日本経済はそろそろ"衝撃"に備える時期だ
プレジデントオンライン / 2018年11月22日 9時15分
■なぜ経営者に「景気後退の衝撃に備えよ」と話すのか
最近、私は経営者向けの講演などで、「景気後退の衝撃に備えよ」というお話をします。今の時期、次年度の経営計画を策定する企業も多いですが、これまでと同じ前提で経営計画を立てないほうがいい、とニュアンスを込めてお話ししています。
現状の日本経済は、成長率がそれほど高くないので実感はともなわないかもしれませんが、戦後2番目の長さの景気拡大期にあります。12年12月以降、「そこそこ良い」状態が続いているのです。19年1月まで続けば6年2カ月となり、戦後最長記録を更新します。
しかし、景気指標を見る限りは、そろそろ景気拡大期も終わりで、景気後退がやってくると考えられます。ちなみに、戦後最長の景気拡大は2002年から2008年にかけての6年1カ月で、その後「リーマンショック」がやってきました。
■「キャッシュ(現預金)残高を普段より多めに積んだほうがいい」
私は経営コンサルタントですから、経営者の皆さんに経済環境の変化に備えてもらうことも、大切な仕事です。10年前のリーマンショック時ほどの落ち込みはないと思いますが、これまでの好景気を前提とした設備投資計画や人員計画を立てないこととともに、資金ポジションがそれほど良くない企業は、キャッシュ(現預金)残高を普段より多めに積んだほうがいいと考えています。
私が、そろそろ衝撃に備えたほうがいいという理由は大きく分けて2つあります。
ひとつは、現状の日本の景気指標から判断するに「国内景気は決して強くない」こと。もうひとつは、アメリカの中間選挙の結果により、「トランプ大統領の対中国姿勢はさらに強化され、それが日本経済にも悪影響を及ぼす」ということです。
■日本の景気はピークアウトしている可能性がある
まずは、日本経済の状況を見てみましょう。
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11月14日に7-9月期のGDP(国内総生産)速報値が発表されました。多くのエコノミストの予想通り、実質で年率1.2%のマイナスとなりました。7-9月は豪雨や台風、そして地震災害などが相次ぎ、一時的なマイナスという見方も多いのですが、実は、今年の1-3月もマイナス成長でした。4-6月はプラスの成長だったので景気後退とはなりませんでしたが、一進一退という状況です。
2四半期連続で実質GDP(インフレやデフレを調整後のGDP)がマイナスとなると、一般的には景気後退と判断されるので、今のところは景気後退ではないのですが、黄色信号がともっていることは間違いありません。
「街角景気(景気ウォッチャー調査)」の数字も強くはありません。これは、全国の小売店の販売員やタクシー運転手、ホテルのフロントマンなど、景気の動向を直接肌で感じている人たちに内閣府が聞き取り調査をしているものです。
「50」が基準で、それより上ならば景気がいい、下ならば悪いと感じている人が多いことを示しています。2018年に入ってから、毎月ずっと「50」を下回る水準が続いています。7月は「46.6」、8月は「48.7」、9月は「48.6」となっています。
さらには、GDPの5割強を支える個人消費も弱い数字が目立ちます。総務省が発表する家計調査の「消費支出2人以上世帯」によれば、2018年に入ってから前年比でマイナスが目立っており、消費意欲は弱いと言わざるを得ません。結果が発表されている9カ月分のうち、6カ月分で前年を下回っています。
■景気が弱まる中、来年10月に消費税増税
そして、忘れてはいけないのが、来年10月の消費税の増税です。それほど景気が強くなく、中国経済も厳しさを増す状況で、消費税が2%上がるのです。
前回(2014年4月)の増税時には、先ほど述べた家計の支出が3年連続で実質マイナスとなりました。ですから2度目の消費税率上げは、2度も延期になったわけです。政府は、消費増税の衝撃を和らげるべく、キャッシュレスに対応した中小企業には割引を適用するなどの策を講じようとしていますが、もし、景気後退期に税率上げを強行すれば、景気はますます悪化する可能性があります。
東京オリンピック前なので景気が浮揚すると考えている人もいるかもしれませんが、規模が近いロンドンオリンピック(2012年)の前は3四半期連続で英国はマイナス成長でした。経済規模がそこそこ大きい国では、オリンピックが経済に及ぼす影響はあまり大きくないのです。
そして、アメリカの中間選挙の結果を考えると、中国の景気がさらに鈍化することが考えられ、これが日本経済にも少なからぬインパクトを与えると考えられるのです。
■アメリカ中間選挙で中国経済はさらに減速する
アメリカの中間選挙で、上院はトランプ政権の与党共和党、下院は野党民主党が過半数となりました。トランプ大統領は「大勝利」と発言しましたが、上院と下院でねじれがおこり、議会政権運営がこれまで以上に厳しくなることは間違いありません。
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ロシア疑惑などの成り行き次第では、下院で大統領の弾劾決議が起こされ、それが上院で否決されるという事態も起こるでしょう。
最も懸念されるのは、予算についてです。大統領ののぞむ政策の予算が議会通過で難航することがこれまで以上に多くなることが考えられ、そうなるとメキシコ国境との間の「壁」建設やその他の公約にも大きな影響が出る可能性があります。
一方、トランプ大統領としては、次の焦点は2020年の大統領選挙での再選ということになります。その中で、予算を含めた議会運営がより難しくなるわけですから、外交に大統領支持の基盤をこれまで以上に求めると考えられます。議会対策が難しい内政よりも、予算のかからない外交でのポイント稼ぎが顕著になると考えられるのです。
その際、最も影響を受けるのは中国でしょう。貿易摩擦問題で強硬姿勢を貫くトランプ政権ですが、こちらはアメリカにとって勝ち目が大きく、国民にアピールしやすいからです。
中国からアメリカへの輸出は約5000億ドル、アメリカから中国へは1300億ドルほどです。その差額約3700億ドルが、アメリカから見た貿易赤字ですが、これはアメリカ全体の貿易赤字額の約半分です。
トランプ政権は中国からの貿易品目に10%~20%の関税をかけ、中国もそれに対して報復関税で応じていますが、アメリカから見て3700億ドルの貿易赤字があるということは、それだけの差額があるということですから、早晩、中国は報復関税をかけることができなくなります。中国経済は減速傾向を強めていますが、トランプ政権が強硬姿勢を崩さなければ、経済の輸出依存度が高い中国経済はますます減速する可能性があるのです。
余談ですが、トランプ政権は、貿易問題を解決するだけでなく、中国の国力を弱めることを視野に入れていると私は考えています。つまり、アメリカとしてはできるだけ長く米ドルの「基軸通貨」の地位を維持するためにも、そして、軍事的な覇権を維持するためにも、最も警戒しなければいけない「敵」は中国です。
■中国経済に大きく依存する日本の「末路」
アメリカが膨大な貿易赤字を抱えながらも、米ドルが暴落しないのは、世界中の国々が貿易決済のためなどに基軸通貨である米ドルを求めるからです。中国は将来その地位を脅かす可能性があるのです。その中国の力を今のうちに弱めておく良い方法が、関税をかけて、その国力を弱めることなのです。
もちろん、関税をかけあうことはアメリカ経済にも悪影響が出ます。「身を切らせて骨を切る」という政策にも見えます。いずれにしても、アメリカと並ぶ大きな貿易相手地域であるEUも景気が減速しており、中国経済は減速をまぬかれないでしょう。
そうなると、中国経済に大きく依存している日本経済や東南アジア経済も影響を受けざるをえないと私は考えています。中国人による不動産投資や、中国からの訪日客の消費にも影響が出ることが懸念されます。
いずれにしても、今の経済の調子が続くと考えずに、企業は慎重な経営計画を立てることが必要な時期だと思います。これは人生も同じですね。ときに慎重になることも大切です。
(経営コンサルタント 小宮 一慶 写真=iStock.com)
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