大和ハウス女性店長が最初の接客でする話
プレジデントオンライン / 2018年11月29日 15時15分
田中紗也子(たなか・さやこ)さん●仕事服はシンプルに白シャツ、セットアップのパンツスーツ、ヒールが多いです。男性が多い職場ですから、女性らしさを出すよりは、男性の担当者と同じように見えるほうがいいと思っています。ピアスもネイルもしません。
※本稿は、「プレジデントウーマン」(2018年10月号)の掲載記事を再編集したものです。
■全国でわずか2人。女性店長の底力
2006年に大和ハウス工業に新卒入社し、戸建て住宅の営業を続けてきた田中紗也子さんは、17年4月から大津プリンスホテル住宅博展示場店長を務めている。
もともと住宅や不動産の仕事は男性営業社員の多い職場だ。同社でも田中さんが入社した頃から女性の積極採用を始めているとはいえ、全国に約200カ所以上ある展示場のなかで、現在でも女性の店長はわずか2人しかいない。
パンツスーツに白シャツと、キリっとした姿。「前の上司が男性営業社員と区別なく指導してくれたので、今があります」と、堂々と話す田中さんだが、実は根っからの人見知りだという。
「普段は知らない人に話しかけるなんてとてもできません。でも、シャツとスーツを着用することで、一気に仕事モードに気持ちが切り替わるんです」
住宅購入は生涯で一番高い買い物という人がほとんどだろう。そのため、住宅展示場来場者の多くは複数の展示場を回ったり、数社に見積もりを依頼して検討する。また、2世帯で暮らす家を建てるときは、意思決定者が複数人いて、意見がまとまりにくいことも多い。さらに、依頼者が土地を持っていない場合は土地探しからスタートするため、付き合いが長期になるなど、多くの高い壁をクリアして、やっと契約にこぎつけるのだ。
■1回目の対応時に、どんな話をすべきか
来場者に自社商品を選んでほしいとき、あなたなら最初の接客時にどんな対応をするだろうか。自社の住宅の説明を余すところなくして、他社の住宅より勝る面をアピールしていくだろうか。
田中さんの場合、「『今すぐに買いたい』というお客様以外は、ほとんど打ち解けるための世間話をする」という。
「担当者に嫌悪感を持つと、他社も検討されているお客様に戻ってきていただくのは難しいんです。お客様によって、家を建てたいタイミングは違います。『今すぐ建てたほうがいい』と畳みかけ、自社の商品説明に終始してしまうのは逆効果です。まずは『住宅購入について、将来的にどうお考えですか』といった問いかけをして、お客様の状況やニーズを把握します」
■対応した客が心を開いてくれないときは
田中さんがすごいのは、こうした初回の1時間程度のやりとりのなかで、「来場者の価値観を揺さぶる」ことだ。
例えば、「ハウスメーカーより地元の工務店のほうが安い」と考えている来場者には、なぜ値段の差があるのかを説明する。イメージだけで「木の家がいい」と考えている場合は、鉄骨住宅の良さも伝える。
「ライバルを否定はしません。『その選択肢もいいですね』とお伝えしたうえで、お客様がほかの情報をお持ちでないことも多いですから、弊社の強みをお伝えしていきます」
こうすることで、「コストを抑えすぎると数十年後に建て直しが必要になることもある」「木材の場合はシロアリ対策が必要になる」など、来場者の住宅への考え方が変わっていくことも多いという。結果、比較検討するライバル会社の数が減っていくのだ。
しかし、すべての来場者が最初から田中さんに心を開いているとは限らない。来場者には最初に家づくりなどについてのアンケートに答えてもらうが、それに名前も書かないくらいガードが固いタイプもいる。
「そんなときには、私自身の話をすると、だんだんと打ち解けてくださることもあります。まずは1時間だけでも話をしてみます」
とはいえ、田中さんはどの来場者に対しても同じように時間をかけているわけではないという。
「お客様の住宅に対する価値観によっては、そもそも弊社の考え方と違う方もいらっしゃいます。そうした場合は、お時間をとらせないように初回でその旨をお伝えします」
■最も大事なのは、引き渡し後のお付き合い
繰り返し商談を重ね、晴れて契約・住宅が出来上がっても、そこで終わりではないのだと田中さん。
「本当のゴールは、周囲に紹介してもいいと思えるぐらいご満足いただくことなんです。弊社の戸建て住宅を選ばれて何度も建て替えるお客様はほぼおりません。しかし、ご満足いただいているお客様は、新たなお客様をご紹介くださるのです」
「住宅に満足している。そしてこの担当者なら自分の大切な友人を紹介できる」。顧客にそう思ってもらえるからこそ、次の契約に結び付く。
若い部下は、日々の対応に追われ、契約後のフォローが十分にできず、お客様を怒らせてしまうこともある。そうしたときに、田中さんはその後のお付き合いの重要性を説くのだという。
「ストレスを抱えたときに、むしろお客様のところに行って話を聞いていただくこともあります。住宅販売は長いお付き合いなので、お客様側が親身になってくださる。それで元気をいただいているんですよ」
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(1)魔法の言葉は?
なにかをしていただいたときに、恐縮して「すみません」ではなく、「○○していただいて嬉しい」と喜びの言葉を伝えます。失敗してしまったときには、すぐに伺って謝ります。次の提案を考えてからと思いがちですが、連絡をとらない時間は、お客様を不安にさせるだけです。
(2)必携のGOODSは?
契約時、お客様に書類にサインをしていただくためだけに使っているペンです。間取りのご相談などをする際には、何度も書き直すことが多いので、消せるタイプのペンも必携です。
(3)ストレス解消法は?
車移動が多いので、運転や車内で過ごすことがリフレッシュになります。とはいえ、一番のストレス解消は契約がとれること(笑)。もしなにか嫌なことがあっても、睡眠をしっかりとって仕事を重ねていけば忘れます。
(4)学ぶときには?
弊社会長の樋口武男の『熱湯経営』『先の先を読め』は、会社の精神を学び、成果が出ないときに読み返した、社会人としての道しるべです。キャリアを重ねていくうえで参考にしたのは、海老原嗣生さんの『女子のキャリア』。店長になってからは原晋監督の『人を育て 組織を鍛え 成功を呼び込む 勝利への哲学157』。リーダー像を模索していたときに読みました。
![](https://president.jp/mwimgs/7/b/-/img_7bd63e66565fbcc306a1a80e4e2fa07d341578.jpg)
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(干川 美奈子 撮影=佐伯慎亮)
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