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数学塾長の私が"プロの指揮者"である理由

プレジデントオンライン / 2018年11月1日 9時15分

■数学と音楽は密接につながっている

数学と音楽――。まったく異質に思えるかもしれないが、実はこの2つには密接なつながりがある。

私は数学塾を主宰する傍ら、プロの指揮者としても活動している。5歳の頃からピアノを始め、音楽の道を進むことを考えたこともある。東大理学部入学後は、大学の先輩とともに東京大学歌劇団を創設し、第2代の総監督を務めた。さらには大学院を中退し、オーストリアのウィーンに留学した。

そのウィーンでよく聞いたのは、「彼(彼女)は論理的だからいいよね」という言葉だ。日本では、音楽はヒラメキやセンスが重視されがちだが、欧米では数学でいうところの「logical(論理的)」であることが称賛の対象となる。

そうした土壌からクラシック音楽は生まれた。モーツァルトやベートーベンら天才作曲家が遺した名曲のスコア(楽譜)を読み解くとき、私はそこにある「論理」に感動する。音楽における「論理」とは、「和声」(ハーモニー)である。より具体的にいうと指揮者はスコアのなかの「和声の進行」(カデンツ)を読んでいるのだ。

クラシックは、それ以外の音楽と比べ、テンポが一定ではないという特徴がある。小節単位や拍単位でテンポが目まぐるしく変わる。したがって指揮者の重要な役割は、どのようなテンポで音楽をつくっていくかで、その際に大事なヒントになるのがカデンツなのだ。

少し専門的になるが、和音と和音記号(I、IIなど)について簡単に説明しておこう。図の楽譜はハ長調の和音と和音記号だ。和音はそれぞれが持つ機能(役割)によって分類される。特に重要なのが、トニカ(T)、ドミナント(D)、サブドミナント(S)の3種類。その調のなかでトニカは中心的な役割を果たし、「解放」「解決」「弛緩」といった印象を与える。ハ長調ではI(ド・ミ・ソ)が代表格。

ドミナントは「緊張」を与え、Ⅴ(ソ・シ・レ)が代表的だ。サブドミナントは、トニカよりもやや緊張感があり、「外交的」「発展」のイメージだ。IVのほか、II、VIもサブドミナントの機能を持つ。

写真=iStock.com/Eugeneonline

この和音の流れがカデンツで、カデンツには「T→D→T」「T→S→D→T」「T→S→T」の3種類がある。日本人になじみ深いのは「T→D→T」で、学校の朝礼の「起立→礼→直れ」の進行だ。

クラシック音楽の演奏とは、極論すれば、このカデンツで「緊張→緩和」の自然な流れをつくることだと私は考えている。ある曲を聴いて、非常に感動するところがあれば、そこには必ずカデンツがあるといっても過言ではない。そして、楽譜を分析すれば、綿密に計算された論理があることがわかる。つまり私たちが音楽を聴いて感動するのは、きちんとした論理的裏づけによるものなのだ。

スコアを読むことは、数式を読み解くことに似ている。数式には必ず論理があり、メッセージが込められている。そのメッセージを感じ取る感性がない数学者や物理学者は一流の研究者にはなれないと思う。事実、数学者の広中平祐氏は音楽家を目指していたことがあるほどで、アインシュタインも熱心な音楽愛好家だった。

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永野裕之
永野数学塾塾長
1974年、東京都生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科卒。大人の数学塾・永野数学塾塾長。著書に『統計学のための数学教室』『ふたたびの高校数学』『東大→JAXA→人気数学塾塾長が書いた数に強くなる本 人生が変わる授業』など。

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(永野数学塾塾長 永野 裕之 構成=田之上 信 写真=iStock.com)

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