"しょぼくれシニア社員"放置で企業は傾く
プレジデントオンライン / 2018年11月20日 9時15分
■継続雇用「60歳以上」がしょぼくれてしまう深刻理由
2018年10月22日、総理大臣官邸で「第20回未来投資会議」が開催されました。会議では安倍首相が、「65歳以上への継続雇用年齢の引き上げについては、70歳までの就業機会の確保を図り、高齢者の希望・特性に応じて、多様な選択肢を許容する方向で検討していきたいと思います」というメッセージを発信しました。
労働人口が減少する中、働く意欲のある人たちがいつまでも働ける環境づくりを行っていくことはもはや「国策」と言えます。
しかし現状、60歳以上の働くモチベーションは高くないようです。多くの企業では、定年年齢を過ぎると部下がいなくなり、賃金が下がり、閑職に飛ばされてしまいます。そのため高い意欲を持ちづらいのです。シニア社員をそうした状態のまま放置していていいのでしょうか。
【1:仕事内容は同じなのに、収入だけが下がる】
2012年に「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」が改正され、定年年齢を65歳未満に定めている事業主は、「65歳までの定年の引き上げ」「65歳までの継続雇用制度の導入」「定年の廃止」のいずれかの措置を取ることが求められています。
厚生労働省の「就労条件総合調査」(2017年版)によれば、定年制を定めている企業は95.5%に上り、そのうち、定年後の再雇用制度を選択している企業が72.2%を占めています。過半の企業が定年退職をした従業員を、定年前とは異なる雇用形態で再雇用しているのです。
労働政策研究・研修機構の「60代の雇用・生活調査」(2015年7月)によれば、定年後に継続雇用された235万2000人のうち、「仕事内容が変化していない」は50.7%、「同じ分野の業務ではあるが責任の重さが変わった」は34.8%でしたが、「賃金が低下した」は80.3%でした。
つまり継続雇用では多くの人が、賃金は低下したが、仕事内容は定年前と同じことがうかがえます。賃金が下がった人の中には、「仕事内容が変わっていないのに賃金が下がるのはおかしい」と回答した人も約3割います。
■「成果を出したシニア社員には賞与」でしょぼくれずに済む
【2:定年前から「定年後」のキャリアを見据えておく】
企業はシニア社員をどのように活用するべきなのでしょうか。ここでは2つの提案をしたいと思います。
1つ目は、人事制度の再設計です。待遇の低下は、シニア社員のモチベーションを下げます。継続雇用で月額報酬が下がった場合でも、成果を出したシニア社員には賞与で報いることも一案です。
2つ目は、定年前からシニア社員とキャリアについて話し合っておくことです。昇進時に階層別教育を行う企業はたくさんありますが、役職を降りた後(降りる前含む)の教育支援や面談を行う企業はまれです。
労働政策研究・研修機構の「60代の雇用・生活調査」(2015年7月)によれば、「定年前に定年後に向けた相談の機会があった」と回答した人は約2割。一方で、相談の機会を得られた従業員の約9割は、「会社側と定年前に相談ができたことに満足をしている」という結果が得られています。
昇進の階段を上ることしか考えてこなかったシニア社員に対して、それまで培ってきた強みや、どのような仕事に楽しみを感じられるかのといった視点から、自身のキャリアを見直す機会を与えることが重要です。
筆者が往訪した企業の中には、役職が外れたシニア社員でも事業運営にかかわる主要な会議に参加できるように配慮されているケースがありました。役職が外れた途端、今まで得られていた会社の情報がまったく得られなくなると疎外感を抱くことにつながります。
もちろん、すべての情報を共有する必要はありませんが、経営や部門運営に関する重要な情報は可能な限り共有することが、シニア社員のロイヤリティの維持につながります。シニア社員が活躍し続けられる企業は、安心して長く働き続けられる企業として、若い人からも魅力的に映るはずです。
■真似したい、長く働き続けられるシニア社員の「言動」
【3:シニア社員に必要な心がけ】
企業活力研究所の「シニア人材の新たな活躍に関する調査研究報告書」(2012年3月)によれば、若手・ミドル層がシニアと仕事をすることでメリットと感じることは、「高い技術、ノウハウなどを持ち、教えてもらえる」(62.8%)が最も高く、次に「人生の相談相手として、経験を活かしたアドバイスがもらえる」(59.9%)が続きます。
一方、デメリットと感じることは、「過去の経験に固執している」(56.7%)、「柔軟性に欠ける」(49.4%)、次いで「事務的な仕事を自分でやろうとしない」(37.2%)となっています。
さらに、若者・ミドル社員に「今のシニアについて感じること、改善してほしいこと、自らどんなシニアになりたいか、シニアの会社や社会とのかかわり方はどうあるべきか」について自由記述してもらうと下記のような声が得られました。
・過去の栄光にこだわり、自分の若かった頃のやり方を通そうとすることが多い(27歳女性)
・説教ばかりしてないでもっと協調性と柔軟性を持ってほしい(37歳男性)
・高圧的な態度を改めてもらいたい(35歳男性)
・もっと自分で事務処理もやって、現状の仕事の量や質を感じてほしい(49歳男性)
・PCを使う作業はできないというより、やること自体を拒否して他人任せにする(34歳男性)
・自分の持っている知見を惜しみなく教えてほしい(28歳男性)
筆者自身も企業の現場で、社会環境が昔と異なっているにもかかわらず、シニア社員が過去の成功体験に固執し、若手社員を困らせているというケースをたびたび聞いています。
シニア社員も組織の中で長く働き続けたいのであれば、過去の役職は忘れ、若手社員に対して自分の価値観を押し付けず、異なる意見や仕事の仕方を柔軟に受け入れる姿勢を持たなければいけません。
そうした姿勢を持つことができれば、周囲との関係が良好になるだけではなく、広い年齢層のコミュニケーションが盛んになり、より良い仕事のやり方やアイデアが生まれてくること期待できます。
■社員が早い段階から長期的なキャリアプランを描く
スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ博士による「プランドハプンスタンス理論」(計画的偶発性理論)によると、自分のキャリアのなかで、予期しない出来事(例:希望しない異動など)が起こっても、それを前向きに捉え、最大限の努力で取り組むことがキャリアの機会を創造すると言われています。
定年の延長などによって働く期間が長くなることで、望まない出来事に直面することもあると思います。そのような時でも、前向きに捉える姿勢を持つことが、長い仕事人生を実り多いものにすると信じることが大事なのでしょう。
これはシニア社員だけでなく、企業の側にも認識してほしいことです。社員一人ひとりの自立をサポートし、早い段階から社員自身が長期的なキャリアプランを考えるように仕向ける体制を整えれば、定年後の意欲低下を防ぐことができるはずです。意欲が低いまま雇用延長するのは、お互いにとって損失です。ぜひ変えていってほしいと思います。
(日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト 小島 明子、日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 マネジャー 榎本 久代 写真=iStock.com)
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