"すぐ眠りに落ちる"人は睡眠負債の危険性
プレジデントオンライン / 2018年12月4日 9時15分
■自覚することなく、生産性が落ちていく
「徹夜すれば、翌日のパフォーマンスが下がることは誰でも実感するでしょう。睡眠負債の怖いところは、そういう自覚がないことが多い点。『睡眠のコントロールは完璧だ』という人が、実は“借金まみれ”というケースもあります」
そう説明するのは、脳神経科学者で早稲田大学研究戦略センター教授の枝川義邦氏。最適な睡眠時間には個人差があるものの、大多数の人は6.5時間から7.5時間の範囲内に収まるという。「平日はだいたい5時間の睡眠が通常パターン」という人が、本当は7時間の睡眠が適切という場合もある。そのマイナス2時間が日に日に蓄積されていくのが睡眠負債だ。しかも、ベッドに入っているのが5時間なら、本当に眠っている時間はさらに短くなる。
自覚がほとんどないと聞けば、自分が睡眠負債に陥っているかどうかを知りたくなるもの。枝川教授が挙げる代表的な兆候とは次の3つだ。
(1)起きたときのスッキリ感がない
(2)午前中に眠くなる
(3)布団に入るとすぐ眠りに落ちる
(2)は午前中という点が重要で、目覚めて3時間から4時間経った頃は脳の働きが最も活発なとき。この時間帯に眠くなるのは睡眠負債が原因だと考えられる。逆に昼食後の時間帯に眠気を覚えることは、睡眠が充分な人にもありがちなこと。これは体内時計の働きによるもので、食事とは無関係に、午後2時頃、午前4時頃など、もともと眠気を覚えやすい時間帯があるからだ。
(3)の「すぐ眠る」は、寝つきがよくて健康的だと誤解されやすい。睡眠負債がない状態では、15分ほどまどろんでから深い眠りに入っていく。このまどろみの時間がないのは、睡眠負債がたまっている証拠だ。
睡眠負債は長年続くと、肥満、高血圧症、免疫力低下などの原因となり、認知症やがん、うつ症状などの深刻な病気につながる恐れもある。一方で日々の仕事にも影響は大きく、脳の機能が低下して短期記憶(ワーキングメモリ)の働きが悪くなるため、単純ミスや物忘れが多くなる。
「図のグラフは睡眠研究ではよく知られる実験データで、6時間睡眠を2週間続けると、脳の反応速度は2日間徹夜したのと同じレベルまで下がるという結果が出ています。気づかないうちに脳の情報処理能力はそこまで低下するということです」(枝川教授)
■週末に寝だめすれば「返済」できるのか?
厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によれば、成人のうち睡眠時間が6時間未満の人はおよそ4割を占め、その割合は増加傾向にある。
そこで知りたくなるのは睡眠負債の返済方法だろう。すぐに思いつくのは「週末の寝だめ」だが、これはあまり効果がないという。
「睡眠負債は借金のイメージで語られますが、睡眠にはお金と大きく違う点が2つあって、ひとつは貯蓄ができないこと、もうひとつは一気に返済できないことです」(枝川教授)
仮に平日に合計6時間の睡眠負債があれば、土日にそれぞれ10時間ほど寝れば取り戻せると考えるのは誤り。睡眠の効果は、単純に時間だけでなく、質も関わってくる。“眠りの質×時間”が充分ではなくなるばかりか一日のリズムが狂ってしまい逆効果になってしまうからだ。
■一日の始まりは、夜の「就寝」から
快眠セラピストの三橋美穂氏は、寝だめはむしろ体内時計を狂わせると警告する。
「土日に寝すぎると時差ボケと同じ状態になり、生体リズムがおかしくなります。これを“社会的時差ボケ”と呼んでます」
三橋氏はそもそも睡眠負債は返済できないと思ったほうがいいと言う。まず大切なのは自身の最適な睡眠時間を知ること。三橋氏も1週間ごとに睡眠時間を30分ずつ増やす方法で実験したことがあるという。
「6時間から睡眠時間を30分ずつ増やして、自分で仕事のパフォーマンスを観察していくと、私の場合は7時間30分の週は日中に眠気を感じず、仕事の生産性が高まりました。それより長く寝るとパフォーマンスが低下することもわかりました」(三橋氏)
その際に、眠る環境を整えることも重要だと三橋氏は言う。
「寝室の温度、湿度、明るさ、音の状態を最適なものにし、もちろん寝具にもこだわりたいですね。できれば寝室は、眠るためだけの空間と決めてテレビなどは持ち込まない。特にスマホは画面のブルーライトが快眠の妨げになるので、就寝の数時間前には見ないようにしたほうがいいでしょう。一日の始まりは朝の目覚めた瞬間ではなく、明日のために眠るところからだと意識したいですね」
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脳神経科学者
早稲田大学研究戦略センター教授。東京大学大学院薬学系研究科博士過程を修了後、MBA取得。監修書に『ぐっすり眠れる睡眠の本』など。
快眠セラピスト
睡眠環境プランナー。寝具メーカーの研究開発部長を経て2003年に独立。著書に『驚くほど眠りの質がよくなる 睡眠メソッド100』など。
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(Top Communication 写真=PIXTA)
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