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1万円の美容液を使うコスメオタクの素顔

プレジデントオンライン / 2018年11月28日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Coral222)

「女性がメイクをするのは男ウケのため」と考えるのは大間違いだ。女性は社会に出ると「マナー」として化粧を求められる。女性に生まれたがゆえに、社会が求める装いをしなければならないのは理不尽とも言える。だがその理不尽を逆手に取り、「なりたい自分への扉」としておしゃれやメイクを追求する女性たちがいる。彼女たちの本音とは――。

※本稿は、劇団雌猫『だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査』(柏書房)の「はじめに」と第1章の一部を再編集したものです。

■「すっぴんで外に出ていいのは高校生まで」

朝起きて、歯を磨いて、顔を洗う。

老若男女誰もが行っている、毎日のルーティンです。

しかし女性には、さらにやらないといけないことがあります。

それが、「化粧」。

すっぴんで外に出ていいのは、せいぜい高校生まで。あの頃は「髪を染めるな」「化粧をして学校に来るな」と言われていたくらいなのに、大学や会社に入ったとたん、「女ならメイクをしてくるのが当たり前」「眉毛とファンデは最低限のマナー」と言われて、理不尽に感じながらも仕方なくメイクをしている女性も、多いのではないでしょうか。

また、日々「キラキラOLになりたいならこう」「今年のトレンドに乗り遅れないで!」などと語りかけ、女の格好はかくあるべし、モテたいなら美しくなれという規範を押し売ってくる雑誌や広告を目にし続けて、よそおうことそのものへの苦手意識が根付いてしまった人もいるでしょう。女性だからといって必ずしも、好きでおしゃれをしているわけではないのです。

■「身だしなみのマナー」がおしゃれを遠ざける

あるいは、ほんとうは確固たる自分のスタイルを持っているのに、それを自由に出せず息苦しさを覚えている人もいます。

「就活するなら髪の黒染めはマスト」
「接客業だからネイルはNG」
「オフィスではスカートは膝丈までが原則」
「夏場でもストッキングは必ず着用」

世間でなんとなく作り上げられてきた「身だしなみのマナー」に反しないように自分のおしゃれを矯正していくうちにいつのまにか、ほんとうに好きな自分の格好がわからなくなってしまうなんてことも、きっとあるだろうと感じています。

今、この文章を書いている私――劇団雌猫のひらりさもその一人。女子校育ちの根っからのオタク女子であるがゆえに、男子の目を気にして好かれそうな格好をすることも、ファッション誌を通じて世間一般のトレンドを学ぶこともなく、大人になりました。アニメやマンガの女の子たちがキラキラしたコスチュームに変身するのはうっとりと眺めていたのに、現実世界の自分がメイクやおしゃれをすることは、「他人の要求に適った自分になること」に思えて、どこか敬遠していたのです。

■よそおうことは「生き方の表明」

しかし、インターネットで知り合った友達が増えるにつれ、まるでアイドルやアニメキャラクターを応援するかのように、特定のコスメブランドにハマったり、推している作品を考察するくらいの熱心さで、自分の顔にあったメイク術を編み出したりしている人がいるのに気づきました。それからは、愛をそそげる趣味のひとつとして、「よそおう」という行為を見られるようになったのです。

「メイクって、自分のためにやっていいんだ?」
「おしゃれって、すごく自由なことなのでは?」

まるで「枷」のように感じていたコスメや洋服が、なりたい自分への扉をひらく「鍵」だと知れてから、日々自分をよそおう時間が、ほんとうに楽しいひとときになりました。そして、周囲にいるあの人、この人……いろんな人のよそおいの裏にある美学を知りたいと感じ始めたのです。そうした思いから生まれたのが、『だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査』です。

待っているのは全員、実在の女たち。コスメオタク、アイドルオタク、バリキャリOL、ロリータ、元アイドル、ドバイのネイリスト……などなど。総勢15人の女たちが、普段は明かしていない自分の「美意識」についてつづっています。

自分のためにするおしゃれも、他人のためにするおしゃれも、まだスタンスが定まらずに模索するおしゃれも、すべてはその人が「どうありたいか」と結びついた、その人ひとりだけのものに他なりません。そして、誰かがおしゃれをしたい理由、したくない理由を掘り下げることは、その誰かが「どうありたいか」を知っていく過程でもあると思います。自分の「好き」をつらぬいた格好も、世間の「ウケ」を狙った格好も、その人の生き方の表明である限り、ひとしく美しく、そしてめちゃくちゃかっこいいものなのです。

自分自身の美意識を探りたい人も、そして女性たちの「美」の実情を知りたい人も、ぜひ彼女たちのよそおいの裏側を、のぞいてみませんか?

■「コスメアカウントを運営する女」の素顔

▼Twitterでコスメアカウントを運営する、24歳女性のエピソードを紹介します。
コスメアカウントを運営する女(画像=『だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査』より)

中学、高校と、おしゃれには無頓着に暮らしてきた。しかし20代になってからの5年間を振り返ると、コスメに概算50万円近くを費やしている。一番好きなコスメブランド・NARSのポイントカードには、1年で10万円以上購入した履歴が残っている。

コスメに興味を持ったのは、大学3年の時。就活のストレスをコスメの浪費で発散していた部分もあったかもしれない。Twitterで、コスメの購入報告や新商品の情報などを発信しているコスメアカウント――通称「コスメ垢」を見るようになった私は、都会的できれいなお姉さんたちの見よう見真似で、これまででは到底考えられない、1万円近くする粉(トムフォードのアイシャドウ)や、1万円を超える液体(資生堂の美容液・アルティミューン)を購入するようになった。

当初自分のアカウントは、大学のサークル(オタクばかり)でのコミュニケーション目的でやっていたのだが、卒業して社会人となってからは、自分でもコスメ関連のツイートをするようになり、気付けば遠目で見て憧れていたコスメ垢に近いものと化していた。フォロワーは5000人以上、1万人未満。最初はフォロワー3桁台の無名アカウントだったのに、パーソナルカラー診断に行ったツイートをしたところリツイート数が1万を超え、徐々にフォロワーも増えていった。

さて、コスメ垢の本分は「プレゼン」だ。いかにして、私はコスメ垢になったのか。しばしお付き合いいただきたい。

■好きなものを好きと言えるSNS

コスメ情報を発信するようになってなんだかんだ約2年が経つ。好きなものを好きと堂々と発表できる場があることは楽しい。

現実の世界では、根がオタクなこともあり、相手からコスメ好きを打ち明けられない限りは、コスメ好きを公表することはない。むしろメイクに興味がないと思われているかもしれない。それはそれで、心の中で「貴方はわからないと思うけど、実は今日シャネルの限定アイシャドウを目に纏っているんだよねー」なんて思って楽しめるので良いのだが、オタクはプレゼンをしたくなる生き物。現実では「引かれるかも」と思って言えないことを吐き出せる場が、私にとってのコスメ垢だ。勝手な憶測だけど、他のコスメ垢の方々もおそらく同じような気持ちを持っているのではないだろうか。

内輪で自分たちの好きなコスメをプレゼンし合う時間は、多幸感に包まれている。そうしたプレゼンのおかげで出会ったコスメは数知れないほどある。たとえば、エバーソフトというメイクスポンジ。これは、コスメ垢をやっていなければ、一生出会うことはなかったアイテムだ。何故なら、このスポンジはLOFTやPLAZAなどの片隅という、事前に存在を知らないと手に取れない場所にあるからである。

コスメ垢界隈で、「NARSのライトリフレクティングセッティングパウダー(通称:リフ粉)をエバーソフトでつけると一日中サラサラの肌を手に入れられる」というツイートが話題になり存在を知ったのだが、実際リフ粉との相性は非常に良く、一日中朝の状態の肌をキープすることができた。改めて、コスメ垢の皆さんには感謝しかない。

<中略>

■フォロワー数=オーディエンスの数

これはTwitterのフォロワー数が増えてから思ったことだが、フォロワー数は、オーディエンスの数だと思う。フォロワーが増えてたくさんリツイートやいいねをもらえると、承認欲求が満たされる。堂々と言うのは恥ずかしいけど、やっぱり嬉しい。自分がプレゼンしたアイテムを、実際にフォロワーが使用してくれていることを知るとなおさら嬉しくなる。

つい最近は、エリクシールのおしろいミルクという化粧下地に夢中になり、発売前からずっとプレゼンしていた。このアイテムは、乳液兼化粧下地というすぐれもので、朝起きられないズボラ人間としては非常に惹かれたし、何より化粧品会社で一番推している資生堂の商品ということも魅力的だった。発売後に、フォロワーから私のツイートを見て買ったよという報告があり、資生堂の回し者でも何でもないのだが、ただ勝手にプレゼンしていた身としては嬉しかった。

■「コスメが好き」だけで人と出会える

コスメ垢を通じて、フォロワーとコスメ好き同士でコミュニケーションが取れることも楽しい。私はこれまで3回ほど、コスメ垢を運用するフォロワーとオフ会をしたことがある。普段暮らしているだけでは出会わない、職種も年齢も違う女性と、「コスメが好き」という共通点だけで繋がれるのはとても幸せなことだ。

オフ会の内容は、GINZA SIXと銀座三越のコスメカウンターをぶらぶら見て回り、新作について各々の見解を述べ、とらや銀座店でかき氷を食べながら、美容雑誌を読みつつコスメ・美容の情報交換をするというシンプルなものであった。

「CHICCAの夏コレ、めっちゃ可愛い!」
「ルブタンのリップかっこいい!」
「資生堂の接客は最高……」

友達とコスメを見て回るときは、思いの丈を100%出して話してしまうと引かれかねないため、興奮を抑えて常識的な範囲で盛り上がることが多い。しかしそれが、同じくらいコスメへの熱量があるフォロワーとであれば別である。カウンターを友人といる時の3倍くらいの時間をかけて見て回り、お互いの推しブランドの前では立ち止まり、いかにそのブランドが良いかを語り合う。Twitterで日々している会話をそのまま現実でやっているだけなのだが、目の前にコスメがあると楽しさが断然グレードアップする。

CHICCA推しの方に、「CHICCAのイメージは透明感のある儚い女の子で、たとえばアイドルマスターの萩原雪歩みたいな感じ」と言われたときは、コスメを擬人化するという発想に、はっとさせられた。他にも、パーソナルカラーによって好きなブランドが違うとか、オフ会をして実際に会って話すと毎回発見がある(オフ会調べでは、内資のブランド=イエローベース向き、外資のブランド=ブルーベース向きの色のアイテムが多い印象がある)。

■単調な日々が充実するようになった

劇団雌猫『だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査』(柏書房)

コスメ垢を始めてから、単調な日々が充実するようになった。予定がない平日の仕事終わりはフォロワーとコスメ談議に興じることができるし、会社に行きたくない月曜の朝も、土日に買ったコスメを使おうと思うと、出社する気になった。

私にとってコスメは、コミュニケーションのツールだ。冒頭から書いてきたとおり根っからのオタクでプレゼン好きのため、好きで買っていたコスメも次第にプレゼンの道具になっていった。常に新しいコスメの情報が入ってくるので、情報を追っていると否応無しに毎月のコスメ係数が跳ね上がるのが悩みといえば悩みだ。年齢的にもそろそろ将来に向けて出費を控えたいところだが、コスメ垢の運用は当面やめられそうにない。

コスメが少しでも好きな方、ぜひご自分の好きなSNSでコスメアカウントを始めてみてください。楽しいよ! そして、オフ会は本当に盛り上がります。この文章を読んで、私が誰かピンと来る方もいるのでしょうか? いつかインターネットでおしゃべりできますように!

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劇団雌猫(げきだんめすねこ)
平成元年生まれのオタク女4人組(もぐもぐ、ひらりさ、かん、ユッケ)。2016年12月にさまざまなジャンルのオタクがお財布事情を告白する同人誌『悪友vol.1 浪費』を刊行し、ネットを中心に話題となった。2017年12月には『浪費図鑑』(小学館)として書籍化。現在は引き続き〈悪友〉シリーズを編集するかたわら、主催イベントや連載など活動を広げ、それぞれの趣味に熱く浪費している。

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(劇団雌猫 写真=iStock.com)

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