選挙に勝つためなら、秘書はここまでやる
プレジデントオンライン / 2018年11月9日 11時15分
■訪問は、あえて雨の日に
スポットライトがあたる政治家の影で、地元で地盤を固める取り組みを続ける政治家秘書。国会議員の地元秘書を20年間務めた人物に、秘書としての人心掌握の取り組みを聞いた。
まず、選挙では「好き嫌い」が最後の決め手になる。政策だけでなく、ルックス、家族や学歴などの背景に人々は関心を持つ。「エリート」「美人」「金持ち」といった要素が「ひがみ・やっかみ」が生まれる原因になり、選挙戦に悪影響を与えることもある。逆に、「同情」は追い風になることがある。「かわいそうだ」「あんなに頑張っている」「奥さんがいい人だ」「悪いことはしない人だ」「秘書がいい人だから」などという場合もある。秘書はそれを知っているから、支持者の自宅を訪問する際には、あえて雨の日を選ぶこともあるという。
■キーマンに、ふさわしい役職をつける
選挙では、多くの人々と交流があり、影響力を発揮する人に支持者なってもらうことが何より大切だ。その人に声を掛ければ、何十人、何百人に情報が伝わり、集会に人を集めてくれ、それが選挙戦の基盤づくりにつながるからだ。秘書は、「いつも人を誰かを誘っている人」に目をつける。「お茶に誘う」「食事に誘う」「旅行に誘う」といった能動的なタイプの人ほど、キーマンになってくれる要素が強いという。
地元の選挙事務所に来る人たちは、自治会のおじいさんから婦人会・老人会のおばあさん、PTAの役員や消防団などの青年部、若手経営者から上場企業の社長まで幅広い。そんな人たちが、選挙事務所では共通の趣味や子供や孫の話、美味しいお店の話で、世代や職業を超えて盛り上がる。こうした交流はその後、地域の人脈づくりにつながるため、絶対に軽視してはいけない。
選挙が始まる前に、日常活動の後援会や支援組織を選挙対策委員会という形に整え、組織を一本化する。地域の要職者や地方議員、有力者を味方につけるには、顧問、最高顧問、相談役といった役職を依頼することだ。その人の立場とプライドに相応しい役職を引き受けてもらえるようにする。要職を引き受けてもらえば、それで十分協力を得られる。もし依頼を受けてもらえない場合は、他陣営に行かないようにお願いする。
■必ず、お線香をあげさせてもらう
後援会の会合などの案内は、郵送でなく、なるべく一軒一軒持参する。あいさつだけで帰るのではなく、お茶飲み話に付き合い、その人のこと、地域のことをくわしく把握するように心がける。家に行けば、その人の趣味、家族構成、親戚すじ、地域社会との関係性(PTA・消防団・地域活動)、仲間の多い人か少ない人かもわかる。
お盆と彼岸に近い時期は、必ず仏壇にお線香をあげさせてもらう。先祖の仏壇にあいさつしてくれた人に、誰も悪い印象は持たないからだ。NHK『鶴瓶の家族に乾杯』で笑福亭鶴瓶氏が見ず知らずの人の家に上がった折に、仏壇があると必ず手を合わせている対応と同じだ。訪問先が留守の場合には、必ず名刺に一筆添えて、玄関かポストに入れておく。
■紹介の順序を、絶対に間違えない
議員の間では、当選回数、同期の場合は年齢順が序列であり、会合では紹介の順列になる。相手が市町村議会の議員でも、国会議員でも、これを間違うと相手の面子をつぶしてしまい、へそを曲げられる。こじれると、その修復に時間がかかるから大変だ。
それぞれの議員の地元では、とにかくその議員を立てることが必要だ。「○○議員のおかげです」と、ことあるごとに謝意を伝える。同じ地域に複数の議員が立っている場合、互いにライバル感が強いので、発言する際はとりわけ注意したい。
■上座ではなく、下座の人からお酌する
支持者をつくるための宴席でお酌をする際には、上座の人ではなく、下座の末席に座っている人から回るようにする。上座から下座に下がるのではなく、下座の末席に座る人の心理を踏まえて行動することが重要だ。これは政治の世界だけでなく、ビジネスをはじめ、一般社会でも有益な指摘だ。
次に重要なのは、絶対に人を飛ばしてお酌をしないことだ。飛びとびにお酌をしていると、それを必ず見ている人がいるからだ。時間がかかっても、となり、またそのとなりと移って行くことが肝心だ。また、酔っぱらって批判する人や絡む人には、目を見てよく話を聞くようにする。秘書が自分の席に着くころには、お開きとなることもよくあるという。
■ウグイス嬢と食事や休憩をともにする
選挙の花といえば、遊説車でマイクを握るウグイス嬢だ。ウグイス嬢には、候補者のファンになってもらうために、候補者の人柄や、政策を徹底して理解してもらうように努め、可能な限り、候補者とともに食事や休憩をしてもらう。遊説車という同じ空間で選挙戦を戦うと、共闘感や一体感が生まれる。すると、選挙の終盤戦で、自然とウグイス嬢は涙ながらに、鳴いて(泣いて)訴えてくれる。世の男性は女性の涙に弱い。
選挙事務所は、女性が多いほどムードが盛り上がる。お茶出しやチラシの準備、接客などは、まさに女性部隊の活躍の場だ。だが仕切りが悪いと、「お手伝いに行きたいのに、誘われない」「私を誘ってくれない」といったことから始まり、これが高じると「あの人と一緒じゃ、イヤだ」という状況が生まれる。こうした事態を避けるには、女性のリーダーを必ず把握し、当番表をつくってもらい、より具体的なお願いをすることだという。
■ポスター写真は、何より好感度を重視する
選挙用のポスターは候補者のイメージを伝える重要な役割を果たす。昔のように、免許証の顔写真のようなポスターは減っており、目線をはずして撮影したポスターも登場している。だが、有権者によっては「横を向いている」「そっぽを向いている」ととらえる人もいるという。
ポスターだけを見て投票するかどうかを判断する人も、政策をじっくり読む人も、実は同じ1票だ。画像では、何よりも好感度を重視する。チラシや後援会報を制作する際には、専門用語や横文字はきちんと解説し、中学生でも理解できるレベルの文章にすることが欠かせない。
■受けた恩は、死ぬまで忘れない
ある代議士は、初めて選挙に出馬した際、「どの派閥から出るのがよいか」を先輩代議士に相談した。のちに総理大臣となった大物代議士のグループから出馬するのがいいと助言された。助言通り、代議士はそのグループから出馬した。
初選挙では、代議士は残念ながら落選してしまった。落選の報がテレビで打たれたとき、一番に電話をくれ、「これで挫けず、次の選挙に出れば必ず当選するからな」と励ましてくれたのが、親身になって相談に乗ってくれた先輩代議士だった。その先輩代議士こそ、田中角栄氏だったという。出馬した派閥の親分からは、何も連絡はなかったそうだ。代議士も、秘書も、受けた恩は死ぬまで忘れない。
(マーケティングコンサルタント 酒井 光雄 写真=iStock.com)
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