できない人を"後回し"にすると伸びる理由
プレジデントオンライン / 2018年11月27日 9時15分
※本稿は、鈴木颯人『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』(KADOKAWA)を再編集したものです。
■興味のない部下に結果を出させるのは無理
人と向き合っていると、思うように結果が出ず、イライラすることがあるかと思います。しかし、早急に結果を求めても意味がありません。結果が出ない要因を探っていくことが大切です。
そもそも人には、さまざまな欲求があります。中でもポイントとなるのが、「所属と愛の欲求」と「承認欲求」を満たすことです。「マズローの欲求5段階説」について耳にしたことのある人もいるのではないでしょうか。
これは、人間の欲求が5段階に分かれていることを伝えるもので、この中でリーダーが意識すべきは、「所属と愛の欲求」と「承認欲求」です。というのも、「安全の欲求」と「生理的欲求」は、日本という国柄、それほど脅かされることはないからです。
■承認欲求をまず満たす
一方、「所属と愛の欲求」は、その組織に自分が属していることを誇りに思ったり、組織の仲間から愛されているといった感覚を求めたりするもので、「承認欲求」は、一人の人間として認められる感覚を求めるものです。
この「所属と愛の欲求」と「承認欲求」が満たされると、人は、自然と一番上の「自己実現の欲求」を満たすよう努力します。よりいっそうその人らしく努力できるようになり、パフォーマンスも出しやすくなります。
ところが多くのリーダーは、「所属と愛の欲求」と「承認欲求」を満たすことなく「結果」を求めようとするのです。これでは、二段飛ばしにいきなり「自己実現の欲求」を求めるようなもの。「私はあなたに興味はないけど、とにかく頑張ってね」と言い放っているのと同じです。メンバーから不満が噴出しても不思議ではありません。
そうではなく、まずはリーダーが先の2つの欲求を満たしたうえで、メンバーを認める姿勢を見せること。その先に、自己実現と結果が見えてきます。
■気まずいチームをガラリと変える方法
ある大学の女子サッカーチームのコーチングで、まさにこの「所属と愛の欲求」を満たすところからスタートしたことがあります。女性が集団になると、たいていその中に小さなグループができます。私がコーチングをしたチームも、仲良しのメンバー同士が固まって小さなグループを形成していました。
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チームの方針を話し合うミーティングでは、グループ同士遠慮して、当たりさわりのない意見しか出ていない状況。メンバー同士の仲が深まっておらず、全体で「一つのサッカーチームである」という意識を持てていなかったのです。私は、ここがチームとしてもう一歩、結果を出せていない原因だと考えました。
そこで、あるゲームを行ないました。それは、「感謝の気持ちを伝え合うゲーム」です。まず全体を2グループに分け、それぞれ1列に並び、向き合ってもらいます。そして順番に、向き合った相手に対して「感謝の言葉」を伝えていきます。1分たったら1人ずつずれて、次の人にまた同じように感謝の言葉を伝えます。
このゲームを行なった後、目に見えて、お互いの心理的な壁が崩れていくのがわかりました。さらに、最初は嫌々やっていた人も、だんだんと表情が緩んでいきました。いつの間にかお互いの心理的な壁が取り除かれた結果、少しずつプレーについて意見をかわせるようになりました。
■結果を求める前に相手を認める
その背景に、自分が「メンバーの一員として認められている」という承認欲求が満たされたことで安心感が生じたという点があるのは、言うまでもありません。すでにこの女子サッカーチームは前年度のチャンピオンチームでしたが、より一体感を増したことで、2連覇することに成功しました。
チームの雰囲気が良くない場合は、「所属と愛の欲求」、そして「承認欲求」が満たされていない可能性があります。まずはこの課題をクリアするために、今お伝えしたようなゲームをしてチームとして雰囲気をつくったり、リーダー自身が率先してメンバーに感謝の言葉を伝えたりすると、空気が変わり始めます。
結果を出してほしいのなら、まず相手に与えることが大切です。二流のリーダーはすぐに相手に結果を求めますが、一流のリーダーはまず相手を認めるのです。
■やる気のない部下を秘密兵器にできるか
リーダーがいろいろと心を尽くしても、中にはまったく変化を見せないメンバーがいるものです。残念ですが、これは自然の流れと言えます。「2:6:2の法則」というのを耳にしたことがあるでしょうか。働き者のイメージの強い働きアリの集団でさえ、よく働くアリは2割のみ。残りの6割は普通に働き、残りの2割はろくに働かずフラフラしているというものです。
組織でも同様に、この法則が当てはまります。つまり上位2割の人はよく働き、中位6割の人は普通に働き、下位2割の人は能力を発揮せず組織全体の足を引っ張っているというものです。仮にリストラなどして下位2割の人を取り除いたとしても、上位と中位にいたはずの8割から、下位に転落する人材が自然発生的に生まれてしまうというから驚きです。
■「不真面目な役割を演じている」と考える
私がチーム向けに行なうコーチングでも、どうしても不真面目な選手が一定数いるものです。そんなときはいつも、心の中でこう思うようにしています。「彼らは今、不真面目な役割を演じてくれているだけ」「彼らが能力を発揮する場所は“今”ないだけで、ゆくゆくは“秘密兵器”として活躍をしてくれるはずだ」と。
実際には、悠長にかまえていられないリーダーがほとんどだと思いますが、それでも能力発揮を待つのは、「下位2割」の人たちがチームを救った経験があるからです。
ある大学のバレーボール部に所属するSさんは、いつも気だるそうにしていました。チームが全国大会に向けてまとまろうとしているときも、自分はスタメンではないからと、協力的ではありません。そういうメンバーがほかにも何人かいました。かといって私も、彼らのフォローだけをしているわけにはいきません。当時、そのチームには40人もの部員がいましたから、全員に均等に、100%の力を注ぐことは不可能です。
そこで私は、やる気を失いがちな下位2割のメンバーを除く、優秀な上位2割と、どっちつかずの中位6割の選手たちに全力を傾けることにしました。なぜあえて下位2割のメンバーと距離を置いたのかというと、彼らは、“あるコツ”を使えば力を発揮することがわかっていたからです。
コツは簡単なことです。まずは距離を置いて、彼らのほうから行動を起こしてくるのを待ちます。そして、どんなささいなことでもいいので、こちらに声をかけてきたら、すかさずその発言を惜しみなく褒めます。最初に紹介した、「承認欲求」と「所属と愛の欲求」を満たしてあげるのです。
実際、そのように「承認欲求」と「所属と愛の欲求」を満たしたことで居場所を見つけたSさんをはじめとする下位2割の人たちは、そこから積極的に行動するようになり、次第に結果を残すようになりました。中にはピンチサーバーとして試合に出場し、チームの劣勢をはねのけるようになったメンバーもいます。
■ためらわずに「優先順位」をつける
このように、一見意識が低い人間だと思われがちな下位2割の人間も、リーダーのちょっとした対応次第で大化けさせることができます。逆にいえば、リーダーが少しでも対応を誤れば、下位2割のメンバーはますますやる気をなくし、下手をすれば腐ってしまうでしょう。下位2割のメンバーのモチベーションを引き出せてこそ、チーム全体の成果やパフォーマンスの底上げができる。それが本来のリーダーの仕事であるはずです。
二流のリーダーは全員平等に接しようとして疲弊するものですが、一流のリーダーは接するメンバーに優先順位をつけるのをためらいません。そして優先順位をつけつつも、モチベーションを引き出しにくいメンバーを切り捨てることなく、正しいタイミングで正しい対応をするのです。
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スポーツメンタルコーチ
1983年、イギリス生まれの東京育ち。Re‐Departure合同会社代表社員。サッカー、水泳、柔道、サーフィン、競輪、卓球など、競技・プロアマ・有名無名を問わず、多くのアスリートのモチベーションを引き出すコーチングを行っている。
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(スポーツメンタルコーチ 鈴木 颯人)
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