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"ゆるキャラ1位"に燃える自治体の勘違い

プレジデントオンライン / 2018年11月20日 9時15分

2018年11月18日、ゆるキャラグランプリで1位に選ばれた埼玉県志木市文化スポーツ振興公社の「カパル」(中央)(写真=時事通信フォト)

全国のゆるキャラ日本一を競う「ゆるキャラグランプリ」の結果発表が18日に行われ、志木市の「カパル」が1位になった。今年は自治体職員らによる「組織票」の存在が報じられ、過熱ぶりが批判されていた。九州大学大学院の嶋田暁文教授は「がんばって1位をとっても、中身がなければすぐ忘れられる。自治体職員の“働き方”を問い直すことが大切だ」と指摘する――。

■「組織票」は是か非か

近年注目度が下がってきたかに思われた「ゆるキャラグランプリ」は、今年、数年ぶりに大きな話題を呼んだ。11月9日、その段階で暫定1位であった「こにゅうどうくん」を擁する三重県四日市市が、市役所職員を動員して「組織票」を投じていたことが、大々的に報じられたためである。暫定2位であった「ジャー坊」の福岡県大牟田市も、約1万件のメールIDを取得していたという。

これを受けて11月15日に放送されたNHK「クローズアップ現代+」では、「ゆるキャラブームに異変!人気投票に大量の“組織票”が…」と題した特集が組まれた。そこでは、「そういう形で1位になってもうれしくないです」とか「職員が業務中にやるべき仕事ではない」といった市民の声が紹介されるとともに、ゲストの一人は、「人気のバロメーターを測るというグランプリの趣旨に反しており、ずるい」という趣旨のコメントをしていた。

これに対し、森智広・四日市市長からは、「まちの知名度の向上、イメージのアップに加えて、市民がまちを想う心を強くしていくため、つまり、まちの一体感を醸成するために、市民と行政が一体となってやっている」という趣旨の弁明がなされた。

果たして、どう考えるべきであろうか。

■問題の本質は“組織票”ではない

筆者自身の感想を述べれば、確かに「ずるい」かもしれないが、“「お祭り」気分で、市民と行政が一丸となって、みんなで1位を目指してがんばる”というのは、気持ち的には分からなくもない。決して褒められたものではないが、目くじらを立てるほどのことでもないと思う。

※その後、実行委員会の依頼により「組織票」と思われるIDが削除され、最終的に、「ジャー坊」は2位にとどまったものの、「こにゅうどうくん」は3位に転落し、4位だった「カパル」(埼玉県志木市文化スポーツ振興公社)が1位となった。

しかし、である。この問題の本質はもっと別のところにあるように思われる。それは、その効果が定かでないにもかかわらず、関係自治体が「ゆるキャラ1位獲得」を目標にしてしまっている点にある。つまり、「ゆるキャラグランプリで1位になれば、本当に、まちの一体感・誇りが生まれたり、まちのイメージアップにつながったり、地域が活性化したりするのか」という点が十分に吟味・検討されていないことに根本的な問題があるのだ。

■ゆるキャラだけでイメージはアップしない

第1に、みんなでがんばって、仮にゆるキャラグランプリで1位になったとしても、それによって醸成された市民の一体感や誇りは、あくまで一時的なものにとどまるだろう。それは「中身」がないからである。真に持続的な「市民の一体感や誇り」が醸成されるためには、文化、歴史、風景、人のつながり、食、産品など、そのまち独自の魅力・素晴らしさ(=「中身」)を広く市民が実感し、認識を共有することが必要なのだ。

第2に、ゆるキャラ一つでまちのイメージがアップするとすれば、実にめでたいことだが、そんなことはありえないだろう。既存イメージが形成されてきたのには、それなりの原因があるはずである。その原因を解消するのではなく、ゆるキャラでイメージアップを図ろうとするのは、単なる表面的なごまかしでしかない。

第3に、仮にゆるキャラを通じて知名度が高まったとしても、地域の活性化につながるかどうかは定かではない。確かに、関連グッズが爆発的に売れるなど、経済効果を発揮しているゆるキャラが存在しないわけではない。しかし、それは、くまモンなど、ほんのごく一部のゆるキャラにとどまる。実際、過去のグランプリで優勝経験を持つゆるキャラの中には、その活用が経済効果に必ずしもつながっていないとして、関連予算の見直しが検討されているものもある。

■自治体職員の働き方が抱える問題

今回の問題の本質は、「必ずしも効果が定かでないものが目標とされてしまっている」点にある。「真になされるべきこと」が何なのか、見えなくなってしまっているのである。

実はこうしたことは、自治体現場でしばしばみられることである。その意味で、今回の問題は、自治体行政のあり方・自治体職員の働き方の問題点が如実に顕在化した一例にすぎない。

では、なぜこうした事態が生じてしまうのだろうか。少なくとも、次のような要因が考えられる。

第1に、自治体職員に「目的を問う姿勢」が乏しいためである。「何のために、それをするのか」が必ずしも意識化されないのである。典型的な例をご紹介しよう。

※もう一つの事例も含め、嶋田暁文「何が自治体職員の『働き方改革』を阻むのか」『都市問題』2018年7月号で取り上げたものを再録していることをお断りしておきたい。

某県の観光担当の職員は、県内離島のX島にやってきて、次のように述べたのだという。

「県としては来年度は、観光入込客数を増やすために、旅行会社にツアーを年間180本企画してもらうことにしている。ところが、旅行会社によれば、客単価がネックになるという。X島では、ガイド料を計8000円に設定しているが、これが高すぎてツアーを組めないということなので、ガイド料を1000円以内にしてほしい」

この話を聞いた住民は、大変驚き、思わず「えっ?」と聞き直したそうである。それもそのはず、「平成の大合併」で「合併しない」という選択をしたX島では、“(1)島の持続可能性を考えた場合に必要な雇用数が何人で、(2)観光関連の売上額を何年までにいくらまで伸ばせばいいのか、(3)宿泊観光客を何人受け入れればその目標を達成できるのか”をきちんと計算し、計画的かつ着実にその実現に取り組んできたからである。

県職員による提案に基づきガイド料を8分の1にした場合、観光客数が仮に倍に増えても、(客数が増えるのでガイドの労働時間・手間は増えるが)入って来るお金は4分の1に減ってしまう。おまけに旅行会社が企画しているのは日帰りツアーであり、X島に落ちるお金は、ガイド料のほか、弁当代とお茶代くらいにとどまることになる。これでは、地域にとってマイナスでしかない。この県職員は、「何のためにそれをするのか」、「それによって住民自身が本当に幸せになるかどうか」という点への意識づけを欠いている。

■「与えられた仕事をこなす」に終始

第2に、自治体職員の多くが「与えられた仕事」を外形的にこなすことに終始し、「なぜ?」という問いを起点とした「分析に基づく仕事の仕方」をしていないためである。理解しやすいよう、これについても、一例を挙げておこう。

1970年代の銭湯業者は、レジオネラ菌の発生を恐れ、基準をオーバーした強めの塩素消毒を行う傾向にあった。皮膚が柔らかい子どもの肌はヒリヒリと痛み、赤ちゃんはその痛みで泣きだすありさまだった。これに対し、ある職員は、「なぜ基準を守ってもらえないのか?」を考えることで、「銭湯業者は守り方が分かっていないから守れないのだ」ということに気づいた。彼はスライドを作り、「どうすれば安心して基準を守れるか」を分かりやすく伝え、最終的に違反をゼロにした。

しかし、彼が着任する以前、他の職員はそうした行動をとってこなかった。すなわち、定期的に巡回して「ルールを守るように」と行政指導を繰り返す一方、一向に守ってもらえないことに腹を立て、陰で「銭湯業者の遵法意識の低さ」を嘆くだけだった。そのように「問題解決につながらないまま、行政指導を繰り返す」というのでも、“外形的には、仕事をこなしている”と言える。しかし、地域を良くすることには全くつながっていない。

目的達成にとって効果的な、意味ある仕事をしていくためには、「なぜ?」という問いを起点とした「分析に基づく仕事の仕方」に変えていかなければならない。

第3に、自治体職員の多くが「機会費用」を意識していないためである。たとえば、遊ぶのは楽しいが、その時間を勉強に充てれば、その分、成績が上がるかもしれない。このように何かあることをする結果として失うかもしれない利益・便益を「機会費用」という。

自治体現場では、この機会費用がほとんど意識化されていない。そのため、「そこに費やされている予算や人員を他の仕事に振り向ければ、もっと住民や地域のためになるのではないか」といった発想が出てきにくい。その結果、「やらないよりやった方が良い」という程度の仕事が見直されることなく継続してしまい、「真になすべきこと」に向かっていくことにはなかなかならないのである。

■内発的な働き方改革が求められる

勘違いしないでほしい。筆者は自治体職員を批判したいわけではない。実は、上記のような働き方に強く心を痛めているのもまた、彼(女)らだからだ。2010年に筆者らが行った調査(※)によれば、自治体職員の過半数の職員が、「辞めたい」もしくは「かつては辞めたいと思っていた」と答えており、その理由の第1位は、「仕事がつまらない(やりがいがない)」というものであった。自治体職員の多くは、「住民のため、地域のために何かできれば」という“思い”を根底に持っているにもかかわらず、“思い”に即した働き方ができていない。そうした実態がこの回答に表れているように思われる。彼(女)ら自身も悩んでいるのだ。

今求められているのは、自治体職員自身がいつの間にか希薄化させてしまっている“思い”を取り戻し、「住民を幸せにする、地域を良くする」働き方に変えていくことである。それができれば、職員自身も幸せになれる。ただし、そのためには、「これまでの働き方」を反省し、欠けていた姿勢や発想を獲得する必要があるだろう。

※自治研作業委員会「分権時代における自治体職員の働き方委員会」のアンケート調査。東京、神奈川、福井、三重、福岡の都県職員および市町村職員4000人を対象に実施した。

今回のゆるキャラをめぐる問題は、「『組織票』は是か非か」という次元での議論に終始すべき問題ではない。「自治体のあり方・自治体職員の働き方」を問い直す契機としてとらえ直すべきなのである。

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嶋田暁文(しまだ・あきふみ)
九州大学大学院 法学研究院 教授
1973年、島根県安来市生まれ。専門は、行政学、地方自治論。中央大学法学部卒業後、2002年3月に中央大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。地方自治総合研究所非常任研究員、日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、2004年4月に九州大学に助教授として赴任し、現在に至る。著書に『みんなが幸せになるための公務員の働き方』(学芸出版社)。

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(九州大学大学院 法学研究院 教授 嶋田 暁文 写真=時事通信フォト)

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