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トランプ大統領がマスコミを敵視する理由

プレジデントオンライン / 2018年11月14日 9時15分

11月7日の記者会見で、トランプ大統領は、CNNの記者から「中南米からの移民集団を侵略者と思うか」と問われ、「侵略者だと考えている」と答えた。(写真=Sipa USA/時事通信フォト)

■「フェイクニュースを報道するなら国民の敵だ」

アメリカのトランプ大統領がここまでひどいとは思わなかった。中間選挙から一夜明けた11月7日にホワイトハウスで行われた記者会見のことだ。

日本のテレビニュースでも繰り返し報じられていたが、トランプ氏が自分の気に入らないCNNテレビの記者を責め立て、怒りにまかせて「フェイクニュースを報道するなら国民の敵だ」と非難した。

最高権力を持つ者が、その権力を使って言論を封殺する。これが民主主義国家を代表してきたアメリカの姿なのだろうか。なんとも情けなくなる。

同時にトランプ氏のような大統領がいるアメリカを信頼して強い同盟を結んでいる日本は今後、どう対応していけばいいのだろうかと不安にもなってくる。

ただ、幸いなことに中間選挙の結果、アメリカ議会は上院下院で多数派が異なる「ねじれ」を引き起こした。これでトランプ氏の勢いも、多少は衰えるだろうと思った。

■ホワイトハウスは質問したCNN記者を出入り禁止に

ところが、そう思った直後に起きたのが、あの記者会見だった。ここでテレビニュースを思い出しながら問題の記者会見を振り返ってみよう。

トランプ氏は選挙戦終盤で中米からの移民集団(移民キャラバン)を「アメリカへの侵略だ」と敵視した。そのことをCNNテレビの記者から問われ、「彼らが役者だと思うのか。彼らはハリウッドから来たのではなく、現実だ」と反論した。

さらにロシア疑惑について質問されると、トランプ氏は「でっち上げだ」と怒鳴り上げ、記者のマイクを取り上げるように指示し、「CNNはあなたを雇っていることを恥に思うべきだ」と罵った。

ホワイトハウスはCNNテレビ記者の記者証を取り消して記者会見への参加を禁止したというが、これも異常なことである。

■「トランプ大統領の攻撃はあまりに行き過ぎていている」

もちろんCNNテレビも負けてはいない。声明を発表して「トランプ大統領の攻撃はあまりに行き過ぎていている。危険であるだけではなく、非国民的だ」と強く批判した。

日本でも記者会見で反論する記者を怒鳴り上げたり、恫喝したりする政治家はいることにはいるが、トランプ氏ほどではいない。

ホワイトハウスの今回の記者会見では、別の記者がトランプ氏のこの態度に抗議する場面もあったが、記者として当然の行為である。

無謀な大統領だからこそ、ホワイトハウスを担当する記者たちがひとつにまとまって強く抗議し、大統領を追及する必要がある。ライバル関係にあっても他社の記者同士が協力し合いながら権力と戦っていくのは、アメリカが生んだジャーナリズムの姿である。

■民主党には「いまこそ、互いに協力すべきだ」と擦り寄り

「ねじれ」を気にしたのか、下院で過半数を獲得した野党の民主党に対し、トランプ氏は記者会見で「いまこそ、互いに協力すべきだ」と経済政策や貿易問題などでの協力を呼びかけた。

なんて身勝手な男だろう。己を利するためにはなりふり構わない。この機会に民主党はトランプ氏の“擦り寄り”の隙を突いてトランプ氏と戦ってほしい。それによってトランプ氏を指示する白人の保守層も目を覚ますのではないか。

だがトランプ氏も抜け目ない。今後、ロシア疑惑や納税問題の追及を民主党が強めるのなら、共和党が過半数を取った上院で、民主党に関する疑惑を調査することを示唆している。

トランプ氏対民主党の戦いの火蓋は切られた。

■「ロシアゲート」をめぐって、司法長官を更迭

ところでロシア疑惑とは、2016年の大統領選挙中に起きたサイバー攻撃などの選挙妨害においてトランプ陣営とロシア関係者の共謀が疑われているもので、ニクソン大統領を失脚させたウオーターゲート事件になぞらえて「ロシアゲート」とも呼ばれる。

このロシア疑惑をめぐってトランプ氏は中間選挙の結果が出ると、すぐに自らに非協力的な司法長官を更迭し、代わりに疑惑の捜査に批判的な司法長官首席補佐官を長官代行に充てた。

民主党に不祥事を追及される前に体制固めを急いだのだ。自らの疑惑を否定するために人事権を行使して捜査を妨害する。ウオーターゲート事件ではワシントンポスト紙がニクソン大統領の陰謀をみごとに暴いた。今回もアメリカのジャーナリズムに大きく期待したい。

■「日本はアメリカを不公平に扱ってきた」

共和党が上院の過半数を制した中間選挙の結果には「1期目の中間選挙としてはケネディ大統領以来の歴史的な快挙だ」とトランプ氏は自画自賛する。下院の敗北には「最初から予想していたことだ」と言い放った。真摯に反省ができない男なのである。

「米国第一主義」を掲げるトランプ氏は、日本に対しては来年から日本と行う物品貿易協定(TAG)交渉に触れ、「非常に低い関税で自動車を何百台も輸出し、アメリカ車は輸入していない。アメリカを不公平に扱ってきた」と批判した。

さらに7日のホワイトハウスでの記者会見では北朝鮮問題についても触れている。トランプ氏は金正恩朝鮮労働党委員長との2回目の会談を「来年初めに行う」と述べた。これまでポンペイオ国務長官らが開催の調整をしていることを明らかにしていたが、トランプ氏自身が話したのは初めてだ。よほど前回の会談が成功し、自分の偉業だと思っているのだろう。

■したたかな北朝鮮にトランプ氏はどう出るか

核と核を飛ばすミサイルを持つ北朝鮮は現在、アメリカに揺さぶりをかけてなかなか実務者協議には応じようとしない。

そんな中、ホワイトハウスでの記者会見でトランプ氏は北朝鮮が求めている経済制裁について次のように語った。

「解除してあげたいが、北朝鮮もこちらの要求に対応する必要がある」

さすがアメリカきってのビジネスマンである。ウイン・ウインの関係を北朝鮮にも求めている。

しかし北朝鮮はそれ以上にしたたかだ。今後、アメリカ議会のねじれをうまく利用し、トランプ政権の弱いところを突いてくるはずだ。

以前にもこの連載で指摘したが、北朝鮮の金正恩氏はロシア疑惑についてかなりの情報を握っていると思う。水面下でその情報を使ってトランプ政権に揺さぶりをかけているはずだ。

事実、金正恩氏はこれまでに数回、自らロシアに渡っている。そこでトランプ氏のスネにある大きな傷を見つけないはずはない。

■「大統領が、敵と味方に国を裂く張本人だった」

中間選挙の結果が出ると、新聞各紙は11月8日付で一斉に社説のテーマに選んだ。

朝日新聞の社説は「異様な選挙だった。罵倒とウソが乱れ飛び、人びとの憎悪と恐怖心をあおる。全国民を代表するはずの大統領が、敵と味方に国を裂く張本人だった」と書き立てる。

「異様」という表現などやや感情的で、もう少し冷静に分析して論じてほしいとは思うが、これがいまの朝日社説の限界なのだろう。

「米国の分断は、いっそう深まっている」と指摘した後、「この国の政治は引き続き視界不良のままだろう。日本を含む国際社会は、その認識のもとで対米関係と世界秩序を守る方策を考えねばなるまい」とも書く。

■米国経済では「政治」が慢性的な懸念材料に

朝日社説は「両院の分断は、ますます政治の機能不全を招くはずだ。果てしない政争の敗者は、ほかならぬ国民である。今は好調とはいえ米国経済は、妥協を見いだせない政治が慢性的な懸念材料と市場から目されている」と指摘する。

犠牲になるのはアメリカでも国民なのである。朝日社説は主張する。

「この選挙を機に米国議会は、大統領への監視と抑制を働かせる重責を取り戻すべきだ」
「問われているのは、米国が世界に自負してきたはずの多様な民主主義の再建である」

見出しも「民主主義を立て直せ」だ。沙鴎一歩もアメリカには民主主義を取り戻してほしいと思う。

■期日前投票が大幅に増えたのは国民の危機感の表れか

問題はどうやって民主主義を立て直すかである。

「覆水盆に返らず」ということわざがあるが、民主主義というイデオロギーは、こぼれた水以上に元には戻りにくい。アメリカ国民の心の奥深くにまで浸透し、民主主義を破壊したポピュリズム(大衆迎合主義)を排除していくのは、容易なことではないだろう。

朝日社説は「今回の選挙での救いは、若者を中心に投票率が上がったと見られることだ。4年前に比べて期日前投票が大幅に増えたのは国民の危機感の表れだろう」とも書く。

アメリカ、そして世界の未来が決して暗くないことを指し示す。

そのうえで「米国政治の関心は今後一気に2年後の大統領選へ移る。健全な論議を通じて、国民が草の根レベルから民主主義の復元力を発揮するよう期待したい」と訴える。

2年後のアメリカからトランプ氏のような大統領が姿を消していることを祈るばかりである。

■「トランプ氏が過激な路線を加速する公算が大きい」

一方、読売新聞の社説はその冒頭で「トランプ米大統領の独善的な政権運営に対し、歯止めを求める民意が示されたと言えよう」と書き、日本に対しては「米国政治の更なる混迷を想定し、日本は戦略的に対処すべきである」と主張する。見出しは「米政治の混迷にどう備えるか」だ。

朝日社説と違って、かなり冷静な分析と主張である。これは評価したい。

読売社説はその後半で「問題は、厳しい審判にもかかわらず、トランプ氏が過激な路線を加速する公算が大きいことだ」と指摘する。

その通りだからこそ、良識のあるメデイアの団結や野党民主党の結束によってトランプ氏に対抗し、アメリカ本来の民主主義を取り戻す努力が求められるのである。

■安倍首相にトランプ氏以上の外交手腕はあるか

読売社説はこうも指摘する。

「議会を無視して大統領令を乱発し、公約を実現する。民主党や主流派メディアへの敵視を強め、閉塞感を増大させる。貿易交渉で各国に身勝手な要求を突きつけ、同盟国には負担増を迫る。こうした事態への警戒が必要だ」

アメリカと同盟を結ぶ国々が、お互いの共通の利益の範囲内でまとまることも必要だ。最後に読売社説はこう主張して筆を置いている。

「日本は、トランプ政権の出方を注視しながら、同盟関係の堅持と、日米双方の利益となる通商関係の構築を図らねばならない」

ここで安倍政権を擁護する読売社説としては、「まずはトランプ氏の出方を見なさい」と安倍晋三首相に提案しているのだが、果たして肝心の安倍首相にトランプ氏を上回る外交手腕があるのだろうか。大いに疑問である。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=Sipa USA/時事通信フォト)

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