なぜ日本企業はアマゾンにいつも遅れるか
プレジデントオンライン / 2018年10月24日 9時15分
■アマゾンのスピードを支える「組織階層の少なさ」
アマゾンは他の大企業に比べ、組織階層は驚くほど少なく構成されています。これはアマゾン内での「決断」と「行動」のスピードを高める、非常に大きな要素です。
私は、アマゾンジャパンのオペレーション部門のディレクターという肩書きを拝命していました。その上にはVP(ヴァイス・プレジデント/世界各国のアマゾンの社長にあたる)、その上にSVP(シニア・ヴァイス・プレジデント/各部門の最高決裁者でシアトルにいる)、そしてCEOのジェフ・ベゾスがいるだけです。
ちなみに旧来の日本企業の場合、社長がいて、副社長がいて、専務がいて、常務がいて、平取締役がいて、理事がいて、事業部長がいて……部長に至るまでに8階層、9階層もあり、場合によっては決裁権が曖昧なままの組織すらあります。
また、アマゾンでは基本的に「上司は、階層が1つ下の部下の人事権を持つ」ということも徹底しています。なぜなら、いちばん近くで見ている上司がその部下をサポートしなければ意味がありません。つまり、上司がその部下を評価するのがきわめて自然な流れととらえているのです。仮に、部長から見て、いくつか階層を隔てた部下がミスを犯したとしても、部長は必ず1つ下の部下に注意します。こうしたことを徹底し、上司と部下の関係性をシンプルにしています。
組織構造に変革を起こしたい方は、「とにかくヒエラルキー(階層)をつくらない」という観点で、組織編成のしかた、情報共有のしかたを見直してほしいと思います。
しかしながら、大企業ほど組織編成を変更するのは簡単ではありません。そんなときに役立つのは、メーリングリストを使った情報共有で、これは、すぐに始められて、効果も表れやすい方法です。
■「情報ヒエラルキー」の壁を壊せ
日本の企業では、「情報を得ることが職位の権限」という考え方が根強くあるように感じます。「これは部長以上でないと手に入らない情報です」「これは課長じゃないと聞けない情報です」といった情報が存在しているわけです。
アマゾンには、このような考え方がありません。組織だけでなく、「情報にヒエラルキー(階層)を持たせない」という考え方も持っています。もちろん、会社の株価に重要な影響を与える情報は十分に配慮しますが、業務を遂行していくうえで一部の人だけが握っていればいい情報などない、と原則として見なしているのです。
情報の階層をなくし、関係者へ情報を横展開するのに欠かせないものこそ、メーリングリストです。これで情報を公開すれば、全員が同じ内容を目にすることができます。
部長だけが知っている情報を、課長が忖度しながら係長に下ろし、それを係長がまたまた忖度しながら若手に伝える、といった伝達の方法は、スピード感に欠けます。また、曲解される危険性や、伝達されない可能性もあります。情報のヒエラルキーを壊せば、これらのことが一気に解消するのです。
ただし、膨大な数のメールを読むことに追われて、重要な情報を見逃してしまう可能性が高いなら、ある程度の見通しが立ったプロジェクトのメーリングリストからは除名することも大切です。
■権限を委譲する「任せる力」
アマゾンでは、「デリゲーション」という言葉をよく使います。日本語で「権限委譲」という意味です。
この反意語にあたるものの1つは、「囲い込み」ではないでしょうか。「これは部長の仕事だ。課長なんぞにやらせられるか」といった感覚です。深層心理には、「この“既得権”を手放すと自分の存在価値を失ってしまう」という恐れや不安があるのでしょう。
もう1つの反意語は、「抱え込み」です。「アイツはまだ頼りない。任せるには早すぎる」といった感覚です。その結果、仕事がパンクしてしまう、というのはよく見られる光景です。
自分の現在の仕事をできるだけ手放して、次のレベルの仕事に注力するのが、世界共通の考え方ですし、アマゾンも同じです。新しいビジネスを次々と手がけていく企業の場合、最初に仕事が下りてくるのはビジネスオーナー(アイデアの起案者)です。その人にさまざまな仕事が集中するため、仕事を誰かにお願いできなければ、あっという間にパンクしてしまいます。
■部下と機械に仕事を振れ
実は私もアマゾンに入社してから同じ経験をしたことがあります。あれもこれもやらなければと思えば思うほど焦り、自分が何とかしなくてはと追い込んでしまったのです。まさに「抱え込み」の典型例です。このときは、上司がサポートしてくれたことで、抱え込んでいた仕事を分散することができました。
では、委譲する相手は誰か? 答えは2つあります。
【(1)部下】→ 委譲するとともに成長機会にする
今の仕事はどんどん任せて、自分自身はより経営に近い仕事を担ったほうがいいでしょう。そのスムーズなバトンパスが、会社の成長を生み出します。また、権限委譲は、部下に成長の機会を与えることでもあります。
部下に権限を委譲することは、決して難しいことではありません。まず一番大切なのは、本人に「あなたに権限を委譲します」と伝え、関係者たちにも「権限を委譲した」と伝え、自分も相手も周りも「委譲」を意識させることです。
このとき「囲い込み」や「抱え込み」の感覚が強い上司が犯しがちな失敗は、「全部やっておいて」と言いながら、権限は自分が持ったままで手放さないことです。「全部やらなければいけないのに、いちいち上司にお伺いを立てなければいけない」という状況が、いかに仕事に対するモチベーションを下げるか、逆の立場で考えてみましょう。
権限を委譲したら、後は任せる。部下の成長具合によっては「定期な進捗報告はお願いしたい」「困ったことがあればどんどん聞いてほしい」といった形で、最低限のルールを決めつつ、あくまでもサポートに徹するのがベストです。ただし、目標や方向性と照らし合わせて間違いが生じている場合は、「当初の意図している方向とは違う方向に進んでいる」ことを言葉できちんと伝え、話し合いの中で修正を行うのです。
部下への権限委譲は、上司にとってはその時間を使ってさらに高次の仕事ができ、部下はより大きな仕事の充実感を味わえ、お互いが成長できてハッピーをもたらすものなのです。
【(2)コンピュータ】→ テクノロジーで解決できることを見極める
アマゾンでは、コンピュータがやってくれることはコンピュータにやってもらえば良いと割り切っています。例えば、レポートのグラフ作成。これは、誰かが時間をかけてつくっているわけではなく、データベースの数字をもとに、コンピュータソフトが自動成形してくれます。
![](https://president.jp/mwimgs/9/a/-/img_9a3433a0a5619e215b8ea577a138365c90620.jpg)
今後、「作業」と呼ばれる類いの仕事は、コンピュータが行うようになるでしょう。そして、AI(人工知能)の発達により、人間が現在行っている仕事の大半は「コンピュータにやってもらったほうが、大量にできて、高速で、精度も高い」という時代は必ず訪れます。
つまりこれからの時代、人間は人間にしかできない、知的創造性にあふれた仕事にどんどん注力すべきなのです。
現在、計算やデータ作成などのように「人間でなくてもできる」という作業は、すでにたくさん存在しています。このような“仕分け”を今のうちからクセにして、自動化できる仕組みや方法を模索していきましょう。そうして、来るべきAI時代でも生き残る会社・人材へと成長することができるのです。
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企業成長支援アドバイザー
セガ・エンタープライゼスを経て、アマゾンジャパンの立ち上げメンバーとして2000年7月に入社。オペレーション部門のディレクターとして国内最大級の物流ネットワークの発展に寄与する。2016年退社。現在は、経営コンサルタントとして企業の成長支援を中心に活動中。
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(企業成長支援アドバイザー 佐藤 将之)
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