オバマも実践"予定の2択ルール"の始め方
プレジデントオンライン / 2018年11月26日 9時15分
※本稿は、Daigo『先延ばしする人は早死にする!』(世界文化社)の一部を再編集したものです。
■先延ばしグセは1日で約3000円、年間106万円の損失
「報告書を書かなければ」と思っていても、つい別の仕事を優先して締め切りギリギリになったり、健康診断の受診を延期したり……。
日常的によくあることなので特別に思わないかもしれませんが、こうした「先延ばし」を常習的にしていると、失業やお金を失うリスク、はては、健康悪化のリスクにまで及ぶことがわかってきました。
では、いったいどれぐらいの時間やお金をムダにしているのでしょうか。
アメリカのインターネットサービス会社AOLとサラリーマンドットコムが、1万人以上の労働者に労働習慣に関する調査を行ったところ一般的な労働者は1日8時間の労働のうちの約2時間(昼休みや休憩時間は別)、つまり労働時間の4分の1を先延ばしによってムダにしているという結果が出ました。それによると、1年間にムダにしている金額は最低約9724ドル(1ドル=109円として約106万円)、1日に約3000円も損失することになるというのです。
■先延ばしグセはキャリアの喪失や失業につながる
年間に最低でも100万円以上を失うと考えだけでもゾっとしますが、さらに続きがあります。
カルガリー大学の研究によると、すぐやる人と先延ばし常習者のキャリアを比較した場合、先延ばし常習者は出世が総じて遅く、給料の低下、正社員から契約社員といった不本意な雇用形態の変更、さらには失業、失職になるケースが多くなることが判明したのです。
ビジネスはトライ&エラーによって成長していきますが、先延ばしをする人はぐずぐずしているうちに「時間切れ」になってしまいます。逆にすぐやる人は、もし、トライが失敗だったとしてもそれを取り戻すための余裕があり、挽回のためのチャンスが生まれます。ですから、仕事での成功率や経験が増え、先延ばしをする人より仕事上の信頼や優位なキャリアを築くことができます。
先延ばしが仕事だけでなく人生そのものに関わるといわれる所以は、この大きなデメリット、「時間のムダ遣い」にあるからなのです。
■全人類の95%が先延ばしグセをもっているワケ
もちろん、皆さんも「先延ばしグセはマズいから治さなきゃ」と一度は思ったことがあるでしょう。ところが、なかなか克服できないことが多いはず。それには理由があります。
そもそも人間の脳は基本的に怠けものにできています。脳にとって、もっとも大切なのは「生命の維持、生存をすること」。そのために「危険」「不安」「変化」を嫌い、「安心」「安全」「安定」を第一に追及するからです。たとえ「今すぐ新しいことに手をつけなきゃ」と思っても、それが生存を脅かす可能性があると捉えて脳が不安になり、「やめとこうよ」と拒絶反応を起こしてしまうのです。
カナダ・カルガリー大学ビジネススクールのピアーズ・スティール教授が過去40年にわたって分析したところ、実に全人類の95%の人が「自分に甘く、仕事や作業で何らかの先延ばしをする」ことが明らかになりました。つまり、先延ばしグセは、年齢、性別に関係なく、人類共通の習慣病といえるのです。
■脳の処理能力はコントロールすることができる
とはいえ、「じゃあ、先延ばしは仕方がないよね」とはいきません。
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先延ばしの克服には、人間の脳の処理能力「マルチタスク」と「シングルタスク(モノタスク)」を把握することです。
マルチタスクとは「AとBの両方に同時に取り組む」、つまり複数の作業を同時進行で処理していくことです。一方、シングルタスクは単純作業で処理すること。
人間の脳は優秀ですが、実はタスク処理に関してはマルチタスクが非常に苦手です。例えば、目の前に締め切りが近いやりかけの仕事があっても、つい、今夜はパーッと飲みに行っちゃおう――、ということはありますよね。しかし、いざ飲みに行くとイマイチ盛り上がれない。
これは人がやり遂げたタスクよりも、未完のタスクのほうをより強く覚えているからです。これを「ツァイガルニク効果」と呼びます。成功した体験より失敗したときのこと――、例えば、両思いでつき合った恋よりも成就しなかった恋のほうが鮮明な記憶なのと同じです。
未完のAを先延ばしにしてBをやるとき、未完のAが「気がかり」になって脳の片隅に残る。すると、自分ではBだけに集中しているシングルタスクだと思っていても、脳は無意識のうちにAとBの両方に同時に向き合うことになり、脳に大きな負荷がかかってしまいます。この脳への負荷が「先延ばしのリスク」につながるのです。
逆にいえば、脳に負荷をかけないコツさえわかれば先延ばしグセをなくすことができます。
■「すぐやる」=「全部やる」は大きな勘違い
「先延ばしをやめて、すぐにやる」というと、多くの人が勘違いをするのが「なんでもかんでもすぐにやらなければ」と思うことです。
![](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/7/-/img_c725763a095bcbf558c0c5c375d745cc171261.jpg)
ですがそれは大間違いです。そもそも、毎日やるべきことがたくさんある現代人には、全部「すぐにやる」ことは不可能ですから。
人間の脳はシングルタスクが得意と述べましたが、そもそも脳は優先順位をつけることが大の苦手です。全部やらなければと思っているうちに、結局、全部やらないというのが失敗の王道パターンです。
ならば、多くのやらなければならないこと(タスク)があるのであれば、自分を取り囲む絶対数を減らせばいいのです。
■オバマ前大統領も実践、2択ルールで考える
脳はいくつものタスクを同時にやるより「ひとつずつ集中してこなす」ほうが得意といいましたが、このことに特化して実践をしたのが、アメリカのオバマ前大統領です。
オバマ前大統領は毎晩、寝る前に翌日以降の計画を立てる時間をつくっていました。そこで「明日やること」「やらなくていいこと」「明日でなくていいことをやる日」だけを決めて、事前に予定をフィックスしていたそうです。
脳にいちばん負担をかけるのは行動ではなく決断です。「やるかやらないかどうしよう」なんていつまでも考えて、決められずに「先延ばし」にしておく。あとになってまた「どうしよう」と考える――こういう脳の使い方がいちばん疲れます。
ならば、「やる」「やらない」の二択でバシッと決めてしまえば、それだけ脳の負担は減ることになります。
■脳に負担をかけるのは行動ではなく決断
先延ばしが発生する多くの場合、やること全般に対して約8割が「先延ばし」、1割が「すぐやる」、1割が「やらない」という割合になるのが一般的だと思います(図1)。
そして、すぐやろうとして多くの人が勘違いするのは図2のように、やること全般に対して先延ばしをなくし、9割が「すぐやる」、1割が「やらない」、ほぼ全部「すぐやるべき」と考えてしまうことにあります。よくある『すぐやる人が成功する――』的な本でも、この割合を目指しているものが多くあります。しかし、こんなのは無理でしょう。
私が推奨するのは、図表のような比率です。
![](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/4/-/img_c4d1e02bd3889288df26c7bf96aa48b7239870.jpg)
2.先延ばしの多くを「やらなくていいこと」と決断し「やらない」の割合を大きく増やす
3.人生が変わる大きな決断や、慎重な判断を必須とするものなど、一部の「戦略的先延ばし」については先延ばしを優先する
そして、やらないと決めたらそのことはもう考えなくていい。「やらない」の割合が大きいので、やるべきことが絞られ脳はそこに集中できるのです。
逆に、やると決めたことはなるべく「小分け」にして具体的にイメージしてください。
例えば、大掃除をしなければならないとします。家中の掃除となると「面倒くさい、あとでいいや」となりますが、「リビングの窓ふき」「寝室に掃除機」「お風呂場のカビとり」など小分けにします。すると曖昧で膨大な「やるべきこと」が具体的になり、取りかかる順番や日にちなどがイメージできてすぐに取りかかれるのです。
このようにやるか、やらないかを決めることで選択と集中をすると、結果として取り組むための仕事の質と結果を出すことにつながるのです。
■先延ばしをしている心配事の80%は杞憂
とはいえ、完全に「やらない」という決断は勇気がいります。
多くの人が考えることは「もしやらなかったら、あとで困るのではないか――」だと思います。しかし先延ばしできる多くのことは、ほとんどやらなくても困らないものです。
こんな研究があります。アメリカ・ミシガン大学の調査によると、心配事の80%は起こらないことが判明しています。残りの20%のうちの80%は「あらかじめ準備しておけば解決できること」で、しかも最後の残りの4%は『実際にそのときにならないと手の打ちようのない事象』ということもわかっています。
この4%はほぼ不可抗力の事態。自分だけでなく誰もが準備のしようがないのですから、最初からそれを心配したところで意味がありません。
つまり、決断をする前に「もし何かあったらどうしよう」などとネガティブに考えているのは、ほとんど心配する必要のない“取り越し苦労”に気をもんでいるようなものです。
まずは、脳のマルチタスク化をやめて、「やるか」「やらないか」の二択に絞り、「やる」と決めたら小分けに分けて具体的にイメージしてみましょう。
これだけで、先延ばしグセを克服する第一歩が踏み出せるはずです。
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メンタリスト
ジェネシスヘルスケア株式会社顧問。新潟リハビリテーション大学特任教授。慶應義塾大学理工学部物理情報工学科卒業。幅広いジャンルで人間心理をテーマにした著書は累計200万部を超える。
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(メンタリスト DaiGo 写真=iStock.com)
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