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"中卒でも月収100万"職業としての大相撲

プレジデントオンライン / 2018年10月25日 9時15分

日本相撲協会は借入金のない優良法人。ゼロからでもプロ選手になれ、待遇も手厚い ※写真はイメージです(写真=denkei/PIXTA)

6人に1人が貧困といわれるこの時代。貧困家庭に生まれた子がまた貧困に陥る世代間連鎖も大きな問題だ。どうすればそこから脱出できるのか。自らも貧困家庭から抜け出し、翻訳家・著述家として活躍するタカ大丸氏は、「狙い目の仕事」を徹底調査した。その結果、「文句なしにおすすめなのは大相撲」という。その理由とは――。

※本稿は、タカ大丸著『貧困脱出マニュアル』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

■「日本出身者はただの肥満かそれ以下しかいない」

相撲部屋の稽古を見学したことがある人はどれくらいいるだろうか。実は、相撲の稽古は本場所中でなければ簡単に見学することができる。そして、一度でも稽古を見学すれば、なぜ稀勢の里が出てくるまで長年日本出身の横綱が出てこなかったのか一目でわかる。

一言でいえば、「海外からはアスリートが来ているが、日本出身者はただの肥満かそれ以下しかいないから」である。

動かぬ証拠がある。式秀部屋の公式ツイッターアカウントにある募集要項である。

「式秀部屋では新弟子を随時募集しています。中卒以上23歳未満の身長167cm体重67kg以上(3月は中3のみ165cm 65kg以上)が合格基準です。相撲経験の有無は不問です。力士になりたい方、興味がある方はお電話かDMにてお気軽にご連絡ください」(2017年5月17日)

「随時」ということは、つまり「いつでもOK」ということである。半年にふたりずつ、年に4人しかなれない将棋のプロ棋士からすると「ふざけるな」という話である。中学3年で165cmの基準なら大部分の男子中学生がクリアできるのではないか。さらに次の一文が重要である。

「相撲経験の有無は不問です」

つまり相撲をやったことがなくても新弟子になれるというのである。サッカーをやったことがないJリーガーなど絶対にいるわけがない。私が知る限り、野球経験がないのにプロ野球選手になれたのは東京五輪100メートル走代表の飯島秀雄氏だけだ。これだって、五輪代表選手で代走専門という特別の条件があったから実現した話である。プロになるのにここまで敷居が低い競技がほかにあるはずがない。

また、友綱部屋はウェブサイトでもこう謳っている。

「一流企業でもリストラを繰り返しており自主再建できなくなった企業もたくさんある中、日本相撲協会は借入金のない優良法人です。力士は社員採用ではありませんが、ゼロからでもプロスポーツ選手になれるのは相撲だけです」

■十両の月給は100万円、さらにベースアップも

海外から来る力士と言えば、モンゴル相撲で実績があったとか、ブルガリアでレスリング国内王者だったとか、ハワイでアメフトをしていたとか、何らかの運動経験・実績をひっさげている。日本人の入門者はそういうのがいない。

タカ大丸(著)『貧困脱出マニュアル』(飛鳥新社)

相撲の世界は序ノ口から始まる。そこから序二段、三段目、幕下とあがっていき、十両からお金をもらえるようになる。さて、ここで問題です。十両になったら毎月いくらもらえるでしょう? 私は、周囲のあらゆる友人・知人にこの謎かけをしてみた。

「え、せいぜい20万か30万くらいじゃないですか?」
「いっても50万かなあ」

このあたりの答えが多い。残念ながら不正解である。それくらいなら、私が勧めるはずがない。正解は「100万円」である。私が知る限り、何のとりえもない中卒が月収100万円を目指せる可能性がある職業など、たぶん相撲取りしかない。

しかも、これはあくまでも「基本給」である。それに加えて年に2回「餅代」と称したボーナスがつく。つまり年収は100万×12ではなく、100万×16なのだ。

さらに勝ち越し分の手当て、もう少し上に行くと懸賞分も加算される。たとえば、ひとつの場所を10勝5敗で終えたとする。とすると勝ち越し分は5となる。これに勝ち越し分1につき50銭が加えられる。そして現代はこの50銭を4000倍して計算するので、2円50銭の4000倍、つまり1万円が引退までずっと月給に加えられ続けるのだ。8勝7敗なら50銭、9勝6敗なら1円50銭だ。

それから忘れてはならないのが「金星」である。幕内に入り、平幕力士が横綱を破ることを「金星」というが、金星をひとつ上げるごとに基本給が10円加算となる。これも先ほどと同じく4000倍するので手当が月4万円増え、これが現役生活中ずっと続く。友人の某都議会議員が思わず「そんなベアを勝ちとれる労働組合なんかどこにもありませんよ」とつぶやいたが、その通りである。

昔、安芸乃島という力士がいた。最高位は関脇だったが、彼は生涯で金星を16個あげた。つまり、基本給に加えて手当が毎月64万円支給されていたということである。娑婆の仕事のなんとか手当で2万円とか3万円というのは聞いたことがあるが、毎月60万円以上手当てがつく職業など、相撲取り以外にはありえない。

さらに大切なことがある。十両になるまで、衣食住が一切タダになるということだ。衣についてはまわしか浴衣ということになるが、すべて部屋から支給される。食はちゃんこ鍋となるが、この食材は全て親方の負担となる。つまり弟子はびた一文払わなくていい。もちろん料理はしなければならないが、相撲取りになるということは質量ともに食べなければならないから、必然的に料理の腕も磨かれることになる。

そして住についても、大部屋の雑魚寝とはなるが、家賃ただで部屋に住み込むことができる。十両になれば付き人という名の召使いがつき、個室がもらえる。私も当然のように収入から家賃を払っているわけで、こんなおいしい話は出版業界には絶対にない。

■力士だけでなく「裏方」の道もおいしい

「相撲は貧困脱出に最適の手段である」この仮説が正しいのかどうか、実際に相撲部屋を訪問して直接親方に確かめてみることにした。

2018年2月某日、私はスカイツリー近くの「鳴戸部屋」を訪れた。ちなみに、鳴戸親方はブルガリア出身の元大関琴欧洲である。新興の部屋ということもあり、弟子はまだ少ない。全部で4人で、稽古に参加していたのは3人。全体練習の後、親方に話をうかがうことができた。

開口一番、「子供たちの貧困脱出という観点から言って、相撲は一番だと思うのですが」と私が切り出すと、即座に親方は「私もそう思いますよ。だって、私自身19歳のときに父親が事故で働けなくなったから日本に来たわけですし、相撲部屋に入ってしまえば住むところ、着るもの、食べるもの全部タダですからね」と断言した。そして、相撲部屋で衣食住がタダになるのは力士だけではないのだ、と親方は力説した。

【親方】皆さん、力士のほかに相撲の世界には裏方がたくさんいるのを知らないでしょ。マゲを結う“床山”さん、もちろん行司、あと取り組みが始まるときに力士の名前を呼びあげる“呼出”もいます。15歳から給料をもらえますし、よほど問題を起こさなければ安定した給料をもらえる仕事ですよ。中卒でも月14~15万円は確実にもらえますよ。ある意味、中卒で入門したお相撲さんより条件はいいですよ。

【私】そうした裏方になるにはどうすればいいのですか?

【親方】まず第一に、18歳までに入らなければなりません。そして一場所でも早く入門したほうが先輩ですから、18歳で入って15歳のほうが一場所早く入ったから先輩ということが普通にあります。それなら早く入ったほうがいいでしょう。募集要項ですが、それぞれ定員があるのですよ。呼出枠が50人いて、50人いたら入れません。ひとつ空きができればひとり入れます。中3で卒業したときに入ろうと思うなら中一くらいのころから予約しておくことです。そこが新弟子検査を受ければいつでも入れる力士との違いですね。

【私】力士として大事なことはなんでしょう?

【親方】力士として上に行きたいなら、まずケガをしないことです。ケガをしたら、出世が遅れます。相撲をしている限り、ケガを100%防ぐことはできませんが、ケガしにくい体を作ることはできます。そこを私は重視して指導しています。

■腕立て10回できなくてもOK!

話をうかがう親方がひとりだけではウラをとったことにはならない。そこで私は日を改めて、今度は両国にある時津風部屋を見学することにした。親方は元時津海である。

【おかみ】親方は、柔道とかほかの競技の経験は、むしろないほうがいいというんですよ。

【親方】変な癖がついていないからね。

【おかみ】柔道は引きますよね。相撲は押しますから、その意味だとまっさらなほうがいいらしいんですね。

【私】相撲取りは、10時に稽古が終わったあとどんな1日を過ごしていますか?

【親方】稽古が終わったら風呂に入って、11時くらいから関取から順番にごはんを食べていきます。若い衆が食べ終わってから片づけをして2時くらいから昼寝をして、4時から起きて掃除をしたあと晩飯の支度をしていきます。夕食は6時からで、それを片付けてからは自由時間です。消灯は11時ですね。

【おかみ】先々代の時代はお弟子さんが50人とかいましたから朝2時から稽古していましたけどね。

【親方】そうしないと全員稽古できないんですよ。人が多いから。今はそこまで多くありませんから、朝も早くないんですよ。

【私】昔ほかの部屋を見学したときに、腕立て伏せ20回できないヤツがいて驚いたことがあるんですよ。

【親方】そんなのたくさんいますよ。腕立て10回できなかったヤツがゴロゴロいます。

【おかみ】(弟子のひとりを呼び)この子は、中学校の先生に連れてこられたんですよ。「お前はこのままだとワルになるしかないから相撲でもやれ」って。相撲経験は皆無でしたけど、今幕下まで上がっていて、たぶん次に関取になるのはこの子ですよ。

【私】野球とかサッカーだと、そもそも特待生になるのが難しく、そこで生き残るのはもっと難しく、ドラフト指名は東大に入るよりはるかに難しいという現実がありますからね。

【おかみ】その点相撲は競技人口が少ないし、競争もそういうスポーツほどではなく、月給に加えて給金や懸賞金もつきますからね。

■16歳でも100万円貯められる

事前にある程度把握していたつもりだったが、相撲の良さは想像以上だった。

十両になったらまとまったお金がもらえるのは知っていたが、幕下以下でも手厚く保護されていた。腕立て10回できなくても入門でき、将棋と違って年齢制限もなく、人材難・人数不足が続いており、協会からの手当もあるので戦力外通告もゼロ円提示も引退勧告もない。にもかわらず、7月の名古屋場所で、新弟子検査の受検者はゼロだった。

しかも、中卒で入門・就職して高卒資格をとりながら1年で100万円の貯金ができるというのである。私が知る限り、そんな職業は見たことも聞いたこともない。もし相撲取り以外に16歳で100万円の貯金ができる職業をご存じの方がおられるなら、教えていただきたいくらいである。

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タカ大丸(たか・だいまる)
翻訳家・著述家
英語同時通訳・スペイン語翻訳者。1979年福岡県生まれ岡山市育ち、最下層の貧困母子家庭にて少年時代を送る。高校卒業後、肉体労働で資金をため2000年1月に米国ニューヨーク州立大学ポツダム校に入学。卒業後は様々な職業を経験後、翻訳者として自ら発掘した海外書籍を刊行。訳書に『ジョコビッチの生まれ変わる食事』(三五館)などがある。

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(翻訳家・通訳者・ジャーナリスト タカ 大丸 写真=denkei/PIXTA)

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