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韓流スター級"脱北YouTuber"の人気ぶり

プレジデントオンライン / 2018年11月15日 15時15分

脱北ユーチューバー界ナンバー1の「ソン・ポムヒャン」。

■「収容所の中でセックスはできるのか?」「不倫はあるのか」

ここ数年、韓国で脱北者のユーチューバーが現れはじめている。

配信は北にいた頃の経験をもとに、視聴者からの質問に答えていくスタイルで、「収容所の中でセックスはできるのか?」「不倫はあるのか」といったエロ事情から、「父親が息子の肉を食べた」という凄絶なものまで北の詳細な生活事情を暴露する。南北関係についての見解を述べることもある。

元北朝鮮住民自身による語り口はメディアで報じられる内容よりもリアリティがあり、それぞれ数万人から数十万人のチャンネル登録者がいる。

彼らを観察していると、それぞれ自称するエピソード別にタイプがおおまかに二分される。「悲劇の苦労人型」と「カジュアル越境型」である。

悲劇の苦労人型は文字通り、北で塗炭の苦しみを味わい、死線を越え命からがら韓国に来たと主張する人々だ。

中でも目立っているのが、1998年から3度の脱北を経て2005年に韓国入りしたソン・ポムヒャンだ。韓国のTV番組「今、会いにゆきます」で告白した壮絶な脱北の経緯が話題となり、一躍有名人となった。ルックスとトークスキルを兼ね備え、プライベートでは7歳年下のイケメン夫と乳飲み子を持つキャラクターが人気を博し、チャンネル登録者数は脱北ユーチューバーの中でもダントツの25万人を誇る。脱北の経緯について映画化のオファーが来たことも。

■脱北の動機は「韓流アイドルに憧れていたから」

基本的に強気で、配信中に「アカ野郎」「スパイ」などと罵られることもあるが、そのたびに2~3倍に「口撃」し返す姿は奇しくも北朝鮮的だ。挑発的なコメントをした視聴者を18分間罵倒し続けたことも。

同じ分類にアンニュイな語り口のイ・ピョンや、回虫が口から飛び出てきたエピソードなどを笑顔で語るイ・ソユルらがいる。いずれも韓流スター顔負けのルックスで、タレント的な人気も獲得している。ネックは、彼らが幼少期に脱北しているため基礎知識に乏しく、エピソードが古いという点だ。

対して、カジュアル越境型は脱北時期が比較的新しく「ちょっと関西行ってくる」というようなノリで脱北してくる人々だ。以前から若い世代に時折見られたが、数年前に脱北した、20代のハン・ソンイ(13年脱北)もこれにあたる。現在は韓国男性と北朝鮮出身女性が共同生活をするリアリティ番組「うまくやっていきましょう」(※筆者意訳)にも出演している。

脱北の動機は「韓流アイドルに憧れていたから」。北朝鮮式発音とノリが抜け切らない絶妙なダサさを残す彼女の配信のウリは「北の住民と通話して得たリアルな情報」。中国製の携帯電話に細工することで直通電話が可能なようで、家族とも頻繁に連絡を取り合っているという。韓国の国家保安法に抵触しないのか、北に残した家族は無事でいられるのかなど根本的な謎は残るが、脱北者事情が様変わりしてきたことを窺わせる。

以前、とある場所で偶然出会った脱北者が「韓国は外国ではなく、地続きの『豊かな地域』という感覚」と筆者に語ったことがあるが、これは他国の人にはわかりづらい感覚かもしれない。

■韓国では脱北者を「先にやってきた未来」と呼ぶ

韓国では脱北者を、南北統一し両国の住民が忌憚なく交流する未来を先取りする存在という意味で「先にやってきた未来」と呼ぶ。彼らは同じ世代でも出身地域や階層によって脱北時期や動機が異なる。上流階級出身者は庶民の生活を知らず、貧困層は北朝鮮の政情について把握していない。

脱北ユーチューバーはこれまで可視化されなかった、そうしたグラデーションを本人たちの言葉でリアルに映し出す存在といえる。途中、何らかの事情でチャンネルを閉鎖してしまう配信者もいるが、韓国社会に適応できずもがく人も多い中、脱北ユーチューバーは生活を謳歌しているように見える。

一方で、彼らの発言内容の真偽を検証しようがないのも事実だ。「再生数ほしさに誇張している部分もあるだろう」と話す韓国のメディア記者もいる。北朝鮮当局は黙殺しているのか、取るに足らないと無視しているのか、今のところ反応を示していない。

(安宿 緑 撮影=プレジデント編集部)

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