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"メンタルが強めな人"にある3つの超感覚

プレジデントオンライン / 2018年11月2日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/SIphotography)

困難な状況にもめげずに結果を出す人は、いったいどういうメンタルの持ち主なのか。ストレス・マネジメント研究者の舟木彩乃氏は、メンタルが強い人たちには共通する「3つの感覚」があると指摘する。そして、その特徴は時代劇『水戸黄門』にもあらわれているという。どういうことなのか――。

※本稿は、舟木彩乃『「首尾一貫感覚」で心を強くする』(小学館新書)の一部を再編集したものです。

■強制収容所サバイバーの研究

ほとんどの人は、学校や職場、あるいはサークルなど、なんらかの組織に所属していると思います。その仲間の中に、「人生、何もかもうまくいっているみたいだな」と思う人や、困難な状況にもめげずに「メンタルが強そうだ」と感じる人はいませんか?

もしそうだとしたら、今あなたが思い浮かべた人たちは、「首尾一貫感覚」が高い人たちである可能性が高いと思われます。

首尾一貫感覚は、ユダヤ系アメリカ人の医療社会学者であるアーロン・アントノフスキー博士によって1970年代に提唱された考え方です。アントノフスキー博士が首尾一貫感覚を提唱するきっかけとなったのは、イスラエルに住む女性たちの心身の健康状態を調査したことでした。その中には、第二次世界大戦中にユダヤ人強制収容所に入れられた経験を乗り越え、厳しい難民生活を生き抜いた末に、更年期になっても良好な健康状態を維持している女性たちがいました。彼女たちは、なぜ挫折せずに生き抜くことができたのか──そこに着眼したのがアントノフスキー博士でした(*)

博士は、「こうした人々に共通する特性は一体なんなのか」という研究課題を設定し、過酷な経験をした人々に対するインタビューを重ね、関連した先行研究の再検討を行なった結果、「健康に生きる力」の根源として「首尾一貫感覚」にたどり着いたのです。

首尾一貫感覚は、「Sense of Coherence」が直訳された言葉で、文字通りの意味では、自分の生きている世界が「首尾一貫している」(Coherence)という感覚(Sense)を持っていること、となります。言い換えると、首尾一貫感覚が高い人は、自分が生きている人生について「腑に落ちる」という感覚を持っているのです。

アントノフスキー博士の定義をそのまま引用します。博士は、この首尾一貫感覚が「3つの感覚」から構成されているとしています。

「首尾一貫感覚(SOC)とは、その人に浸みわたった、ダイナミックではあるが持続する確信の感覚によって表現される世界(生活世界)規模の志向性のことである。それは、第1に、自分の内外で生じる環境刺激は、秩序づけられた、予測と説明が可能なものであるという確信、第2に、その刺激がもたらす要求に対応するための資源はいつでも得られるという確信、第3に、そうした要求は挑戦であり、心身を投入しかかわるに値するという確信から成る」(アーロン・アントノフスキー著『健康の謎を解く──ストレス対処と健康保持のメカニズム』)

■首尾一貫感覚を支える「3つの感覚」

この「3つの感覚」について、まずは大枠でイメージをつかんでいきたいと思います(*)

感覚その1:把握可能感(Sense of Comprehensibility)

日々の生活や人生で起こることはだいたい「想定の範囲内」であり、想定外のことが起こっても自分はそれを把握できるという感覚です。学術的には、「自分の置かれている状況をある程度理解できている感覚」「今後の展開をある程度予測できる感覚」「その出来事がどのようなものなのか説明できる能力」などと説明されています。

感覚その2:処理可能感(Sense of Manageability)

課題やトラブルを前にしても、自分や周りを巻き込みながら乗り切れるという感覚です。学術的な説明では「ストレスと感じる出来事に対してなんとかなる」「なんとかやっていけると思える感覚」ということになります。なぜ「なんとかなる」という感覚を持てるかというと、困難を乗り越える時に必要となる“資源”(相談できる人やお金、権力、地位、知力などをまとめてこう呼びます)があり、それをタイムリーに引き出せる自信があるからです。アントノフスキー博士は、このような“資源”を「汎抵抗資源」と名づけましたが、ここでは、わかりやすく“資源”、もしくは「仲間と武器」と表現しようと思います。

感覚その3:有意味感(Meaningfulness)

自分の身に起きるどんなことにもすべて意味がある、という感覚です。学術的な説明では「自分が直面する問題の解決に向けた努力や苦労のしがいも含め、やりがいや生きる意味を感じられる感覚」「目の前の問題を挑戦と見なせる感覚」となります。

■「水戸黄門」に見る首尾一貫感覚の要素

首尾一貫感覚を考えるうえで、面白いヒントの1つになるのが『水戸黄門』などの時代劇ドラマです。 主人公の「ご隠居」黄門様は、全国津々浦々を旅しながら庶民の暮らしを見てまわっています。ところが、そんな旅先の村で、人々の平和な暮らしを壊そうとする悪代官などの悪政や悪行を目にすると、その実態を探るべく、ウラ事情をくまなく調査します(把握可能感)。

そのうえで、「助さん」「格さん」「風車の弥七」「うっかり八兵衛」といった「仲間と武器」をフル活用し、悪者たちを力でねじふせます(処理可能感)。その結果、正義が勝って悪は滅び、村に平和をとりもどせる(有意味感)という流れでストーリーがつくられています。

いわゆる勧善懲悪(善事をすすめ、悪事をこらしめる)ものと呼ばれるドラマや芝居のパターンですが、多くの作品が「首尾一貫感覚」の要素を満たすような構成になっていることは、とても興味深いことではないでしょうか。

『水戸黄門』以外にも、『遠山の金さん』や『必殺仕事人』シリーズでは、ウラ事情を調査・把握する方法に独特の工夫が見られます。やり方はさまざまですが、結果的に、視聴者はドラマの主人公と同じ目線で「すべてはだいたい想定の範囲内」と感じられるようになっています。「仕事人」たちの処理可能感は半端なものではない完成度ですし、金さんの締め言葉「これにて一件落着」は、北町奉行の職責を果たし、江戸の平和を守ったことを宣言する大いに“意味のある”言葉です。

また、それと同じように、『ウルトラマン』や『仮面ライダー』といった子ども向けの特撮ヒーローものから、『ドラゴンボール』や『ワンピース』『プリキュア』などの漫画・アニメにも、「把握可能感」「処理可能感」「有意味感」を満たす仕掛けがたくさん盛り込まれています。さらには、ハリウッド映画の中にも、やはり勧善懲悪やヒーローの成長物語が多数あり、同様の指摘ができると思います。

もちろん、これらのドラマや物語は、「首尾一貫感覚」を意識してつくられたわけではないでしょう。それなのに、なぜ「把握可能感」「処理可能感」「有意味感」の要素が作品の中に含まれているのでしょうか。

これは仮説にすぎませんが、困難やアクシデントを前にして生き抜く力を与えてくれるドラマや物語というものを模索していった結果、たどり着いた“定型”が勧善懲悪ものであり、「首尾一貫感覚」に通じるものだったということではないかと思います。人々は、日々の苦労や生活難を忘れて、これらのドラマや物語を見ることで、「明日また頑張ろう」と勇気づけられたのではないでしょうか。

ここには、もう1つ大切なヒントが隠されています。それは、「首尾一貫感覚」は子どもたちが受け入れやすい感覚であると同時に、大人になってからでも後天的に高めることができるものだということです。

■「折れない心」は後天的にも身につく

首尾一貫感覚を構成する3つの感覚は、それぞれがバラバラにあるわけではありません。お互いを補完しあうようにつながっています。 たとえば、「把握可能感」で「だいたい把握できている」と思うことは、「(いま把握できている範囲で)なんとかなるだろう」という「処理可能感」へとつながります。

舟木彩乃『「首尾一貫感覚」で心を強くする』(小学館新書)

逆に、相談できる人やお金、権力、地位、知力などの、処理可能感を高める「仲間と武器(=資源)」を使って、把握可能感を高めることもできます。また、「自分自身に起こる出来事にはすべて意味がある」という「有意味感」を生み出す価値観や考え方、アイデンティティなども、処理可能感を高めるための「武器」になるといえます。

「首尾一貫感覚が高い人は、特別な境遇にある人や選ばれた人である」と思われる方もいるかもしれません。しかし、首尾一貫感覚は、先天的なものではなく、後天的に高められるものです。だからこそ、苦難に直面した時や、過剰なストレスに押しつぶされそうになっている時に大きな力になるものだと理解していただきたいのです。

(*参考文献) 山崎喜比古・戸ヶ里泰典『健康生成力SOCと人生・社会 : 全国代表サンプル調査と分析』(有信堂高文社)

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舟木彩乃(ふなき・あやの)
ストレス・マネジメント研究者
10年以上にわたってカウンセラーとしてのべ8000人以上、コンサルタントとして100社を超える企業の相談に対応。一般企業の人事部や国会議員秘書などを経て、2015年に筑波大学大学院に入学。修士課程修了後、同大学院人間総合科学研究科ヒューマン・ケア科学専攻(博士課程)に在籍中。主な論文に精神科医に求められる役割とメンタルヘルス」「国会議員秘書のストレスに関する研究」など。

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(ストレス・マネジメント研究者 舟木 彩乃 写真=iStock.com)

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