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子供の医療費で"住むまち"選ぶママの失敗

プレジデントオンライン / 2018年10月21日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/anurakpong)

引っ越し先を選ぶとき、「住みたいまちランキング」を検討材料にしてはいないだろうか。その結果にはたくさんの「罠」が潜んでいる。そのひとつは「子供の医療費」。「小児医療費無料」をアピールする自治体は多く、ランキングも上がりやすいが、行政評論家の大原瞠氏は、「医療費負担で住むまちを決めてはいけない」という。その理由とは――。

※本稿は、大原瞠『住みたいまちランキングの罠』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

■川の「こちら側」と「向こう側」で変わる小児医療費

東京23区に隣接する、ある市役所の窓口職員が、昔こんな愚痴をいっていました。再現してみます。

市民:うちの娘、この間○歳になったんですけど、次の小児医療費無料の保険証って送られてこないんでしょうか。

職員:うちの市では、小児医療費の自己負担分がゼロになる制度は○歳までとなっていますので……誕生日を迎えたら終わりになります。

市民:そうなんですか? ○歳のお子さんのいるママ友と話していると、医療費はかかってないって聞きますけど。

職員:そのお知り合いはどちらにお住まいでしょうか? この市ではないと思いますが。

市民:ええと、確か○○川の向こうなので、○○区だったかしら……。

子育て中の世帯の方はご存じのことと思いますが、現在、多くの市区町村では、一定年齢までの子どもの医療費(自己負担分)が無料になっています。

■東京23区内には18歳まで「医療費無料」なエリアも

本来の医療費自己負担の国内統一ルールとしては、小学校入学前までが2割、それ以上は70歳未満まで3割なのですが、ここ十数年ほどの間に多くの市区町村で、本来なら患者側が窓口払いすべき自己負担分を市区町村が丸抱え(助成)するようになってきているのです(厳密にいうと、都道府県も市区町村あてに補助金を出すことで、その一部を負担しています)。

しかも、どの市区町村も「子育てしやすいまちNo.1」を目指すべく、各都道府県が定めている助成基準に上乗せするかたちで、対象年齢を何歳までにするかなどの競争を繰り広げてきました(都道府県の基準を超える部分については、都道府県は補助をしないので市区町村が全額を負担します)。

むろん最強クラスは東京23区で、区によっては高校3年生(18歳になる年度末)まで無料になっていたりします。

■東京近郊3県も医療費を助成

大原瞠『住みたいまちランキングの罠』(光文社新書)

一方、東京23区を取り囲む3県の都市を見てみると、ほとんどの市が23区に食らいつき、中学3年生(15歳になる年度末)までの通院・入院自己負担分の全額助成を行っており(埼玉県和光市、戸田市、川口市、草加市、八潮市、三郷市)、埼玉県新座市と朝霞市はさらに拡大して高校3年生(18歳になる年度末)までとなっています(ただし朝霞市では高校生は入院のみ)。

また、千葉県浦安市では、未就学児の間は全額助成ですが、小学生から中学3年生(15歳になる年度末)までの間は、通院1回・入院1日当たり200円の自己負担額が発生します。市川市と松戸市の場合、未就学児を含め、中学3年生(15歳になる年度末)までの間、通院1回・入院1日当たりの自己負担があります(市川市300円、松戸市200円)。

ところが、大田区、世田谷区と接する川崎市は、入院は中学3年生まで全額助成ですが、通院の全額助成は小学3年生まで、それ以降は通院1回当たり最大500円の自己負担が生じる上に、小学6年生までで助成は終わりとなっていて、結構水をあけられています。23区とは直接接していない横浜市も同様です。

■隣接都市は医療費の“張り合い”に

そうした現状を見ると、川をはさんだ向こうとこっちで制度が違うのをにらめっこしながら、どっちの市区に家を買おうか考える子育て世帯の姿が目に浮かびます。はたまた、隣の市区に負けるなとハッパをかける地方議員、財政難に頭を抱える市役所職員の姿も目に浮かびます。

実際、横浜市と川崎市は、小児医療費助成の対象年齢幅が狭く、23区のみならず神奈川県内の他市などにも後れを取る時期が長く続きました。人口では2倍以上の開きがある両市ですが、23区と神奈川県の境と違って川で隔てられているわけではなく、ただの道一本で市境というところも多く、ある意味永遠のライバル都市です。医療費助成の対象年齢を1歳上げるごとに必要な費用は、横浜市の場合8億~9億円とさえいわれていますが、お互いに相手を意識し合って、近年は図表1で示したように、ほぼ同じタイミングで上限年齢を上げるべく張り合わざるを得ない状態になってきました。

■“小児医療費タダ”の不都合な真実

さて、前置きが長くなってしまいましたが、こうした小児医療費助成制度、要するに子どもの医療費がタダになるしくみは一見するといいことずくめですので、なるべく対象年齢幅が広いまちに住んだほうがお得であるかのように思えます。

しかし実はここにも不都合な真実があるのです。そもそも、子どもの医療費というのは、平均で1年間にどれくらいかかるかご存じでしょうか。厚生労働省の統計に基づき分析すると、年齢階級別で1年間にかかる医療費(公的医療保険制度で補てんされる分も含めた合計)や、特別な医療費助成がないものとしたときの2~3割自己負担の額(年額、1か月当たり)は図表2の通りです。

世の中には体の丈夫な人もいれば弱い人もいるので、ここに示されたのはあくまで平均値にすぎません。とはいえ一般論として、ある時期・年齢の子どもがどれだけ医者(歯医者を含む)のお世話になるかをざっくりイメージしてみると、乳幼児期は体が弱くてよく医者に連れていったのに、小学生、中学生と大きくなるにつれて(スポーツでケガなどしなければ)医者に行く機会が減り、社会人になってもしばらくは風邪ぐらいでしか行かないのに、年を取ってくると関節やら内臓やら体のあちこちにガタが来て医者通いが始まる……といったことは想像がつくでしょう。

つまり、小学校高学年あたりから子どもが扶養家族を外れるまでの10年ほどが、一般的には一番医療費がかからない時期なのです。自己負担3割で計算すれば、年間の負担は3万円もかからないわけです。

■医療費負担で住むまちを決めてはいけない

そんな前提を頭の片隅に置いた上で、たとえばの話ですが、子どもの医療費負担が高校3年生までタダの東京都千代田区と、厳密には小学校3年生(大目に見ても6年生)までしかタダにならない横浜市を比べて、住まいを決める際にはどちらを選んだほうが得でしょうか。

一見、6~9年間の違いは大きいなあと思うかもしれませんが、先ほどの図表2に基づき想定される、平均的な年間医療費自己負担額は10~14歳が約2万7600円、15~18歳は約2万1600円です。

一方、両地域の不動産価格水準を考えてみてください。支払う住宅ローンや家賃・駐車場代の差は、少なくとも毎月数万円、年間では数十万円以上の差が出ますよね。あくまで、きわめて単純化した金勘定だけでいえば、年間3万円程度の医療費助成に目を眩ませることなく、住むまちを選んだほうが賢いといえないでしょうか。(続く)

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大原 瞠(おおはら・みはる)
行政評論家
1974年生まれ。兵庫県出身。大学卒業後、学習塾講師や資格試験スクール講師を経て、行政評論家として活動。

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(行政評論家 大原 瞠 写真=iStock.com)

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