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大手エリート社員が中小企業でぶつかる壁

プレジデントオンライン / 2018年10月26日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/guvendemir)

大企業から中小企業に転職する人が増えている。だが、そこでつまづく人も多い。どこに問題があるのか。経営アドバイザーの三條慶八氏は「大企業から来た人はプライドが高く、社員を見下しがち。『中小企業のオヤジ』になりきれないと、転職は失敗する」と分析する――。

※本稿は、三條慶八『儲かる会社に変わっていく社長の全テクニック』(KADOKAWA)の第5章「『事業承継』『後継者育成』で会社の未来を創る」の一部を再編集したものです。

■中小企業は社長を探すにも大変

「働き方改革」のもとに転職者が増加しているというニュースをよく見ます。業務自体でいえば、中小企業ではプロジェクトを数人、時には1人で進められることがあり、大きな裁量を与えられることが多いです。また、大企業に比べて上司も少ないので、何かの承認を得るにも柔軟で小回りがききます。

こう見てみると、自分で仕事の舵取りをしたい人にとっては、中小企業のほうがやりがいを感じやすいのではと思えます。

しかし、本当にそうでしょうか? 中小企業には中小企業の難しさがあり、そこをしっかりと理解しておかないと「仕事以前のこと」でつまづくことになります。

近年、中小企業の後継者不足が深刻となっており、中小企業庁の試算によると、高齢の経営者が経営する中小企業245万社中127万社、約半数が後継者未定だそうです。30年前は7割あった親族への承継が、最近は5割を切っています。

今後は、親族以外の内部昇格や外部からの招聘も増えていくでしょう。もはや同族への事業承継にこだわっていられる時代ではなくなっているのです。

このように中小企業では存続のために後継者(=社長)のリクルートに必死です。その現場を見てみましょう。

■「銀行の担当者が会ってもくれない」

「私の知識や技術が少しでも役に立つなら、と軽い気持ちで引き継いだのですが、まったくの間違いでした」

どうみてもエリートサラリーマンにしかみえない中年の紳士が、私の事務所に相談にみえました。

この方は1年ほど前に外資系の投資顧問会社を辞めて北関東の実家に戻り、家業の工具製造会社を経営しています。まだ40代半ばですが、高齢のお父様が寝込んだために、ご両親のたっての望みで社長を引き継ぐことになりました。

同社は技術力に定評があり業績も安定しているために、引き継ぎ自体は順調に進んだのですが、社長就任後しばらくしてからある問題が浮上してきました。

それは、社長業を引き継いだ本人の気持ちの問題でした。それまでの仕事のやり方とのギャップが大きすぎて精神的に落ち込み、これからどうしていいかわからなくなった、というのです。

「先日、取引銀行の支店長さんのところに挨拶に行ったら、『支店長は急に出掛けた』と女子行員がいうのです。面談のアポを取っていたのに、これはショックでした……」

大学時代には金融工学を専攻し、最初の就職先が大手都銀だった同氏にとっては、考えられない対応でした。おそらく、それまで銀行に頭を下げたこともないに違いありません。

「中小企業に転職する以上、ある程度は覚悟していたのですが、これほどギャップがあるとは思ってもいませんでした。また、それ以上につらいのが社員との関係でした。『余所者上司』と思われたのか、何かにつけ冷たくあしらわれ、すっかり会社で頑張る気がなくなってしまいました」

それまでの価値観とは180度違う世界にいきなり飛び込んで、カルチャーショックが抜けないまま1年が過ぎてしまったようです。

■ぬるま湯にいたことを思い知る

実は、こうした相談は非常に増えているのです。今回のケースでは、大手企業の一流技術者が実家の中小企業を継いでいますが、うまくいかなかった最大の理由は、どうしても社員を上から見下ろしてしまうためです。

「えっ、ロース指令(編集部注:ヨーロッパの有害物質使用制限指令。特定有害物質の含有を禁止し、リサイクルの容易化、廃棄物の無害化、削減を目的にする)も知らないの?」

仮に本人にその気がなくても、ちょっとした不用意な言葉や態度に現場の社員は敏感に反応します。中小企業における社長と社員の関係は、大企業における管理職と部下の関係とはまったく別物なのです。

社長の意識が大企業時代のままであれば、いつまでたってもお互いの信頼関係は築けません。最悪の場合、愛想をつかしたベテラン社員たちが新会社を設立してこれまでの顧客を奪い合うことにもなりかねません。

社員との無意味な感情の軋轢を避けるには、一流のプライドをきれいさっぱり捨てて、「中小企業の親父さん」になりきるのが一番なのです。

■新人のつもりで社員と接することができるか

先程の相談者の方の話に戻りますが、相談を受け、私はさっそく同氏の凝り固まったエリート意識をぶち壊す作業を開始しました。

三條慶八『儲かる会社に変わっていく社長の全テクニック』(KADOKAWA)

「自分のデスクまわりのゴミは自分で捨てる」「仕事で使う資材がなくなっていたら発注しておく」といった「自分でできることは自分でする」という中小企業の心得から、社員の興味のあることやその家族のことなど、大企業にいた時には「少しプライバシーに踏み込みすぎているかな」と思うようなことでも、中小企業ではできるだけ個人に目を向けて話をするようにするなど、社員への接し方について話をしました。

おそらくは頭ではわかっていても、気持ちがついていけなくて悶々とされていたのでしょう、徐々に明るい表情になり、最後は、吹っ切れたような笑顔でお帰りになりました。

それから1カ月後、同氏から電話がありました。

「おかげさまで順調です。やはり中小企業は人ですね」

明るい大きな声でした。もともと能力の高い同氏のことです。中小企業マインドに気が付くことさえできれば、この会社も同氏も大丈夫でしょう。

■後継者選びは結局、「確信」と「祈り」

「後継者選びは『確信』と『祈り』に尽きる」

かつて大先輩の経営者に教わった言葉が印象に残っています。

「『こいつしかいない』という確信がなければ指名はできない。確信はあっても本当に会社を守ってくれるのか、大きくしてくれるのかは不安だらけ。しかし引き継いだ以上は、あれこれ口を出してはいけない、ただ祈るように見守るほかはない」というのです。

味わい深い言葉ですが、後継者選びがいかに大変であるかと同時に、選ぶ人の眼力、見識がとても重要だということもよくわかります。

私は、相談者の悩みにできるだけお答えするように努めていますが、実は、後継者選びは慎重にお手伝いしています。社長に適任かどうかの人物評価ほど難しいことはないからです。

最もオーソドックスな方法は、複数の後継候補がいるとすれば、その中から早めに適性を見抜いて1人を後継候補に指名し、順調に育つのを見守るパターンです。その際、長い育成期間中に何が起こるかわからないので、万一を想定してリスクヘッジをかけておくことも大切です。つまり、2番目の候補も腹の中で決めておくことです。

ただし、後々に禍根を残さないために、表向きはあくまで後継候補は1人にしておくべきです。

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三條慶八(さんじょう・けいや)
経営アドバイザー
1960年神戸市生まれ。負債140億円を背負った会社を完全復活させた経験に基づき、中小企業経営者に会社経営、会社再生法を伝授している。著書に『1000人の経営者を救ってきた コンサルタントが教える 社長の基本』(かんき出版)、『あなたの会社のお金の残し方、回し方』(フォレスト出版)など。

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(経営アドバイザー 三條 慶八 写真=iStock.com)

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