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ごみ工場集まる恵比寿"人気のまち"なワケ

プレジデントオンライン / 2018年10月25日 9時15分

近隣に清掃工場が2つある恵比寿エリア(撮影=大原瞠)

「住みたいまち」として高い人気を誇る東京の恵比寿エリア。実は1キロ圏に清掃工場が2つもある「ごみ工場集中地区」だ。しかし「ごみ工場があるから」といって避ける人はいない。行政評論家の大原瞠氏は「住民の多くは、迷惑施設の新設や移転に反対するが、恵比寿のようにすでに存在する施設は問題になっていない。迷惑施設の問題はほとんどが風評被害だろう」と指摘する――。

※本稿は、大原瞠『住みたいまちランキングの罠』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

■現代社会に必要不可欠な「迷惑施設」

まちの住みやすさというテーマで行政関係者と話をしていると、必ず出てくるキーワードに、「迷惑施設」というものがあります。文字通り、多くの人にとって迷惑で、近所にあってほしくないと感じる特性を持つため、新設や移転をしようとすると予定地の周辺住民から忌避・反対される施設のことです。

何をもって迷惑と感じるかという基準は人それぞれ異なりますが、具体的には廃棄物関係施設(可燃ごみを燃やす清掃工場、産業廃棄物保管・処分施設など)、産業関係施設(原子力施設、騒音や振動を出す事業所、有害物質を取り扱う工場など)、人の死に関係する施設(遺体安置所、葬祭場、火葬場、墓地など)あたりを迷惑施設と考えることについては、ほとんどの人に異議のないところでしょう。

ただ、右に挙げた施設はどれも現代社会には必要不可欠で、どこかには立地しなければならないものだけに、問題の根は深いといえます。

■迷惑施設の開業、課題は環境汚染より風評被害

何年か前、いわゆる「町工場のまち」として知られた東京近郊のとあるエリアで、工場が撤退した跡地を別の業者が遺体安置所に転用しようとして、地元と揉めたケースがありました。紛争からもう2年以上経っていますが、結局遺体安置所は開業しました。

遺体安置所を作るためには、においや病原菌などによる周囲への悪影響が出ないように、温度管理などを十分に行って遺体の損傷・腐敗を防止することが必要になりますが、こうした点は十分な設備を整えれば(要するにお金さえかければ)解決できます。

問題は、周辺住民にとって、近くにそういう施設があると気持ち悪いとか怖いとか、はてはこのエリアの評判が落ちて不動産価値も落ちるから困る(進出はやめてもらいたい)、という話です。これは、客観的に明らかな環境汚染などとは異なり、人間の意識から生じるもので、それこそ風評被害といっても差し支えありません。

■迷惑施設エリアへの転居、割り切ればお買い得

ただ、現実問題として、不動産価値は売り手と買い手の関係で決まるものである以上、今まで何もなかった(あるいは別の用途で使っていた)場所に、新たに迷惑施設ができれば、周辺の物件の不動産価値が多少低下してなんらかの経済的損失が生じる可能性は避けられません。たとえ、その施設による生活面への実質的な影響がゼロであったとしても。

一方で、そのことと一線を画して考えていただきたいのが、すでに存在する迷惑施設の近くの物件へ、納得ずくで転居を検討する場合です。風評被害による影響はすでに販売価格や家賃には織り込み済みなので(迷惑施設がなかった場合に比べて多少割り引かれている)、生活面で実質的な被害・不便がないとすれば、割り切れる人にとってはお買い得エリアといえないでしょうか。

■可燃ごみ清掃工場は今や生活利便施設の源に

市区町村が集めた可燃ごみを持ち込み、まとめて燃やすごみ清掃工場は、行政が新設を計画しようとするとき、とにかく地元対策に気を遣う施設の典型です。

ちなみに、近年豊洲新市場問題で騒がしかった東京都では、もう風化してしまい思い出す人も少ないようですが、今から45年ほど前にごみ処理施設の立地をめぐって大騒動が起きています。

一方、そんな過去の歴史に学ばなかったのかどうかわかりませんが、21世紀に入ってからは東京都小金井市でもごみ清掃工場の立地で混乱を招いたことがありました。

もともと同市は、隣接する府中市・調布市と清掃工場を共同運営していたのですが、周辺住民からの反対などもあり、3市境にあった施設の現地建て替えを断念することとなりました。その後、実際に廃炉になるまでの期間は十分あったので、府中市・調布市はそれぞれ別の市と組んで新たに共同処理を始める手はずを整えました。

しかし小金井市は市内に処理施設を作る計画が頓挫し、府中市・調布市に対してやっぱりもとの場所でやりたいと言い出して断られるなど幾多の迷走を経て、多額のお金を払って他市にごみ処理をお願いせざるを得なくなったのです(最終的には、日野市内の施設で処理することで決着しました)。

このように、ごみ清掃工場の立地は、都市部では非常にデリケートな問題なのですが、最新の環境技術をもってすれば、排気・排水・悪臭などによる工場周囲への公害の懸念はまずありえない時代なので、ごみ清掃工場の立地自体によるデメリットはもはやほぼ風評被害といえます。

一方で、稼働させたときに出る熱を利用して温水プールや温浴施設を稼働させて地元還元するのが当たり前になっているので、もはやごみ清掃工場は単なる迷惑施設というより生活利便施設の源という側面が強くなっているのが実態です。

■「住みたいまち」上位の恵比寿も清掃工場の集中地区

なお、先ほど触れた杉並区のいわくつきの清掃工場は京王電鉄井の頭線高井戸駅至近にありますが(初代は1982年に完成、建て替えられた二代目が2017年9月から稼働開始)、この路線はJR渋谷駅・吉祥寺駅を結ぶ都内屈指の「ハイソな鉄道路線」です。余熱利用施設として近くに温水プールも立地しており、もはや清掃工場の煙突があろうが、周辺の資産価値に大きな影響は生じていないように思われます。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/peeterv)

ほかにも、「住みたいまちランキング」で、トップグループ常連の恵比寿エリアも、実は1キロ圏に清掃工場が2つもある(渋谷清掃工場、目黒清掃工場)という、都内でも珍しい清掃工場集中地区であることはほとんど意識されていません。このうち、JR山手線などから煙突が見える渋谷工場については、諸事情から温水プールなど目に見えるかたちでの地域還元が行われていないのですが、まちのイメージにネガティブな影響を与える存在とはもはや考えにくいでしょう。

いずれにせよ、現在すでに存在するごみ清掃工場の周辺エリアは、それを理由に今後地価が下がっていくというわけではないので、これから移り住む人にとっては、生活利便施設が整っていることが多いという面からも、むしろお買い得といえます。

■産業施設の跡地にマンションが建つと税収は赤字に

近年、首都圏では、企業が運営していた大規模な産業施設(工場や倉庫、事務所など)が移転・撤退し、跡地にマンションが建つケースが増えています。旧来の周辺住民からすれば、こうした産業施設がなくなれば車の出入りや騒音、悪臭などがなくなり、地域がより安全・安心になり、よいことのように思えるかもしれません。

大原瞠『住みたいまちランキングの罠』(光文社新書)

しかし冷静に考えると、地域の中でこうした産業施設から住居への土地利用転換が進むことは、地元住民にとっては必ずしもメリットばかりではないのです。

なぜなら工場などを立地する企業は、地元行政からすると、道路や上下水道の維持などの最低限のサービスを果たしておけば、強い要望も文句もいわず固定資産税などを払ってくれて「黒字」になるのに比べ、人間の住民には、世代により相応の保育・教育・福祉などのサービスを提供しなければならず、おカネがかかるからです。保育所や小中学校、福祉施設の建設・運営コストの増大は、新住民から納められる税金による増収を上回り、「赤字」となる場合が少なくないのです。

そう考えると、工場が多く立地する地域では、企業が払ってくれた税金のおかげで、地元の住民サービスに回すお金が増えているわけです。

工場の多いまちというのは環境が悪いという印象を持たれがちですが、1960年代の公害社会で苦い経験をしてきた日本は、近隣との緩衝帯の設置や環境汚染防止のための取組が進んでおり、工場に隣接する住宅地は環境が悪いという話はもはや風評被害であることがほとんどです(特に大企業であればなおさら)。それゆえ現実として、納税のみならず、従業員による飲食・購買等を通じて地元経済への多大なる貢献をしてくれている工場を迷惑施設だと考えるなんて、恩知らずにもほどがあると思えてきます。

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大原 瞠(おおはら・みはる)
行政評論家
1974年生まれ。兵庫県出身。大学卒業後、学習塾講師や資格試験スクール講師を経て、行政評論家として活動。

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(行政評論家 大原 瞠 写真=iStock.com)

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