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アマゾンが10年以内に失速する5つの理由

プレジデントオンライン / 2018年11月21日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/jetcityimage)

時価総額1兆ドルを超えたアマゾン。実店舗での展開にも乗り出し、成長は衰えをしらない。だが世界的な小売コンサルタントのダグ・スティーブンスは「この大成功のなかにこそ衰退の種がある。私は10年以内にアマゾンは失速すると考えている」という。彼が指摘する「5つの理由」とは――。

■小売界では「最も巨大な企業」も倒れ得る

「その企業は激しく革新的で、絶えず破壊的で、徹底した顧客第一主義である。同社の象徴でもある創業者は、人類史上で最も豊かな人間の1人だ。その成長軌道はあまりに驚異的で、モノを売りたい企業にとって、こことつきあうかつきあわないかという選択の余地はほとんどない。真正面から戦うのは茨の道だ。この企業は恐れられ、賞賛され、嫌われてさえいる。そしてなにより無敵に見える」

ときけば、誰でもアマゾンの話だと思うだろう。だが、この“最上級の賛辞”は、それほど遠くはない過去に、別の小売業者に向けて送られていたものとまったく同じだ。ウォルマートである。アマゾン創設者のジェフ・ベゾスは、パートナー企業と協業しながらマーケティングや営業活動を展開する「Go to market」の哲学をウォルマートから学んだ。

1962年から2000年代初頭にかけてウォルマートは小売業界に君臨し、大小さまざまな競合をなぎ倒しつつ巨大化していった。2010年までに4393店舗をオープンしたが、うち3000店は1990年以降の開店である。まさに、小売界のローマ帝国だった。

しかし、その伝説的な繁栄にもかかわらず、2015年、ウォルマートは45年前の上場以来初の売上減を経験し、その後はかつての勢いを取り戻そうと、存亡をかけた第4四半期決算ごと戦いを余儀なくされている。いまも、過去60年の膿を出し、新たな環境に適応するための自己改革に、なりふり構わず取り組んでいる最中だ。

ウォルマートがこの小売の新時代を生き残れるかどうかは議論の余地があるが、一つだけ確かなことがある。最も巨大な企業も倒れ得るのだ。

■大惨事をもたらす「成功のワナ」

皮肉なことに、ウォルマートを最強の小売にした要素の多くが、アマゾンのような破壊的な競争が現れたときに致命的な弱みとなった。アマゾンがこうした「成功のワナ」にかかるとき、それはウォルマートの場合を上回る惨事となろう。

なぜなら、変化や競争、そして消費者の志向が比較的ゆるやかに推移した工業中心の時代にビジネスを拡大したウォルマートとは異なり、今日の小売業界は新しいアイデア、コンセプト、テクノロジーが光のスピードで移動するデジタルインフラの上に構築されており、顧客ロイヤルティもまったくつかみどころがないからだ。

わたしは、アマゾンは10年以内に失速すると思っている。なぜか。以下にその根拠をまとめた。

■失速の理由1:組織的刷り込み

コダックはフィルムの販売に成功し、ブロックバスターはビデオのレンタルに成功し、タワーレコードはレコードの販売に成功したが、それぞれの成功は、同時に盲点も生んだ。極端な成功ゆえに明らかな市場、技術、消費者の変化を見落としてしまったのだ。

小売コンサルタントのダグ・スティーブンス

1960年代の社会学者、アーサー・L・スティンチクームの言葉を借りると、これは「組織的刷り込み」と呼ばれる。企業が最大の成功をおさめた時代の組織構造と戦略は、その後何年も、場合によっては何十年にもわたって「凍結」されてしまうのだ。

同様に、アマゾンの現在のビジネスモデルでの成功は、電子商取引における重要な社会的、経済的、技術的変化を見えにくくしている可能性がある。実際に、最近のインタビューでジェフ・ベゾスは次のように述べている。

「顧客は低価格を望んでいるのです。いまも、10年後もそれは変わらない。彼らは迅速な配送を望んでいます。充実した商品数も望んでいます」。

そのとおりかもしれないが、危険なのは、過去にアマゾンを成功させた要因が将来もアマゾンに成功をもたらすと信じることだ。

1990年代にウォルマートは、生活用品から食料品まで、膨大な商品をワンフロアに展開するスーパーセンター(SuC)で大成功し、オンラインコマースへの投資を減らしてSuCの増設に振り向けた。この戦略は失敗に終わり、同社はそれによる損失をまだ回復できていない。成功した組織は市場を見る角度を完全に変えないかぎり、危機や機会が視野に入ってこなくなる。

■失速の理由2:楽しくない

アマゾンでの買い物体験が優雅で楽しいと言うのは、チェーンソーが優雅で楽しい機械だと言っているようなものだ。実際、アマゾンはチェーンソーに似ている。チェーンソーのように1つのことだけを行う目的でつくられているのだ。最大の品数のなかから比類なき利便性をもって最速の配送で消費者にものを届ける。探しているものがわかっていれば、すばらしい仕組みである。

問題は、わたしたち人間が買い物をするのは「モノを手に入れる」だけが目的ではない。少なくとも、常に「モノを手に入れる」のが目的ではない。われわれは新しいモノに出合うために買い物をし、友だちと楽しみ、自分を満足させるために買い物をする。

わたしたちは、ハンティングのようなスリルを味わうために買い物をする。狙ったものを見つけたときには、脳内物質のドーパミンが出て気持ちよくなる。アマゾンはこうした買い物の副次的な楽しみにはほとんど関心がないようだ。アマゾンでの買い物は、孤独で、静かで、心躍らない体験という点で、カタログショッピングがオンラインになったというだけだともいえる。

わたしは毎週のように、より没入型でインタラクティブで面白くてソーシャルなショッピングのアプリをつくることに取り組んでいる若いスタートアップの創業者と話す機会があるが。こうした企業が成功をおさめたとき、アマゾンは路線変更できない状態になっているかもしれない。

■失速の理由3:「担当者」のメンタリティ

創業者主導の組織は、強力で、迅速で、破壊的である。往々にして彼らは深く共有され、頻繁に伝達されるミッションと目的意識によって成り立っている。権限委譲された現場が顧客との親密な関係を育む。アマゾンを小売業界の頂点まで押し上げたのは、まさにこの創業者主導の考え方だ。

ダグ・スティーブンス・著、斎藤栄一郎・訳『小売再生 リアル店舗はメディアになる』(プレジデント社)

しかし、創業者が組織を去ったり、あるいは組織があまりにも大きくなりすぎて創業者のエネルギーと存在が拡散し、ほとんど効力をもたなくなったりして、組織が創業者の推進力を失うと問題が発生する。ウォルマートはサム・ウォルトンという羅針盤を失ったとき、ウォルトンが唱えた価値観と顧客が高く評価した価値に反する決定を下した。

ベゾスは健康に(実際、エネルギーが有り余っているようにも)見えるが、より大きなリスクはアマゾンの日々の戦略と執行における彼の直接の関与と影響が、組織の規模のせいで、あるいは、商業宇宙旅行のような中核的ビジネスではないものへの情熱のために、減じられることだ。

創業者のメンタリティが担当者のメンタリティに置き換えられると、アマゾンは顧客第一主義を忘れ、革新性を失いかねない。かつてビジネスを改善することに向けられたエネルギーは、単に組織のインフラを維持するための業務に向けられるようになるだろう。

事業の最前線で行われていた決定が、顧客と離れた組織の真ん中で行われるようになれば、致命的な顧客ロイヤルティの喪失につながる。アマゾンはその使命感と目的意識を失い、競合他社が捉えやすい、ゆっくり動く大きなターゲットとなる。

■失速の理由4:労働問題

1990年代には、アマゾンの経営幹部がストックオプションで大金持ちになり、人々の羨望の的となった。しかしいまやアマゾンの経営幹部の多くが、耐え難いプレッシャーと理不尽な勤務時間などによって、うつ病、不安、およびその他の精神的症状になやまされ、治療を必要としている。

倉庫の労働者が生産性が落ちると罰せられる恐れがあるため、トイレ休憩を取ることを控えるような有害な労働環境を明らかにする調査報告も次々と出てきている。さらに、アマゾンで働く人間は、より効率的かつ低コストで仕事を遂行するように訓練されているロボットの集団の中で仕事をしている。

過去のウォルマートのように、アマゾンは組合化を阻止するためにかなりの苦労をしていたが、これは不可避なことに対する予防措置に過ぎないのではないか。アマゾンの従業員の不満は、最終的にはアマゾンの顧客の不満につながるだろう。

あらゆる顧客サービス指標でトップクラスの会社にとっては、顧客満足度のわずかな低下も致命的となるおそれがある。

■失速の理由5:「おとり商法」の反動

アマゾンは2017年にシアトルで3日間の会合を開き、無数の消費財ブランドに自分たちのプラットフォームを使うよう訴えた。「アマゾンを使って中抜きにしましょう! 消費者との直接の関係築きましょう!」。なんとすばらしい話だろう、とブランド各社はアマゾンに駆け寄っていった(歩み寄り程度の話ではなく)。それまで高潔な抵抗者であったナイキでさえ、「Just Do It!」とばかりにベゾスと組むことを選んだ。

しかし、ここに落とし穴がある。アマゾンは裏でプライベートブランドを立ち上げていたのだ。その数は100以上にものぼる。すでに市場に出ているものもあるが、ほとんどはまだ発表されておらず、カテゴリーはアパレル、食品、化粧品、家具など広範囲に及ぶ。

なぜアマゾンはプライベートブランドを準備しながら、他のブランドを積極的に招き入れているのか。自社ブランドをつくった末に彼らと競争しようというのか? 以下の2つの簡単な問いに答えればおのずとわかるだろう

●アマゾンで何か売れたとき、そのデータを手に入れるのはどこですか?
●最終的に顧客との関係を手にしているのはどこですか?

どちらの答えも「アマゾン」である。

そう考えると、アマゾンはブランド各社のデータを利用して、自社ブランドのカテゴリーや特定の製品の知識を完成させ、小売市場最大の「おとり作戦」を実行に移すだろう。最も人気のあるブランドの商品を探している消費者は、より費用対効果の高いアマゾンランドを選ぶことだろう。アマゾンのマージンを押し上げるために、絶え間なくプライベートブランドへの誘導は続けられるだろう。

しかし、長期的に見ると、ブランド各社はより敵対的でないパートナーを探してアマゾン王国から逃げていくだろう。人気ブランドがいなくなれば、アマゾンはアマゾンでなくなる。

■アマゾンと組むときは「パラシュート」をお忘れなく

ジェフ・ベゾスが最初にウォルマートをお手本にしたのと同じように、彼らのような結末を迎えないために改めてウォルマートを参考にするかもしれない。アマゾンと取引をしているブランド各社はご注意されたい。アマゾンとビジネスを行うときは、よく周りを見て、パラシュートをつけてからにしてほしい。

いまや時価総額は1兆ドルを超えたアマゾンは、間違いなく100年に1社の会社であり、人類史上の最も大きく最も強力な企業の1つである。アマゾンにとってそれは最も大きな心配の種であり、アマゾンとビジネスをする企業にとってもまたそうである。

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ダグ・スティーブンス(Doug Stephens)
小売コンサルタント
世界的に知られる小売コンサルタント。リテール・プロフェット社の創業社長。人口動態、テクノロジー、経済、消費者動向、メディアなどにおけるメガトレンドを踏まえた未来予測は、ウォルマート、グーグル、セールスフォース、ジョンソン&ジョンソン、ホームデポ、ディズニー、BMW、インテルなどのグローバルブランドに影響を与えている。著書に『小売再生』(プレジデント社)、The Retail Revival:Re-Imagining Business for the New Age of Consumerism(未訳)がある。

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(小売りコンサルタント ダグ・スティーブンス 初出=Business of Fashion、翻訳=プレジデント社書籍編集部 写真=iStock.com)

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