人の顔と名前を一瞬で思い出す方法とは
プレジデントオンライン / 2018年10月29日 9時15分
■東大に2回合格した、脳科学的勉強法
英語の資格試験や仕事に関係するさまざまな資格試験など、昨今は社会人になっても勉強が欠かせない。以前にも増して集中力、記憶力が試される場面がぐっと増えている。理論、言語を司る左脳も、感性に関わる右脳も、両方フルに使って学習したいものだ。
医学博士の福井一成氏に、試験に向けて学習効果を上げる方法を教えてもらおう。福井氏は東京大学の文系学部に入学しながら途中で医学部進学課程を受け直し、東大の文系学部と理系学部の両方に合格するという受験の達人でもある。
まず、最近は会社によっては社内公用語になるなど無視できない英語の学習法から。リスニングもスピーキングのどちらも上達したいものだ。しかしそれらの能力に関わる脳の位置は違うという。
「音を聞く機能は側頭葉の言語野にあり、話す機能は前頭葉の言語野にあります。脳活動を測定すると英語の『ドッグ』も日本語の『犬』も、耳から入るときは同じ言語野が反応しますが、しゃべるときは『ドッグ』と『犬』で違うところが反応します」
そのメカニズムに応じ、リスニングは英語と日本語をワンセットにして覚えるのが効率的だという。熟語や短文も同様にセットで記憶するのがお勧めだ。「He is a boy」と「彼は少年だ」くらいの短文なら十分一緒に覚えられる。
「市販のテキストを使ってもかまいませんし、よい教材がなければ自分でICレコーダーなどに吹き込んで覚えてもいいでしょう。覚えたい文章だけを選んで、自分で録音すれば教材になるので学習の効率がよくなる利点があります」
時間があれば「ドッグ」と「犬」に加えて、犬のイラストなど覚えたいことのイメージを描くのも効果がある。実はこうやって左脳と右脳の両方を使って言葉とイメージを一緒に覚え込む方法は、人の顔と名前を覚えるためにも使えるという。
●右脳:劣位半球
絵はわかるが、言語はわからない【画像や音を見る・聞く】
●左脳:優位半球
言語はわかるが、絵はわからない【言葉を読む・書く・聞く・話す】
STEP 1:イラストを見る 目を刺激→右脳で記憶
STEP 2:音読しながら書く 口と手を刺激→左脳で記憶
STEP 3:録音して聞く 耳を刺激→両方で記憶
「相手の顔を見てタレントに似ているとか、どこかに特徴があるとかなら、あだ名をつけてイメージを描くと記憶しやすくなります」
その人と会った日に自宅に帰ったら名刺の裏側に相手のイラストを描いておくのも記憶のコツだ。
次に、話す、書くなどアウトプットの能力の高め方。これらの機能に関わるのが前頭葉。福井氏は、アウトプットも実はインプットの暗記で勝負が決まるという。
「極端な例だと日本語の『朝飯前』を『That thing is before breakfast』と直訳でもなんでもない無意味な表現をしてしまう人がいます。『It is easy』と基本的な言い方をきちんと暗記していないと、話すことも書くこともできないのです」
ネーティブのように話したいと発音に気をつかったところで、肝心の意味の通じる英文が頭に入っていない限り、会話は成り立たないのだ。
■記憶力を高めるには「レム睡眠」を増やす
今度は法律用語や経済用語、数字などを覚えなければいけない資格試験の学習法についてアドバイスをもらおう。一番の鍵は体を使って覚えることだ。
「黙読よりも音読のほうが記憶しやすいという研究結果が出ています。自宅などで勉強する場合は声を出して覚えるのがいいでしょう」
目だけで覚えるよりも、目も口も耳も使う音読のほうが、脳のいろいろな部分を働かせるので記憶が定着しやすい。よく間違える用語は何度も録音するとか、3回以上間違えたところはノートにまとめて試験前日に見るとか、そうやってオリジナル教材をつくって活用するのも記憶のコツだ。
それでもなかなか覚えにくいこともある。とりわけ似たような用語だと間違えやすい。
「たとえば民法と商法の条文で似ているところがあって混同しやすいケースがあります。そんなときは、民法は赤線を引いて、商法は青線を引くなど、色を変えて覚えるといいでしょう」
色の違いでメリハリを利かせることによって記憶に残りやすくするのだ。覚えたいことを録音する場合は、音の高低で異なって聞こえるようにするといい。
「民法で間違いやすいところは高い声で、商法で間違いやすいところは低い声で吹き込む、あるいは男性であれば民法は自分で、商法は奥さんに吹き込んでもらうのも1つの手です。ちなみに多くの大学受験生が受けるセンター試験のリスニング問題は、誰が話しているかを間違わないように男女で会話する形式にしています」
●色分け
似ている項目で覚えにくいものがある場合には蛍光ペンなどで色をつけ、分けて覚えるのも効果がある。左脳に加え、右脳でも記憶を促す。最初から色分けするのではなく、どうしても覚えられないときに使うのが効果的なテクニックだ。
●音分け
暗記にはICレコーダーを使って覚えるのが有効だ。声を出して音読する効果に加え、聞くときには音として認識するので右脳も使って覚えられる。音の「高低」「強弱」「長短」などで分けることで覚え分けもすることが可能だ。
用語は覚えられるけど、数字が記憶できないという人によい処方箋はあるだろうか。
「なるべく右脳を使うのがコツです。4桁くらいの数字であればそれを紙に書いて張り、画像、イメージとして覚えてしまうのです」
記憶力を高めるために生活習慣にも気を使いたい。まずは影響の大きそうなのが睡眠だ。
睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があって約90分のワンセットになっている。脳は動いて体が休んでいるのがレム睡眠、脳も体も休んでいるのがノンレム睡眠だ。
「レム睡眠のときに記憶が定着します。最低でも4セット6時間の睡眠を取りたいところです。理想を言えば5セットの約8時間眠れればレム睡眠を1回増やすことができ、記憶がより定着しやすくなる。私が受験勉強していたときも8時間以上寝ていました。逆に記憶定着の時間がない徹夜は絶対にダメです」
睡眠をしっかり取ったら、朝ご飯をきちんと食べることも大切だ。
「起きたときは血糖値が下がっているから脳が働きません」
朝食を食べて血糖値を上げ、体を動かして血圧を上げると脳が動き出す。脳が活動するまでには1~2時間かかるので、それを計算に入れて仕事なり学習なりの計画を立てるといいだろう。
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![](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/a/-/img_7a694732e6508cfe50a94b8f35880d6211034.jpg)
医学博士
開成高校卒業後、東京大学文科II類に入学。翌年再度受験し、東京大学理科III類に合格。医師として勤務する傍ら、脳科学に基づいた勉強法に関する執筆を行う。著書に『脳を一番効率よく使う勉強法』など。
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(Top Communication 撮影=岡田晃奈 写真=iStock.com)
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