履歴書から応募者の人となりを見抜くコツ
プレジデントオンライン / 2018年11月16日 9時15分
※本稿は、島田直行『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■求人広告で「履歴書不要」はやめるべき
とにかく応募者を増やすために、最近では「履歴書不要」という求人広告も目にするようになった。たしかに履歴書不要となれば、履歴書作成の手間を省けるので応募者は形式的には増えるかもしれない。でも、「就職」というイベントにおいて、履歴書の作成すら手間だと感じるような人を社長として採用したいだろうか。履歴書の提出は中小企業にとって必要なものだと私は考えている。
中小企業の採用プロセスは、いまもって書類選考と面接が一般的だろう。書類選考においては履歴書が中心になるが、履歴書だけでもわかることは少なくない。いくつか参考になるところを整理しておこう。
■手書きの履歴書を見れば、応募者の本気度がわかる
履歴書はできるだけ手書きで提出してもらうべきだ。ワープロで提出されると、修正も容易で、かつどれも似たような印象を受けることになる。これが手書きになるとずいぶんといろんな情報が送付されてくる。字が乱雑に書かれているもの、修正ペンで修正されているもの、枠から文字がはみ出しているものなど。
履歴書は、会社と応募者が最初に接点を持つ部分だ。とくに人は第一印象に引っ張られるところがあるから、なおさら履歴書は重要だ。正しい履歴書の書き方は、ネットで調べればいくらでもわかる。それすらできないとなると、応募をしてきた人が本気で入社したいと考えているのか怪しいところだ。
履歴書の書き方がずさんな人は、他の社員や取引先とトラブルを起こしやすい印象がある。こういったタイプは、自分の世界というものを持っていて、「僕には僕のやり方がありますから、周囲が僕に合わせるべきでしょう」となって柔軟性が低いからだ。
「そういう人を育てあげるのが会社というものでしょう」と思う人もいるかもしれないし、否定する気はない。ただ、採用するのであれば、教える側としてそれなりの負担をともなうことは覚悟しないといけない。
■職歴欄に書かれている内容を疑え
履歴書の職歴欄は、その人の人生や価値観を如実に表している。この部分を適当に眺めるのは社長としてやってはいけない。
中国地方のあるメーカーの代理人として、労働組合との団体交渉に出たときのことだ。社員は「パワハラに遭った」などと根拠のないことをまくしたてるように話していた。こちらとしては、相手の主張に対抗できる効果的な反論を考えられずになんとも困った。
そのとき相手から、直前まで勤務していたというA社の話がふと出た。A社はとても理解があったということだった。その日はいったん話を終えたのだが、なんとなくA社の話に違和感があったので調べてみた。すると、A社はその社員が言うよりもずっと前に倒産していたことが発覚した。
次の団体交渉では、社員にまず「履歴書にあるA社で勤務していたことで間違いがないか」と確認した。団体交渉が有利に展開して自信を持っていた社員は、「間違いない」と言って話を続けた。話が終わったところで、私はA社が倒産していたことを示す資料を突きつけた。「履歴書に事実に反することを記載して否定もしない人の発言の信用性はいかがなものか」と切り返し、交渉の潮目を変えた。社員は青ざめたままで必死になって取り繕ったが、あとの祭りだ。双方が譲歩する形で早期に団体交渉がまとまった。
「職歴欄は必ずしも事実だけではない」という戒めとなる事案だった。
■「一身上の都合」の内容を疑え
職歴欄を見て、あまりに短期間で転職している人には気をつけたほうがいい。「転職してスキルアップをしたい」という価値観を持っている人もいるだろうから、転職をしていること自体が問題というわけではない。ただ、入社して数カ月で退職を繰り返していたりする人は、本人にも幾ばくかの問題があると考えるのが普通だろう。仮に会社ともめて退職したとしても、履歴書には「一身上の都合により退職」としか表記されない。
ある介護事業所から相談があった。対象となる社員は、介護事業所を転々としていた。社長は「とにかく人が欲しい」ということで、退職理由の確認もしないまま採用してしまった。当初はなんら問題なく勤務していたが、3カ月の試用期間が過ぎると雰囲気がガラッと変わってきた。他の社員に威圧的な態度をとるようになり、「従う者」と「敵対する者」に分けるようになった。社員が分断され、人間関係に疲れた退職者が出てくるようになった。憤った社長は勢いでその社員を解雇した。すると、その社員は直ちに内容証明で要求を突きつけてきた。結果として、解雇を撤回して1年分の賃金相当額を支払って退職してもらうことになった。
このケースでは、解雇してからのその社員の手際があまりにスムーズだったのが気になった。まるで自分が解雇されることがわかっていたかのようである。おそらく、その社員は過去にも同じようなトラブルで争ったことがあったのだろう。このケースでも社長がもう少し履歴書の確認に慎重であれば別の選択があったはずだ。
■面接では、志望動機ではなく、実績を聞け
中小企業の採用では、最終的に社長面接をするのが一般的だろう。このときには事前になにを質問するかを統一しておかなければならない。採用基準がないような面接では、単に社長とのおしゃべりが上手な人ばかりが採用されてしまうことになる。
企業の採用力は、面接における質問レベルを見ればある程度わかる。ありがちなのは「将来の展望は」「この会社を選んだ理由は」といった意見を求める質問だ。意見を聞くのは耳に心地よいし、前向きな話になりがちだが、意見は意見でしかない。語るだけであれば誰にでもできるし、予想される質問であれば模範解答を事前に暗記している。
社長にとって面接で聞くべき情報は、その人がこれまでなにをしてきたのかという実績だ。100の意見よりも1の実績こそ選択の役に立つ。実績とは、華やかなものである必要などなく、むしろ地味なものこそ、人となりが出るものだ。前職のことでもいいし、学生時代のことでもいい。実際に達成したことを尋ねるべきだ。
■実績を聞く場合は、結果ではなく、過程を聞け
ここで注意しなければならないのは、実績といえどもすべて自己申告でしかないということだ。いくら立派な結果を導いたと説明があっても、真実がいかなるものであったかなど面接時に確認することはできない。だから質問するべきなのは、達成した結果ではなく、その過程についてだ。このとき参考になるのが、「失敗からいかに回復したか」ということだ。
人によってこれまで経験したことはまったく違う。それでも「失敗」というのは、すべての人に共通する経験だ。人は挑戦をするから失敗をし、失敗を乗り越えていくから学ぶことができる。失敗からいかに回復したかというプロセスを知ることは、その人が失敗からいかに学んでいるかを知るヒントになる。
誰しも面接時に失敗について質問されるとは想定していない。だからこそ、その人の本質が見えてくる。
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『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』(プレジデント社)
「解雇」「うつ病」「労災」「採用」「パワハラ」「セクハラ」……。今社長を悩ますさまざまな職場のトラブルについて、これまで数多くの労働事件を手がけてきた敏腕弁護士が、訴訟になる前に話し合いでトラブルを解決するための具体的アドバイスを提供する。
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島田法律事務所代表弁護士
山口県下関市生まれ、京都大学法学部卒。山口県弁護士会所属。「中小企業の社長を360度サポートする」をテーマに、社長にフォーカスした“社長法務”を提唱する異色の弁護士。特に労働問題は、法律論をかかげるだけではなく、相手の心情にも配慮した解決策を提示することで、数々の難局を打破してきた。これまで経営者側として対応してきた労働事件は、残業代請求から団体交渉まで、200件を超える。
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(島田法律事務所代表弁護士 島田 直行 写真=iStock.com)
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