尊敬されたい願望のない上司が最強のワケ
プレジデントオンライン / 2018年11月11日 11時15分
※本稿は、「プレジデント」(2017年3月20日号)の掲載記事を再編集したものです。
■【QUESTION】部下にバカにされた
佐々木の答え:尊敬されようと思うな、自然体で接すればいい
■目下の者でも必ず、「さん」付けで呼んだ
私は入社以来20年間、企画や管理業務に従事した後、いきなり営業の課長に任命されました。着任前、私に対する悪い評判が聞こえてきた。新たに部下になる社員たちに「営業を何も知らない課長が来るらしい」とバカにする気持ちがあったのでしょう。そこで私は着任するなり部下たちにいった。「営業のことは皆さんのほうがよく知っているはず。教えてください」と。見栄を張って、わからないのにわかった振りをしたりしても、どうせ見透かされる。部下に頼るべきところは頼ったほうがいい。「部下に教えを請うのは恥ずかしい」とか、「上司たるものかくあるべし」と肩に力の入った態度こそがバカにされる。わからないことがあれば知っている人に聞くのは、仕事のうえでも当たり前です。
組織の中で朝から夕方まで毎日働いていれば、自分の人生観や価値観、生き様などが、毎日の仕事ぶりにすべて表れてしまいます。ちょっとやそっと取り繕っても、どうせ本性はバレます。それならいっそのこと、予断を持たずに自然体で振る舞うほうがいい。そうすれば案外バカにされることはありません。
そうはいっても、自然体とは何もしないことではありません。何の準備もしないで、ただ「教えてください」なんて、たとえ相手が部下であっても失礼です。私は着任する前、当時社内で「営業のプロ」とか「営業の神様」といわれていた5人の先輩社員にお願いし、事前に営業の心得を学ぼうと努めました。そのとき諸先輩方から教わった「心得」は、意外にも自分の前職とも共通する話が多かったのです。
お客さまとの約束は必ず守るとか、クレームが発生したら直ちに連絡するとか、基本的なことばかり。営業といっても、ビジネスパーソンとして大事にすべきことは何ら変わらない。未経験の部署であっても、それまで通りの通常の努力をすれば大丈夫だという確信を持って着任できたという背景もあります。そうした裏付けがあったからこそ、新しい上司を値踏みするような部下の前にいても自然体でいられた。実際、前職までの経験を生かし、営業でもしかるべき成果を出すことができました。
目下の人に教えを請うのが苦手な人は、人間関係を「上下」でとらえるクセがあるのでは。たとえ上司と部下といえども、上下関係だけで押し通そうとすると失敗する。「上から指示を出す」のではなく、対等な仲間として「いいアイデアがあればください」という姿勢で臨む必要があります。
私は30歳を過ぎた頃から、目下の人でも必ず「さん」付けで呼ぶようにしてきました。新入社員に対してもそうです。若い人でも私より優れたところがある。年を取っていても、私のほうが得意なこともある。それぞれに違う得意分野を持っているわけですから、業務で成果を挙げるには、相手をリスペクトして、強みを引き出してあげないといけない。
ずっと目下の部下からすれば、やはり「さん」付けで呼ばれると印象が違うようです。尊重してもらっている気持ちになるのか、実力以上の力を発揮してくれるようになる。
部下にバカにされていると感じたとしても、自分の思い込みということも多々ある。あまりに縦の関係に縛られるあまり、上司が過剰反応しているのです。裏を返せば「上司なんだから尊敬されて当然だ」という驕りともいえるでしょう。部下も対等な人間だと思っていれば、バカにされているなんて疑心暗鬼になることはないはずです。
「上司の思い込みや過剰反応というケースも多い」
岸見の答え:部下の能力を正当に認め、貢献には感謝を表す
■まず自分から、部下を信頼しているか
部下にバカにされたからといって嘆く必要はありません。上司をバカにできるということは、上役の顔色を窺っていいなりになったりせず、自分の頭で考えて判断できる証拠。部下に対していつも高圧的に接していれば、面と向かってバカにされることはないかもしれませんが、尊敬されているとも限りません。ただ単に、部下が萎縮していいたいこともいえなくなっているだけかもしれない。それよりはバカにされているほうがずっとマシ。部下がモノをいいやすい雰囲気をつくれているのだとしたら、上司としては上出来です。
部下にバカにされたら嫌だと思う気持ちの裏には、上司である自分は尊敬されてしかるべきという思いがあるのではないでしょうか。つまり、上司は部下より「偉い」のだと。それは大きな間違いです。上司と部下なんて、職場における役割の違いにすぎません。上司であるだけで偉いと思っているようだから、バカにされてしまうのです。
部下にバカにされないためには有能な上司になるしかない。本当に実力のある上司なら、部下も尊敬するでしょう。ただし勘違いしないでいただきたいのは、何でも完璧にこなせるエリートたれ、という意味ではありません。上司に求められる仕事、つまり部下を適切に指導し、引き上げることに徹すればいいのです。
具体的には2点だけ押さえれば十分。ひとつは、部下の能力を正当に認めること。たとえバカにした態度でも、いっていることに理があればきちんと認める。上司である自分に落ち度があったら素直に謝り、行動を正すことです。
2つめは、部下の貢献に注目することです。部署の業績アップに部下が少しでも貢献したときは「ありがとう」と感謝の気持ちを言葉にする。そうした上司の態度は、部下にしてみれば珍しく映るはず。そういう変化を、まず上司が率先して見せる。もちろん部下が失敗したときは、同じミスを繰り返さないように、感情的に叱るのではなく、的確な指示を出さないといけない。
「どうして部下にそこまで媚びへつらう必要があるのか」と思うでしょうか。こうした部下への接し方が難しいと感じる人は、おそらく部下を信頼できていない。アドラー心理学では、対人関係の要のひとつに相互信頼があるとしています。ここで大切なのは、「相互」とはいっても、まず自分から先に相手を信頼すること。相手が部下であっても同じです。部下が自分を信頼していようがバカにしていようが関係ありません。
部下を信頼しなければ、いつまでも仕事を任せられない。たとえば、部下が持ってくるレポートや、出版社などであれば原稿が全然ダメ。だが締め切りが迫っている。こういうときに、いつも上司が自分で書き直してしまうと、部下は成長しません。
管理職としてのポイントさえ押さえれば、まっとうな部下ならそうそうバカにすることはありません。プレーヤーとしてがむしゃらに自分の業績アップを狙うような働き方では部下がついてこない。もはや現場の最前線で戦う現役選手ではないのだから、満塁ホームランを打とうとせず、コーチや監督として部下を的確に指導し、部署全体のマネジメントに努めるほうが大切です。
そもそも部下は、マネジャーである上司の仕事をわかっていないはず。プレーヤーの自分と比較して、上司の能力を値踏みできている気になっていることも多いのです。その発想を正す意味でも、管理職としての仕事に注力すべきなのです。
「現役選手ではなく、コーチや監督として仕事する」
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佐々木マネージメント・リサーチ代表
1944年生まれ。69年、東京大学経済学部卒業後、東レに入社。2001年に同期トップで取締役に。03年、東レ経営研究所社長に就任。10年より現職。
哲学者
1956年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。京都聖カタリナ高校看護専攻科非常勤講師。共著書『嫌われる勇気』は155万部のベストセラーに。
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(佐々木マネージメント・リサーチ代表 佐々木 常夫、哲学者 岸見 一郎 構成=小島和子 撮影=大沢尚芳、森本真哉 写真=iStock.com)
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