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消費税引き上げ“来年10月”は時期が悪い

プレジデントオンライン / 2018年10月23日 9時15分

2018年10月16日、消費税率の引き上げを表明後、欧州外遊を前に報道陣の取材に応じる安倍晋三首相。(写真=時事通信フォト)

■「税率引き上げの再延期」を検討する必要もある

安倍首相は、2019年10月に消費税率を現行の8%から10%に引き上げると表明した。この発言は、これまでの予定を実現する覚悟を示したものだ。ただ、来年10月というタイミングが、消費税率引き上げの時期として適切か否かについては、専門家の間でも意見が分かれる。

2019年の後半以降、これまで世界を支えてきた米国経済の減速が鮮明化する恐れがある。それは、海外の要因に支えられてきたわが国の経済に無視できない影響を与える。

もちろん税率を引き上げることは、わが国の財政健全化に欠かせない。わが国では、少子化と高齢化が同時に進み人口が減少することは避けられない。医療費を中心に社会保障関係費は増加し、現役世代の負担は高まる。この状況が続くと、将来への不安心理が強まり、国内経済を縮小させてしまう恐れがある。

それを避けるためには、増税に関する国民の納得を得て税収を増やして財政の再建を図ることが重要だ。社会全体で、公平に税を負担する意識が必要になる。そのために、幅広い世代、所得階層から同率の税負担を求める消費税率の引き上げが選択された。

安倍政権には、消費税率引き上げ後の駆け込み需要の反動減を抑えるために、十分な景気対策を実行することが求められる。ただ、冷静に考えて、消費税率引き上げ時点で国内経済の減速懸念が高まっている場合には、情勢を客観的に見極めて再延期の可能性を検討する必要もあるだろう。

■これ以上、「社会保障関係費」を削除するのは難しい

わが国の財政状況を改善させるためには、主に3つの方法がある。1つ目は徴税の強化、2つ目は歳出の削減、3つ目は経済成長で税収の自然増加を図ることである。

それぞれの方法にはデメリットや実現性の問題がある。徴税の強化は経済にとってマイナスの面が大きい。例えば、税収を増やすために所得税や法人税の引き上げを行うことは一つの案だ。ただ、所得税の引き上げは現役世代に一段の負担をかけることになる。可処分所得が減少することを受けて、現役世代の消費が減ることが考えられる。また、法人税率の引き上げは、国際的な法人税率の引き下げ競争に逆行する取り組みであり、企業がわが国で事業を行うことにマイナスに働くだろう。

次に、歳出の削減にも限界がある。平成30年度の予算では、歳出総額(約98兆円)のうち34%程度を社会保障関係費が占める。高齢化の進展などによって社会保障関係費は増加することが予想される。歳出の削減は容易ではない。それに加えて、社会保障関係費を削減し医療の自己負担額が引き上げられることは、人々の不満を増大させるだろう。自己負担の増大を受けて、現役世代が消費を抑制することも考えられる。また、政治家にとって社会保障のカットは自らの政治生命を左右する恐れもある。

■「異次元緩和」から5年以上たってもインフレ期待は低い

また、経済成長を図るには時間がかかる。経済成長を促進するために進めた政策が、本当に狙った通りの効果を発揮するとも限らない。アベノミクス下での日本銀行による異次元の金融緩和はそのよい例だ。

2013年4月、日本銀行は2年で2%の物価上昇率を達成することを目指して量的・質的金融緩和の導入に踏み切った。しかし、それから5年以上が経過した現時点でも、インフレ期待は上昇していない。将来の成長を当てにして財政の再建を進めることは難しく、その不確実性も大きいと考えるべきだ。

■さまざまな景気対策が検討されているが……

基本的に、1つの方法でわが国の財政状況を立て直すことは難しい。実際には、徴税の強化と歳出の削減、経済成長の3つの方法を組み合わせることが現実的である。具体的には、税の負担を特定の階層(世代、所得階層)に偏ることなく、社会全体で分担していくことが重要だ。それが、社会全体での公平感を保つということである。

次に、増税によって得られた財源を社会保障関係費に充てることで、必要な歳出を支える。その上で、政府が増税による景気の悪化を抑えるために必要な政策(景気対策)を進めることが求められる。

安倍政権は、2019年10月の消費税率引き上げを予定通り実行するとしている。消費税は子供から高齢者まで、わが国の国民がその消費額に応じて等しく負担する税制である。安倍政権は、消費税率を10%まで引き上げた場合、そのうち1%分の2.8兆円の財源について、社会保障の充実に充てるとしている。具体的には、子ども・子育て支援に0.7兆円、医療・介護に1.5兆円、年金に0.6兆円を振り向けるという。

また、安倍政権は経済成長を実現するために、消費税率引き上げに合わせてさまざまな景気対策を計画している。自動車購入時の税金減免、額面以上の買い物ができる“プレミアム商品券”の発行、そしてキャッシュレス決済(現金を用いずにQRコードやクレジットカードなどを使って代金の支払いを完結すること)での消費税率引き上げ分=2%分のポイント還元などだ。

そうした取り組みが国民の理解と納得を得られれば、消費税率引き上げ後の需要の落ち込みが緩和される可能性はある。それは、財政再建を進めつつ緩やかな景気回復を維持していくために必要不可欠な取り組みだ。

■最も重要なのは「2019年10月」の経済環境

問題は、消費税率引き上げのタイミングだ。2019年10月の経済環境がどのような状況になっているか、それほど楽観はできない。

経済環境が良好であれば、これまでの経験から言って1年程度で消費税率引き上げのマイナスを吸収することは可能だろう。2014年4月の消費税率引き上げの後、2016年ごろからわが国の景気モメンタムは持ち直した。それは、消費者のマインドが従来よりも高い消費税率に慣れ、消費水準が従来の水準に回復したことといえる。

重要なポイントは、2019年10月の経済環境だ。わが国の経済は、国内事情によって改善しているとは言いづらい。それよりも海外の要因によって、国内景気は改善してきた。最大のポイントは、2019年10月の米国をはじめとする世界経済がどうなっているかだ。

2009年7月から米国経済は回復してきた。足元、中国経済が減速しているにもかかわらず世界経済全体が相応の安定感を維持しているのは、米国経済が回復基調を維持しているからだ。世界経済の中で、米国は独り勝ちの状況にある。ただ、未来永劫、景気の回復が続くことはあり得ない。

■必ずしもベストのタイミングとは言えない

現状の経済環境と過去の景気循環を基に考えると、米国経済は2019年の後半には減速することが予想される。GDP成長率が2期続けてマイナスになる景気後退が実現するとは想定しづらいものの、状況によっては米国経済の成長率が実力=潜在成長率を下回ることもあるだろう。

米国経済の減速が鮮明になれば、海外経済に依存して回復してきたわが国経済の減速は避けられないはずだ。状況によっては、想定以上に国内の企業収益が減少する恐れもある。その意味では2019年10月の消費税率引き上げは、必ずしもベストのタイミングとは言えないかもしれない。

ただ、安倍政権として実行を明言している以上、最大限の対策を打ったうえで消費税率の引き上げを実行し、社会保障関連の財源を増やすことが望ましい。長めの目線で考えても、消費税率の引き上げによる財政の健全化は必要だ。

一方、世界経済が大きく落ち込むような事態になった時は、情勢を冷静に判断して、場合によっては再延期という決断を下すことも考慮すべきだろう。

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真壁昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年、神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫 写真=時事通信フォト)

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