の不安定性が高まったと指摘する専門家は多い。

■株価が急速に下落トレンド入りする展開は考えづらい

足元、米国経済は好調だ。今すぐに、GDP成長率がマイナスに陥ること(景気の失速)は想定しづらい。成長率が幾分下ぶれる可能性はあるが、全体的には緩やかな景気回復が続くだろう。今年の年末商戦に関しても、小売企業経営者やエコノミストは強気な見方を示している。

しばらくの間、米国の株式市場は高値圏を維持する可能性がある。少なくとも、短期のうちに米国経済のファンダメンタルズ=経済の基礎的な条件が大きく悪化し、株価が急速に下落トレンド入りする展開は考えづらい。中間選挙が終われば、イベント消化から投資家のリスク許容度も回復するだろう。

ただ、株価の上値は抑えられ気味になるとみる。今回の株価下落を見ていると、市場参加者の経済に対する見方は徐々に変化している。最も重要なことは、米国の経済成長を支えてきたIT先端企業の成長期待が低下しつつあることだ。

■「GAFA」など米IT先端企業に対し、慎重な見方が増加

3月に発覚したフェイスブックのデータ不正流出問題はその一つだ。グーグルに関してもデータセキュリティ面への不安が高まっている。ユーザーの個人情報をどう管理・保護していくかは、多くのIT企業に共通する課題だ。アマゾンに関しても、データ管理・保護に関する規制強化の影響は免れないだろう。

また、世界的にスマートフォンの販売台数は頭打ちだ。新興国では低価格モデルが需要を集めている。価格帯の高いアップルの新型iPhoneが人気を獲得するのは容易ではない。GAFAを中心に米IT先端企業の経営に関する慎重な見方は増えるだろう。このように考えると、当面の米国株式市場は高値圏でもみ合いつつ上値は重くなる可能性がある。

■日本株が軟調に推移する展開も考えられる

これまで、わが国の経済は米国経済の好調さなど海外の要因に支えられてきた。その意味で、日本株は世界の景気敏感株だ。すでに中国経済の減速懸念から業績見通しを下方修正する本邦企業もある。

今後、米国のIT先端企業の決算および業績見通しが市場予想を下回る場合、米国株式市場には下押し圧力がかかるだろう。その場合、海外売上高比率の高い銘柄を中心に日本株が軟調に推移する展開も考えられる。米国IT先端企業への売りが増えたことは軽視できない。

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真壁昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年、神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫 写真=EPA/時事通信フォト)

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