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「持ち帰ります」客のウソを注意できるか

プレジデントオンライン / 2018年11月5日 9時15分

コンビニの飲食コーナーで無線インターネット接続をするビジネスマン。2001年、街角で無線でインターネット接続が可能な「ホットスポット」が増えたことを伝える写真。(写真=時事通信フォト)

財務省は10月、イートインコーナーがあるコンビニでも、消費税率8%の軽減税率を受けられる対応基準を示した。購入時にレジで「持ち帰るか、その場で食べるか」を確認され、「持ち帰る」とした場合は10%ではなく8%になるという。元ローソン店長で、現在もコンビニの店頭に立つ流通アナリストの渡辺広明氏は、「コンビニのレジ業務はやることが多すぎる。持ち帰りの確認は現実的ではない」と指摘する――。

■25年前よりはるかに煩雑化したコンビニレジ

月に数回、コンビニの店頭に立つことがある。そこで感じるのは、25年前までコンビニ店長をやっていた経験が、レジ業務についてはあまり役に立たないということだ。とにかく煩雑なのだ。

規格統一されていない各種電子決済やポイントカードの有無、タバコやアルコールの年齢確認、インターネット通販やオークションサイトの受付・受け渡し対応、公共料金の支払い、チケットの発行、レジ横のホットスナックやおでんの調理や販売……。

異国の地でこんなにややこしい仕事をこなす外国人アルバイトには、尊敬の念を抱かずにはいられない。あるコンビニオーナーは「10年前は、新人アルバイトが入っても1~2日でレジ打ちができるようになったが、今は学生なら5日間、外国人や年配者なら2週間程度はかかる」と語る。

■「持ち帰りますか?」確認の手間が発生

そんな中、財務省は10月4日、店内に椅子やテーブルを置くコンビニやスーパーなどでの軽減税率の対応基準を示した。「飲食禁止」を明示し、持ち帰りの意思確認ができれば、イートインコーナーがあっても、8%の軽減税率が適用される。

2019年10月に予定される消費税増税で、外食には10%の消費税がかかるようになるのに対し、テイクアウトや宅配には軽減税率が適用され、8%のまま据え置かれる。これまでのガイドラインでは、イートインは外食扱いで対象外だったが、今回の線引きにより店内に椅子やテーブルなどがあるコンビニでも、食品に軽減税率が適用される。

想定されているのは、レジで客に意思を確認し、持ち帰るなら消費税8%、イートインで飲食していくならば10%としてレジ打ちをする形だ。単純な確認作業のように思えるかもしれないが、前述のようにすでにコンビニのレジ業務は非常に煩雑になっている。店舗によっては1日1000人近く来店するのだ。なかでも食品の購買比率は高く、レジオペレーションに確認対応を入れ込むことは著しい非効率となる。

コンビニの大きな利点は、すばやく買い物ができることだ。ちょっと買い物をしようと立ち寄ったコンビニで、レジに長蛇の列ができていて、「じゃあやめよう」と踵を返した経験のある人もいるだろう。小売業界は人手不足が続いている。コンビニ各社は2010年頃からセルフレジの導入を進め、客1人あたりの会計にかかる時間の短縮を進めてきた。

一方で、コンビニ各社は、2013年頃からイートインスペースの設置を拡大してきた。これには、10年前に比べて60%以上売り上げが落ちた雑誌売り場を縮小したことで、空いたスペースを活用したいという事情がある。また、財布のひもが堅くなっている消費者に対して、1人で簡単に済ませる食事や、ちょっとした打ち合わせ、休憩といったニーズに応えることで、客を取り込みたいという考えも当然あった。

レジでの判別は不明なため、イートインを設置したことによる直接的な売り上げ効果は計れない。また清掃の手間や、購入した酒類を飲んで長時間滞在する客への対応など、運用コストは大きい。だが、特にコンビニコーヒーの登場以降は女性やビジネスパーソンによる利用が増え、他業態からの売り上げの収奪に一定の効果があるとされている。

■10兆円を突破した「中食」市場

惣菜=中食市場は今伸び盛りだ。日本惣菜協会の「惣菜白書」によれば、2017年の市場規模は前年比2.2%増の10兆555億円となり、初めて10兆円を突破した。なかでもコンビニは前年比3.7%増で、業態別では最も大きい伸びを見せている。ファミリーマートは2019年2月末までに「中食構造改革」を推進し、専用工場を新設する計画を発表している。

現在、大手コンビニの総店舗数は5万8435店舗(18年9月末時点)を超え、今年8月まで既存店客数は29カ月連続でマイナスとなっていた。全国的に、飽和状態に陥っているのだ。

そうした中で各社は、成長の期待できる中食に力を入れ、店舗レイアウトを変更し、よりスムーズな買い物のためにレジシステムの改善を重ねてきた。「持ち帰るか、この場で食べるか」という確認作業をレジ業務に加えることは、こうした企業努力に冷や水を浴びせかねない。

軽減税率導入に際して必要になってくるのは、「外食」の定義の修正だろう。現在のガイドラインでは

(1)テーブル、いす、カウンター等の飲食に用いられる設備のある場所で行う
(2)飲食料品を飲食させるサービス

となっている。これを、「飲食に用いられる設備のある場所で、店員が盛り付け作業を行い、給仕するサービス」と定義し直せば、イートインスペースのある小売業でも一物二税ではなくなり、店舗も客も混乱することがなくなるのではないだろうか。

これは一見、中食を扱うコンビニやスーパーが有利になるように思えるが、必然的に外食産業はテイクアウトを強化することになり、マーケットは活性化するだろう。食事のアウトソーシング化が進み、ビジネスパーソンの家事負担も軽減される。

■「8%で買った人が飲食している」苦情が出かねない

今回の線引きでは、レジでの購入時に「店内では食べない」と言った客が、実際にはイートインスペースで飲食をするケースが発生するだろう。

客の側も気を使う。イートインを気軽に使えなくなるせいで、購入したものを店外で飲食する客も出るはずだ。わざとではないにせよ、事情が変わって店内で食べることにした場合、「10%で払っていない」という引け目を感じながら食事をするのは楽しくない。居合わせた別の客が「持ち帰ると言ったのに店内で飲食をしている人がいる」と店員にクレームをつけてくる可能性もある。

注意をするかどうかは店員に委ねられるのだろうが、慌ただしい業務の中で、購入した客が店内で食べていないか目を光らせるのは現実的ではない。逐一そうした対応が必要になれば、いよいよコンビニのレジ業務は破綻に近づくだろう。面倒な仕事を嫌って、働き手が集まらなくなることも予想される。筆者も軽減税率導入後にまた店頭に立つ機会を持ち、実際にどのような結果を迎えたのかを経験しようと思っている。

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渡辺 広明(わたなべ・ひろあき)
流通アナリスト・コンビニ評論家
1967年、静岡県生まれ。東洋大学法学部卒業。ローソンに22年間勤務し、店長やバイヤーを経験。現在はTBCグループで商品営業開発に携わりながら、流通分野の専門家として活動している。『ホンマでっか!? TV』(フジテレビ)レギュラーほか、ニュース番組・ワイドショー・新聞・週刊誌などのコメント、コンサルティング・講演などで幅広く活動中。

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(流通アナリスト・コンビニ評論家 渡辺 広明 写真=時事通信フォト)

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