就活ルールも守れない経団連企業のダメさ

プレジデントオンライン / 2018年11月13日 9時15分

経団連による就活ルールの廃止表明で、学生たちの間にも動揺が広がっている。※写真はイメージです(写真=iStock.com/TAGSTOCK1)

経団連が「就活ルール」の廃止を発表した。だが経団連の加盟企業は、そもそも8割以上がルールを守っていなかった。同志社大学大学院の加登豊教授は「強制力がないからと、どの企業も平然とルール破りをやってのける。その対応にこそ日本企業の抜本的な問題点が隠されている」と指摘する――。

■経団連の所属企業はそもそもルールを守るつもりがない

今回の一穴=ルールを遵守しているふりをすることが、予想以上のダメージを組織に蓄積させる

日本経済団体連合会(以下、経団連)は、10月9日、「採用選考に関する指針」(いわゆる「就活ルール」)を廃止することを発表した。この思考の背後には何があるのだろうか。

現行ルールでは、3年生の3月(学校は春休暇中)に就職説明会が始まり、4年生の6月(学期の真っ最中)から採用選考を解禁することになっている。廃止決定を説明した中西宏明会長(日立製作所会長)は会見で、「ルールを作って徹底させることは、経団連の役割ではない。強制力も持っていない」と述べている。この発言にあぜんとしたのは、果たして、私だけなのだろうか。

経団連は、東証1部上場企業を中心に、日本を代表する企業が加盟する三大経済団体(他の二つは日本商工会議所、経済同友会)の一つである。その社会への影響力は大きい。経済対策だけに止まらず、わが国の政策に多大の影響を有している。日本の最盛期には、「日本株式会社」という言葉が存在したように、官民一体となった国家運営の一翼を担って来た団体であり、その行動や発言は決して軽々に扱ってはいけない。

■80%以上の企業が「ルール破り」を堂々と回答

それにも関わらず、学生への配慮について一言も語らず、自らが設定したルールを加盟企業に順守を求めない、強制力はないとは、本当に驚きに発言である。事実、経団連が実施したアンケート調査では、「指針」を守っていないと回答した企業は80%を超えている。加盟している経済団体の定めたルールに反した行動をとっていると堂々と回答する企業にも驚きを覚える。

加盟企業の一部が、「優秀な学生」(何を持って優秀とするのかについては後述する)を確保するため、躊躇なくルール破りを敢行した。そして、大部分の企業がそれに追随したのである。悪しき「横並び意識」である。そのような状況を生んだのは、ルールは守らなくても良いとする空気感(みんなで渡れば怖くない)が支配していたからであろう。

ルールを守る気はないが、ルールは存在するのだから、守っているふりをする。具体的には、抜け道をあらかじめ準備してルール作りをしたり、ルールが守れない時に隠蔽したり、データの改竄を行ったりする。このような企業行動のあらゆるところに存在する。実は、それこそが、大きな問題なのである。

■「インターンシップ」と称するルール破りが横行

経団連加盟企業の抜け道を使ったルール破りは、実に巧妙である。説明会開始前から、インターンシップの名の下に、学生との接触と囲い込みがすでに始まっている。説明会開催に当たっては、各大学の就職担当部署や就職活動に関連する活動を行っているサークルとの綿密な打ち合わせを行っている。このようなサークルに参加する学生には、将来の就職に有利になるかもしれないという打算が含まれている。

説明会は、すべての3年生を対象としているのではなく、企業側が望ましいと考える大学に限定して行われている。「学歴フィルター」である。説明会を予約制にしている理由は、「想定外」の学生が応募して来たときに、すでに満席と回答するためである。説明会を通じて、学生の個人情報を収集することは禁止されているが、そのルールも決して守られているとは言えない。

6月が採用選考の解禁となっているが、事実上は、6月の早い段階で、内々定、あるいは、内定を学生に伝えている企業が多い。8月が採用選考の解禁となっていた時期は、採用選考解禁日の初日が事実上の内定日であった。8月解禁から6月解禁に変更したのは、8月初旬は、ほとんどの大学の前期(あるいは春学期)の試験期間中であるという大学の学年暦に経済団体が無知であったというお粗末な話であった。

また、8月から6月へと2カ月も前倒しにしたのは、「学業優先」という言葉が、本心ではなかったことに証左でもある。今回の不策定に関しては、これまでのルールに基づくと、オリンピックの開催と時期が重なり円滑な採用活動が行えないという声が、もしかすると反映されているのかもしれない。

■欲しくない人材から「原石」を探さないといけない

夏場にスーツ姿で走り回っている学生を目にすると、複雑な気持ちになる。現在は、売り手市場であるにも関わらず、まだこの時期、就職活動を続けている学生は、数多くの企業で面接までこぎつけることができなかったか、面接の初期段階で選考に漏れた者である。

学生は、たくさんの選考漏れを経験しているので、すでにこの時期には自信を失っているし、アイデンティティも崩壊寸前の状態にある。そのような状況の中、彼らは、各企業の計画している採用予定人数から、早期に内定を勝ち得た学生の数を差し引いたわずかの残席を勝ち取らないといけない。欲しいと思っている学生には、企業はすでに内定を出している。

つまり、積極的には採用しようとはしなかった者の中から、将来、光るかもしれない原石を探そうとするのが、夏以降の企業の採用活動となる。当然のことながら、企業はより慎重になり、採用決定までには時間がかかるのである。

■とにかく偏差値の高い大学から学生を取りたい

さて、これまでの「指針」に示されたルールの変更、そして、今回の「指針」の不策定の背後には、企業側の共通した考え方が存在している。

「大学生が大学で学ぶことにはほとんど意味はない。学業重視は、建前上、うたわないといけないという世間体に配慮したものであって、それ以上の意味はない。大学の格を示す偏差値こそが重要であって、偏差値の高い『優秀な学生』が確保できればいい」

経団連の幹部や加盟企業の経営者・人事担当者に上記のことを「実は、そうなのですよね」と同意を求めても、決して「そのとおりです」とは返答しないだろう。でも、返答とは裏腹に、彼らの大部分は、「それを言っちゃ、おしまいでしょう」と苦笑するだろう。

■企業の人事に、政府が介入することの異様さ

次に新たなルールに関連したいくつかの提言を行ってみたい。

第1に、新たなルールを政府主導で設定する(企業の人事に、政府が介入する)という発想の異様さをしっかりと認識しなければならない。ただ、この流れは、就職協定が最初に締結されたときから既定路線であり、変更を加えることはできないだろう。そうだとしたら、せめて、政府主導の新しく設定される指針は、採用活動に関する理念(Credo)のレベルにとどめることが望ましい。詳細なルールを作成するなら、ルール違反に対する厳しい罰則を設ける必要があるだろう。

しかし、国が決めたルールならみんな遵守するだろうと考えるのは安直すぎる。少数であってほしいが、企業はルールを守らない存在なのだ。監査論の初回の授業は、「監査の歴史は、不正の歴史である」という言葉から始まる。ルールは、残念ながら破られるものである。

■画一的な採用プロセスでは「原石」は見つからない

第2は、画一的な新卒者採用の進め方について、抜本的な変革を行う必要がある。多くの企業は、自社および自社の属する産業は特殊であるという。もし、そうだとすれば、自社にふさわしい人材のプロファイルも多様なものとなると考えられる。しかし、現実は、エントリーシートによるスクリーニング、SPIによる適性検査、集団面接によるさらなるスクリーニング、そして、最後に役員面接というプロセスを踏む企業が大多数である。

判で押したような採用手順には問題がある。採用に時間がかかり過ぎるとともに、多くの経営資源を投入しないといけないからだ。短期間で採用活動を終えることができ、投入する経営資源量を節約できる各社独自の採用方法を検討してほしい。そうすれば、画一的な採用プロセスで見落とされる「隠れた光る原石(hidden gems)」を発掘できるだろう。

これからは、かつて大成功を収めた護送船団方式の日本株式会社では、世界の強敵に伍して戦うことはできないだろう。大きな政府に頼る企業は、残念ながら世界のトップに立つことはできない。自分たちが採用する人材に、自社の将来を託すのである。採用活動は、企業の将来を決定する極めて重要な意思決定なのである。自社にとって有用な人材は、大多数の横並び行動をとる企業に必要な人材と異なっていて当然だと考える必要がある。

■「自分たちが正義だ」という企業の思い込み

ルールが決まっているにもかかわらず、リコール隠しに代表される隠蔽や、データ改ざんを含む法令違反は後を立たない。法令遵守(コンプライアンス)が声高に叫ばれる本当の理由は、わが国には、いまだ法令遵守の体制が整っていないからかもしれない。

大企業に共通した発言の背後には、自分たちは正義を語っているという思い込みがある。社会に大きな影響力を持つ企業や経済団体こそ、謙虚に発言し、行動することが必要である。現在の日本企業の低迷は正義を行った結果なのだろうか。決してそうではないだろう。何かを誤ったからの結果であることを謙虚にかつ真摯に受け止め、真の理由を解明し、善後策を講じる必要がある。

■日本企業の発想と行動は、何十年も変化がない

新卒者の採用に関する新しいルールに、光明が見出されるだろうか。期待したいが、暗澹たる気分になるのはどうしてだろう。事実、2021年以降の卒業予定学生に関して、たった2回の「就職採用活動日程に関する関係省庁連絡会議」(10月15日、29日)では、来年度以降で検討を行うことが決定されただけである。意思決定の先延ばしや遅れが、日本企業の国際競争での敗北をもたらしてきた事例が驚くほど多いということをなぜ教訓としないのだろうか。

「高潔な企業のみ生き残れる」時代となっていることを強く認識しなければならない。高潔な企業とは、「当たり前のことを当たり前にできる」企業のことをいう。しかし、日本企業の発想と行動は、何十年も驚くほど変化がない。

有給休暇が設定されているのに申請しにくい企業、あるいは、申請しても上司が怪訝な顔をする企業、休日出勤をするのが常態化している企業、いまだにOJTで人材育成ができると思い込んでいる企業、パワー関係に基づいて取引先に無理難題を押し付ける企業、自社の経営戦略をコンサルタントに作成してもらう企業、子会社の役員を兼業していても役員報酬を支払わない企業、多品種の品揃えをすることを顧客ニーズに対応する方策であると信じて疑わない企業……。

「当たり前ではないことを当たり前のように実施している」企業は驚くほど多い。当たり前でないことを当たり前に見せるための姑息な作業は、組織に、そして、組織構成員にダメージを蓄積させ、いずれの時が、予想もしない深刻な問題を生じさせるだろう。

高度成長期に機能した考え方や仕組みは、今や、弊害しかもたらさなくなっていることに、少しでも早く気がつかなければならない。

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加登 豊(かと・ゆたか)
同志社大学大学院ビジネス研究科教授
神戸大学名誉教授、博士(経営学)。1953年8月兵庫県生まれ、78年神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了(経営学修士)、99年神戸大学大学院経営学研究科教授、2008年同大学院経営学研究科研究科長(経営学部長)を経て12年から現職。専門は管理会計、コストマネジメント、管理システム。ノースカロライナ大学、コロラド大学、オックスフォード大学など海外の多くの大学にて客員研究員として研究に従事。

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(同志社大学大学院ビジネス研究科教授 加登 豊 写真=iStock.com)

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