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クリスマスに角があるトナカイは「メス」

プレジデントオンライン / 2018年11月3日 11時15分

“イクメン”化するライオン(画像=『春・夏・秋・冬 どうぶつえん』)

動物園をどのように楽しんでいるだろうか。動物を眺めるだけで済ませるのはもったいない。動物には、季節限定の姿があり、その「うんちく」を知ると、一層楽しめる。1年の半分は動物園に通う「動物園ライター」の森由民氏が、思わず話したくなる6つの“秘密”を紹介する――。

※本稿は、『春・夏・秋・冬 どうぶつえん』(東洋館出版社)の一部を再編集したものです。

■動物園のライオンはイクメン化

春の動物園は出産ラッシュ。ライオンにも赤ちゃんが生まれます。お父さんライオンも、生まれてきた子どもたちと遊び、丹念になめて毛づくろいをするなど、百獣の王の顔からすっかり優しいお父さんの顔になっています。こののどかさは、ほかのオスと競う必要がない環境にいるライオンならではの姿です。

最近の研究では、群れの基本はメス同士のつながりだと考えられていて、オスはほかのオスに勝つことでメスたちに認められ、受け入れられます。そのため、野生ではオス同士が激しく戦いますが、動物園では、おとなのオス1頭だけで群れを組ませるのがふつうなので、オス同士の競い合いがないのです。ちなみに、メスが好むルックスは、黒々としてふさふさしたたてがみの持ち主。強くて健康なオスの証しなのです。

なお、ネコ科の動物は、おとなになるとオスもメスも単独でくらします。動物園でトラなどが1頭ずつで飼育展示されているのは、このためです。かれらは出会って交尾し、その後の子育てはメスだけで行います。ネコ科の家族にはお父さんがいないのがふつうで、その意味でも動物園のライオンの姿は珍しいのです。

■授乳疲れで白髪になるフラミンゴ

何かを育てることを「はぐくむ」と言いますが、一説には親鳥が卵やヒナを羽でくるむようす「羽+くくむ(くるむの古語)」からできた言葉なのだそうです。春の動物園で、父母ともに「はぐくむ」姿を見せてくれるのが、フラミンゴです。

フラミンゴ夫婦は絆が固く、夫婦が協力して子育てします。ヒナは、人間で言うと母乳のような「フラミンゴミルク」という栄養満点の液体で育つのですが、フラミンゴミルクは消化管の一部からつくられるので、父フラミンゴからも与えられるのです。

フラミンゴ夫婦の絆は固い(画像=『春・夏・秋・冬 どうぶつえん』)

産まれたヒナが巣立つまでの期間は約1カ月。たったひと月とはいえ、子育て熱心な親のなかには、チャームポイントのピンクの羽毛が白くなるのもいます。ピンク色はエサとなるプランクトンの色素のおかげです。フラミンゴミルクにこの色素が大量に入ってしまうため、自分の色が抜けてしまうのです。

フラミンゴといえば、大群でいるイメージがありますが、それは危険への防衛のためで、ふだんの活動自体は夫婦ごとが基本。あの大群のなかで、お隣さん同士の夫婦は、縄張りを主張して小競り合いすることもあり、ご近所トラブルも珍しくありません。

■隠したクルミを盗み食いされてしまうニホンリス

秋のニホンリスたちは冬支度の真っ最中で大忙し。夏には短かった毛がふわふわの冬毛となり、耳の先にも筆の穂先のような房毛が生えて冬の装いは整いましたが、食料がまだまだ心配です。ニホンリスがくわえているのは大好物のクルミの実。落ち葉をかき分け、そこにクルミを置くと、また落ち葉をかけて隠します。木の枝のつけ根にはさんで隠すこともあります。ニホンリスは冬眠しません。そのため、冬のあいだの食料をあちこちに隠しておくと考えられています。

ニホンリスは冬の食料をあちこちに隠す(画像=『春・夏・秋・冬 どうぶつえん』)

動物園で見られる光景はここまでですが、野生のニホンリスとクルミの付き合いには続きがあります。なかなか計画的に準備していると思いきや、まず手に入れたクルミの実の4割ほどをすぐに食べてしまいます。そして、実際に冬に食べるのは、隠したクルミのさらに4割程度。一部は野ネズミなどに盗み食いされ、残りはそのまま放置されます。これらのクルミのなかから、やがて芽吹き、ニホンリス自身を養う次の世代の森の木になっていくものが出るのです。

■チンパンジーもネギで風邪予防

冬の陽だまり。のんびり座ったり、緩く握った手をついた独特の姿で歩いたり、あるいはお得意の枝渡りでロープを伝ったり、チンパンジーたちはそれぞれにくつろいでいます。しかし、かれらが手に、時には足にしているものはちょっと変わっています。ネギ、ネギ、ネギ……。日本の冬はアフリカよりもずっと寒いため、チンパンジーも風邪をひくことがあります。動物園では、暖房や栄養など、かれらの風邪予防に心を配っていて、ネギもそのひとつです。ネギは体を温め、喉にもよいと言われていますが、ヒトに効くのであれば、ヒトに近いチンパンジーにもよいだろうという発想です。

そもそもチンパンジーは、ネギが大好き。飼育員がネギを与えると、争うようにネギを取りにいく姿も見られるほど。野生でも、イチジク類など甘い果実のほかに、しばしばショウガ類などの刺激性の強いものも食べています。チンパンジーにはグルメな一面もあり、果実はおいしい果汁だけを吸い取り、残った繊維のかたまりは吐き出すことがあります。この吐き出したかたまりは「ワッジ」と言い、ワッジは群れの行動圏の証です。

ネギが大好きなチンパンジー(画像=『春・夏・秋・冬 どうぶつえん』)

■トナカイのメスはクリスマスイブも仕事

クリスマスにサンタクロースのソリを引く、立派な角のトナカイ。当然、オスかと思いきや、そうではありません。冬のトナカイは、なんだか変です。トナカイはシカの仲間なので、角があるのがオスのはずなのに、角があるほうが小柄で、角がないほうが大柄なのです。

実は、トナカイはシカの仲間で唯一、オス、メスともに角があります。そしてほかのシカと同じように、秋の繁殖期が終われば、オスの角はぽろりと落ちてしまうのです。一方、メスは冬になっても角を生やしたまま。角が落ちるのは春になってからです。つまりクリスマスに角が生えているのはメスなのです。

クリスマスに角が生えているトナカイはメス(画像=『春・夏・秋・冬 どうぶつえん』)

このことは、極北の厳しい環境にも耐えられるように進化してきたためと考えられます。秋の繁殖期を経て、メスのお腹には赤ちゃんがいます。しかし、かれらの地元である凍てつく大地は自分が生き残るだけでも厳しい環境です。トナカイの大きなひづめは凍った雪を砕いて地衣類(藻類と共生している菌類の仲間)などを食べるのに役立ちますが、メスの角も雪を掘る助けとなります。また角が落ちたとはいえ大柄なオスと張り合って冬を生き延ひるのにも役立っていると考えられます。

■「サル団子」で暖をとるニホンザル

ニホンザルは、冬の寒い日にはみんなで寄り集まり、まるで団子のようにまとまります。これを「サル団子」と呼ぶのです。ニホンザル版おしくらまんじゅう、といったところです。

ニホンザル版“おしくらまんじゅう”(画像=『春・夏・秋・冬 どうぶつえん』)

ヒトを除けば、ニホンザルはもっとも高い緯度(青森県下北半島)まで分布する霊長類です。しかし、これは決して積極的に寒さを好むというわけではありません。一部の地域で有名になっている、温泉につかるといった習性を含め、温まるためにあれこれ工夫をしています。サル団子もそのひとつです。

著者・森由民/イラスト・サクマ ユウコ『春・夏・秋・冬 どうぶつえん』(東洋館出版社)

サル団子は平和的。くっついてくる相手をこばんだり、誰かを仲間はずれにするといったことは、ほとんどありません。結果として、段々と大きな団子になっていきます。それでも誰と誰がどんなふうにくっついていくかを観察すると、群れのなかでの互いの親しさなどが読み解けると言われています。母系なので親しいメス同士がくっついていき、そのようなつながりが多いメス個体のあたりで団子がふくれあがるなど、全体として団子のかたちも変わってくるのです。ある研究では、幼い子のいる母ザルは母子でのサル団子を好み、子のないメスはほかの個体を毛づくろいしてから一緒に団子になる傾向があるそうです。

 

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森 由民(もり・ゆうみん)
動物園ライター
1963年12月27日生まれ。1年の半分は動物園に通う。日本各地の動物園を訪れ、飼育員さんと動物のかかわり、動物展示の手法などの取材を続けている。著書に『動物園を楽しむ99の謎』(二見書房)、『ASAHIYAMA―旭山動物園物語』(画・本庄敬 角川グループパブリッシング)、『ひめちゃんとふたりのおかあさん』(フレーベル館)、『約束しよう、キリンのリンリン』(フレーベル館)、『動物園のひみつ 展示の工夫から飼育員の仕事まで』(PHP研究所)など。動物園に関するガイドや講演も多数。

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(動物園ライター 森 由民)

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