日本人の教育費感覚は海外よりケチすぎる
プレジデントオンライン / 2018年11月12日 9時15分
■一流大学に行かせるため自宅を売却する家庭も
シンガポールで生活をしていると、教育に対するお金のかけ方には、目を見張るものがあります。富裕層は当然ですが、一般庶民も夫婦で働いて家庭教師をつけるなど、教育費だけは惜しみなく投資をするというのがシンガポール流なのです。なかには、子供を欧米の大学に行かせるために、自宅を売ってでも行かせる家庭もあるほどです。
その結果も出ているようです。知人の友達の家庭では、子供に教育費をかけた結果、仕事で成功して、親のために売却した家を買い戻したそうです。こうしたエピソードが伝わってくるほど、「教育費=投資」という考え方が強いのです。
さまざまな調査で指摘されているとおり、親の収入と子どもの学歴の因果関係ははっきりしており、「富の格差」が「学力の格差」にもつながっています。シンガポールにある名門インターナショナルスクールの場合、卒業生の多くが、米国の「アイビーリーグ」や英国の「オックスブリッジ」に進学しています。
■国家予算の4割を国防と教育にかけるシンガポール
シンガポールは「唯一の武器は賢い頭脳」と自負しているほど教育費の重要性を理解している国で、国家予算の約40%は「国防」と「教育」です。それに対して、日本の国家予算の75%は「社会保障(年金、医療、介護など社会保障給付)」、「地方交付税交付金(地方自治体の収入の格差を少なくするために交付される資金)」「国債費(借金返済)」に当てられており、削ることが難しい支出となっています。国防費と教育費に関してはそれぞれ5%程度です。つまり国が教育費などの政策的な支出に大きな予算をかけられない状況になっており、各家庭が教育費を捻出するしかない状況になっているのです。
国にお金がないという理由からも、日本はOECD諸国の中で、GDP比で見た公教育支出が最低水準の国です。OECDインディケータ(Education at a Glance)によると、日本の公教育支出をGDP比で見ると、OECD諸国の中で最下位レベルになっており、たびたびメディアでも話題になっています。
経済協力開発機構(OECD)が公表をした小学校から大学までに相当する教育機関に対する公的支出状況などの調査によると、2015年の加盟各国の国内総生産(GDP)に占める支出割合を見ると、日本は2.9%となり、比較可能な34カ国中で前年に続き最も低いという結果が出ました。ちなみにOECD平均は4.2%でした。
■教育費を家庭負担に頼る日本
一方で、日本の子どもにかかる学校関連の費用の総額は、小学校から大学までで1人当たり1万2120ドルとなり、各国平均の1万391ドルを上回ります。教育費が重いのに公的支出の割合は少ないことで、家庭負担に頼っているのが現状なのです。
教育機関ごとに見ると、初等から高等教育以外の中等後教育については多くのOECD加盟国と同様に公的支出の割合は少なくありません。しかし、就学前および高等教育に関しては、多く教育費を私的支出に頼っているのが実情です。
■「私立高校の無償化」では不十分
とりわけ就学前教育に対するGDP比の公支出は最低レベルになっていて、各家庭での負担の割合が高いのですが、私費を足してもOECD諸国と比べると未就学児にかけられるお金が少なくなっています。つまり、国が子どもの教育にお金をかけていないので、教育費は各家庭における自己負担の割合が高いのです。一部の教育熱心な家庭を除いては、シンガポールの標準家庭よりも教育費にお金をかけていないという印象です。
政府は消費税増税による財源の一部を用い、子供や子育て支援にお金をかけようとしています。2019年10月からすべての3~5歳児と、住民税非課税世帯の0~2歳児について、幼児教育・保育の費用を無償化する予定です。認可外の保育施設も一部対象になります。
また、私立高校の授業料に関しては、年収590万円未満の世帯を対象に2020年度までに全国で実質無償化されます。大学生向け給付型奨学金は住民税非課税世帯で高い成績を収めるなどして高校から推薦を受けた学生を対象に、月額2万~4万円を支給し返済は不要にします。
■「経済力のない家の子」はまだまだ教育を受けづらい
しかし、まだ十分だとは言えないでしょう。親に経済力がないと、子どもが十分な教育を受けづらい状況は、これらによって大幅に改善されるというわけではありません。
そんな中、祖父母らが孫らに教育資金の一括贈与をした場合の「贈与税の非課税措置」について、文部科学省が平成31年度税制改正要望で、恒久化を求める方針であることが、2018年8月27日に判明しました。国が教育費などの政策的な支出に大きな予算を割けない状況下で、お金を持っている祖父母から孫への教育投資を促そうという流れなのでしょう。そうなると富裕層は孫の教育にお金をかけるでしょう。ですが、当然かけられない家庭も多いので、日本でもますます教育格差が広がりそうです。
■早い時期からライフプランをデザインする必要性
シンガポールにいると、中華系などは特にライフプランを早期からデザインしている人が多く、将来子供にかかる教育費の総額や老後資金なども一般の人でもハッキリと言うことができます。
「人生にはお金がかかるから、子供はひとりにしている」
富裕層ではない、中流家庭の中国人や韓国人の知人から「子どもをあえてひとりっ子にして、その子に集中投資をする」という話もよく聞きます。その良し悪しはさておき、ライフプランや家族計画を綿密に立てることは日本人も見習うべきことです。中国やインドからシンガポールに来ている家族の多くは外国人扱いです。外国で教育を受けさせると多額の費用がかかるので、覚悟が違うのです。
国の支援が薄い日本においても、計画的に教育費を準備していく心構えを持ったほうが良さそうです。
■中国やインドの子供達と競う為に教育費の計画的な準備を
また、将来的に日本人の子供達は中国やインドの子供達とも学力や能力などで競っていくこともなります。子供が将来グローバル企業で働こうと思った場合、幼い頃から英語の環境で学び、母国語や自国文化も理解をし、中国語などその他の語学もでき、音楽や水泳やダンスなどの文化にも精通している世界中からのライバルたちと、仕事でのポジションを争うことになるはずです。
シンガポールで生活をしていると、日本の将来について私は焦りと恐怖を感じます。これからの日本は、教育費への公的支出を増やすだけでなく、各家庭が教育費を計画的に準備し、投資していく必要があるのではないでしょうか。
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1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFP認定者
1978年、三重県生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業後、外資系投資銀行に入社。退職後、FPとして独立。2015年から生活の拠点をシンガポールに移し、東京とシンガポールでセミナー講師など幅広い活動を行う。『少子高齢化でも老後不安ゼロ シンガポールで見た日本の未来理想図』(講談社+α新書)など著書多数。テレビ出演や講演経験も多数。
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(1級ファイナンシャル・プランニング技能士 花輪 陽子 写真=iStock.com)
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