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それでもアメフト学生が大企業にモテる謎

プレジデントオンライン / 2019年1月23日 9時15分

写真=iStock.com/8213erika

就活で人気といわれる体育会学生。売り手市場も相まって、引く手あまたかと思いきや、企業が求めるのはその一部だという。同じ体育会学生でも、どこで線が引かれるのかを検証した。

■体育会なら誰でもOKの時代ではない

就職市場では古くから「体育会系学生は就職に強い」と唱えられてきた。企業が評価するのは、練習で養われた体力、物怖じしないメンタルの強さ、指示に従う従順さなど。さらに先輩・後輩・同期と縦横のネットワークを持ち、「顧客を引っ張ってくる」側面も一部の企業には魅力で、今も証券や不動産の営業といった職種に根強い人気があるという。

しかし、採用コンサルタントの谷出正直氏は、「体育会なら誰でも欲しいという時代は終わりました」と指摘する。

「根性のある体育会人材も需要はありますが、今、大企業の人事部が求めているのは、地頭のいい体育会です。つまりスポーツ推薦やAO入試など、入学時に学力を免除された学生ではなく、一般入試で入学している学生。体力やメンタルの強さに加えて、体育会での経験をビジネスに変換する能力があるからです」

さらに人事部は、体育会で培ったどんな資質に注目するのか。体育会人材の就職支援サービスを展開するスポーツフィールド社長室室長の久保谷友哉氏は、「積極性」を挙げる。

「体育会出身者は、こうしたい、こうすべきという自分の意見をストレートに言えるタイプが多い。提案をプッシュし続けて実現させる突破力は、企業に高く評価されます」

谷出氏が着目するのは、「組織調整力」だ。

「チームワークの重要性を、理論ではなく経験で知っているのが体育会の強みです。自分がどのポジションでどう動けば、チームの能力を最大限に発揮できるか、と考える癖が彼らにはついている。状況によってはサポートメンバーになることも厭わない利他的な発想は、体育会の経験があってこそ生まれるものでしょう」

また、華々しい戦績があるにこしたことはないが、たとえ4年間レギュラーでなくても、人事部が評価するケースも多い。成果を出すために目標を設定して、コツコツ取り組んできた学生は、「上に言われたままにやったら結果が出た」という学生よりも興味を持たれるのだ。

■人気を集める国立大の強豪校

それでは、どんなスポーツや体育会が企業に人気なのか。人材採用支援企業のワークス・ジャパン社長・清水信一郎氏は、人気の条件として「個人競技よりもチームスポーツ」「一部を除いて基本的にスポーツ推薦がない国立大」「上位リーグに所属して、体育会として結果を出している部」を挙げる。

「これらの条件を満たしている、東京大学と一橋大学のラクロス部男子、アメフト部、一橋大学の端艇部(ボート部)などは大企業に人気です。アメフトは、ポジションに分かれてプレーするという特性から、選手はチームプレーに徹しつつ、個の強みを生かして考えながら動ける、という評価をする人事が多い。日大アメフト部事件で、ネガティブな印象も持たれましたが、謝罪会見をした学生を採用したいという企業の声も聞きました。自分の立場をわきまえ、言い訳せず謝罪して、次へ一歩踏み出す。あの姿勢が体育会学生のよさを表しているのかもしれません」

他のスポーツに比べるとマイナーなラクロス部も評価が高い。男子は激しいボディコンタクトの応酬があり、別名「地上最速の格闘球技」。ルールも複雑で戦術に重きが置かれるなど、頭脳プレーも要求される。

「ラクロスは、高校ではほとんど行われていません。なので、『ラクロス部員=一般入試での合格者』であり、ある程度の学力レベルが保証されています。また部員はほぼ全員が初心者の中、成長しながら4年間活動していくため、団結力が非常に強い。そうしたチームワークづくりの能力を期待する部分もあるのでしょう」(谷出氏)

■伝統校が大切にするOB・OGとのパイプ

一方で、伝統校の体育会も就職に強い。

「慶應義塾大学の野球部やラグビー部など、伝統のある体育会では、OBとのつながりの濃さが就職に有利に働くことがあります。大手企業各社にいるOBが寮にやってきて、現役生を対象にセミナーや座談会を行い、関心を持った学生をピックアップする活動が行われたりするようです」(清水氏)

OB・OG会が自主的に就職支援の組織を運営し、学生が望む業界があれば、積極的にOB・OGをつなぐ体育会もあるという。これは伝統校ならではの受けられる恩恵だ。

とはいえ、体育会の活動に真剣に取り組んできた学生ほどOB・OGに頼らざるをえない、という事情もある。体育会の活動は週6日以上が大半を占め、引退時期は4年生の夏が多く、なかには12月まで試合が続くところも。就活の時間が十分に取れない体育会学生にとって、自分を引き上げてくれるOB・OGとのコネクションは大切な命綱なのだ。

そして、「地頭のよさ+体育会経験」が重視される就職市場で、今後、「+ビジネスセンス」も期待されるという見方もある。

「最近の大学スポーツでは、プロチームのような組織運営をするという新しい潮流があります。その先駆者的立ち位置にいるのが、筑波大学蹴球部(サッカー部)。チーム内に、地元の企業などにスポンサーを依頼する営業担当スタッフや、活動を情報発信しチームのブランディングを行うSNSスタッフなどがいて、学生が組織運営上の何らかの役割を担っています。似た動きは他大学でも出てきており、上位校・強豪校であるうえに、組織運営でビジネスセンスを培った学生に、人事は間違いなく注目するでしょう」(久保谷氏)

一見、門戸が狭そうな体育会だが、高校からのスポーツ推薦でなければ入部できない体育会はごく一部。つまりスポーツエリートでなくても、一般入試で上位校に入学し、新入生を歓迎する傾向のあるラクロス部、アメフト部などに入部すれば、人事に評価される体育会ブランドを手に入れることはできる。ただし識者が口を揃えるのは、「就職だけを見据えて体育会に入っても、4年間続けるのは難しい」。就職市場で体育会が評価されるのは、本当に好きなスポーツを真剣にやりきった副産物と考えたほうがいいようだ。

▼必要なのは「硬い筋肉」よりも「柔らかい発想」
昔は…「体力」「命令に従順」「メンタルの強さ」
今は…
1.自主性
上からの指示をただ待たない。常に当事者意識を持ち、自分が組織の中のどのポジションで、どう動くべきかを判断して行動する。
2.計画性
目標達成のために、今何をするべきか、これから何をするべきかという逆算思考ができ、それをコツコツと遂行していく。
3.組織調整力
レギュラーになれなかったらサポートに徹して全力を尽くすなど、チームワークの重要性を踏まえた行動ができる。
4.積極性
業務の改善点や新提案など、自分の意見を物怖じせず、進んで言える。さらに、実現まで粘り強くプッシュし続ける。
5.コミュニケーション能力
チームプレーを成立させるため、自分の意見を人に伝え、さらに相手の話を聞く。先輩・後輩との接し方も把握している。

(山田 由佳 写真提供=一橋大学端艇部、筑波大学蹴球部 写真=iStock.com)

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