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わが子を医学部に通わせられる"収入基準"

プレジデントオンライン / 2018年10月19日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/SIBAS_minich)

医学部に進む子の親は、医者であることが多い。それは医学部進学に多額の費用がかかるからだ。私立であれば学費だけで3000万円以上かかる。だがファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんは「普通の家庭でも、わが子を医学部進学させているケースはある。制度を活用し、やりくりを工夫すれば、無理ではない」という。どんな方法があるのか――。

■年収いくらならわが子は医学部に通えるか

医師からお金に関する相談をされるケースは意外に多い。

先日も、ある大学病院の勤務医Aさん(30代)から、今後のライフプランについて相談を受けた。Aさんの現在の年収は約1500万円。他病院への臨時診察といったアルバイトを入れれば1800万円ほどは稼げるという。しかも、一生現役も夢ではなく70歳以降も1000万円以上の高収入を維持できる。わざわざ節約だの資産運用だのとカリカリせずに、お金に困らない生活を手に入れられそうだが……。

Aさんにはネックがあった。

それは3人の子ども(1歳、3歳、5歳)の教育費だ。全員男の子で未就学だが、このうち1人は将来的に医師になる可能性も考えたい、とAさんは言う。そして残り2人も、小学校から高校まで「オール私立」で、大学も私立理系に進学という、最も費用がかかる進学コースでの費用をシミュレーションしてほしい、ということだった。

■医学部学費は国立350万円、私立3000万円台

幼稚園から大学まで、最も割安な「オール公立」の場合が約1067万円。最も割高な「オール私立」の場合が約2440万円。その差は約2.3倍だ。なお、この費用の目安は、大学の費用を私立大学文系・自宅生で試算したものなので、私立理系の場合は約140万円上乗せ、さらに下宿生の場合は、270~290万円(いずれも4年間の加算額)の上乗せとなる(※)

※日本政策金融公庫「平成28年度教育費負担の実態調査」、文部科学省「平成28年度子供の学習費調査」「私立大学等の平成27年度入学者に係る学生納付金等調査結果について」、日本学生支援機構「平成26年度学生生活調査結果」(大学昼間部)などをもとに筆者が試算。

しかも、医学部に進学する場合、大学には6年間通わなければならない。費用も国公立なら、トータル400万円ほどで済むが、私立なら3000万円台が一般的だ。

2017年に新設された国際医療福祉大医学部(千葉県)が6年間の学費で1850万円と2000万円を切る私立最安値で大きなニュースとなったが、多くの大学は軒並み3000万円台となっている。

■医師は収入が高いだけでなく、有利な融資も受けられる

したがって、Aさんの場合、3人の教育費を試算すると総額は約9000万円にのぼった。これではさすがの高収入のAさんでも、長男が大学に進学する頃から家計収支は赤字になってしまう。

このため、子どもが小さい間にできるだけ教育資金をプールしておくこと、収入が増えても支出が膨らまないようにすることなどをアドバイスした。

ただ、仮に不足した場合でも、医師には有利な融資制度がある。

各都道府県の医師会経由で申し込む「医師会提携融資」というもので、医師会が金融機関と協定を締結し、会員向けに融資を斡旋している。この制度は病院の開業資金や運転資金のほか、子どもの教育資金にも利用できる。事務手数料や保証料は無料で、一般的な銀行融資よりも条件は有利だ。

例えば、「京都府医師会融資斡旋制度」の場合、提携先は、京都中央信用金庫、京都信用金庫、京都北都信用金庫など。医学部進学に使える「子弟教育資金」の融資限度額は、年収の5倍以内(京都北都信用金庫は3000万円以内、ほかは5000万円以内)で、金利は1.2%(固定金利、返済期間20年以内、2018年1月1日実行分)となる。

固定金利で低利といえば、日本政策金融公庫の「教育一般貸付(国の教育ローン)」が代表格だが、融資限度額は、子ども1人につき350万円以内(海外留学の場合450万円以内)で、金利は年1.76%(固定金利(保証料別)、返済期間15年以内、2017年11月10日現在)となる。比較すると、条件の有利さがわかるだろう。

■親が医師なら医学部志望の子にかけるお金は惜しまない?

さらに、Aさんの場合、妻の実家の父(つまり義父)も医師だという。Aさん自身は、自分の教育費用を奨学金などでまかなってきたので、「あまり気が進まないんですが」と言いながらも、孫への教育資金援助の贈与が受けられる可能性も高そうだ。

このように医学部進学を目指す場合、大学の費用はもちろん、小・中学生からの塾代や家庭教師代、高校生ともなれば、医学部受験の進学塾や予備校の費用など、かけようと思えばいくらでもお金をかけられる。

医学部進学のために、子どもの教育費を惜しまない例はまだある。

地方在住の開業医B子さん(40代)の長男は、中学生から、医学部進学に強い私立中高一貫校に通うため実家を離れて寮生活を送っている。実家も学校所在地も、地方にあるため、交通アクセスが非常に悪く、毎月、会う時は双方が東京まで飛行機で行く。その交通費だけでもかるく年数十万円。きっと、彼らの辞書に「節約」の文字はないのだろう。

■サラリーマン家庭が医学部進学叶える唯一の方法

親が医師の場合、経済的にも余裕があるだろうし、自分が通ってきた道だけに、医学部進学のための環境も整えやすい。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Shoko Shimabukuro)

では、普通のサラリーマン家庭の子どもが医学部進学を希望した場合は、どうしたら良いのだろうか?

会社員のCさん(50代)の長女は、昨年、地元の国立大学医学部にストレート合格した。

Cさんは、長女が高校3年生の夏に突然「医学部に行きたい」と言い出した時、最初は冗談かと思ったという。本番試験まであと半年のタイミングだから、その気持ちもわからなくはない。しかし、娘は本気で、医学部進学という思いを経済的負担の重さからなかなか言い出せずにいたらしい。

Cさんの年収は約700万円、妻は公務員で年収約400万円。世帯年収は1000万円を超えるものの、長女の下に高校生になったばかりの長男もいる。近所に要介護状態の両親も暮らしているし、数年前にマイホームを購入したばかりで、そのローンは70歳まで続く。

長女の医学部進学の意志が固いことを知ったCさんは、浪人した場合のために医系予備校の説明会に参加したが、年間200~300万円の費用がかかるとわかり、「こりゃ、ムリだ」とため息をついた。参加者の親はほとんどが医師のようだった。

結局、Cさんの長女は、親に経済的負担を掛けさせたくないと、塾などにも一切通わず、現役で国立大医学部に合格。自宅からマイカーで大学に通っている。忙しい毎日を送るが、授業の合間をぬって、時給が高い塾のアルバイトで学費を稼いでいる。

Cさんは、「ウチのような普通のサラリーマン家庭では、医学部なんて絶対ムリだと思っていましたが、幸いなことに自宅から通える地元の国公立に合格できましたし、6年間の学費も何とか工面できそうです」と話す。

■自治医科大や防衛医大は一定の条件を満たせば学費タダ

Cさんの長女のようなケースを紹介すると、きっと優秀なお子さんだからと思われるだろうが、実際、その通りだ。

普通のサラリーマン家庭であっても、お金をかけずに医学部に進学することはできる。地方の公立高校などは、成績優秀者のための補習を積極的に行うなど面倒見のいい学校も多い。また、塾や予備校、大学などには、優秀な学生に対する入学金・学費免除制度がある。奨学金も給付型を選べば返済も不能だ。

さらに「自治医科大」や「防衛医大」など、一定の条件を満たせば入学金や授業料が一切かからない医学部もある。要するに、子ども本人のやる気と資質、情報収集力で経済的なハンデはカバーできるというわけだ。

お金をかければ、それほど優秀ではなくても、医学部に進学することはできるだろう。医師になるまでにお金をかけようが、かけまいが、医師としての能力に変わりがないのなら、患者としては特に気にしない。

しかし、実際、医師になった時に接する患者はお金持ちばかりではない。お金の苦労をしたことがない医師が、経済的に困窮している患者の気持ちにどれだけ寄り添うことができるのか……。医学部を目指す人は、親がどれだけの思いとお金をかけて進学を支えようとしているのか。ぜひ知っておいてほしい。

(ファイナンシャルプランナー 黒田 尚子 写真=iStock.com)

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