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ゾゾ前澤"世界中からアートを集めるわけ"

プレジデントオンライン / 2018年11月24日 11時15分

秋元雄史・東京芸術大学教授(左)と前澤友作・ZOZO社長(右)。前澤社長の私邸にて。(撮影=宇佐美雅浩)

2017年5月、米国人画家バスキアの絵画作品がニューヨークで競売にかけられ、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を運営するゾゾの前澤友作社長が落札した。前澤氏は世界有数のアートコレクターだが、「好きなものを買って、みんなと共有して楽しんでいるだけ」という。その独特のコレクション哲学とは何なのか。東京芸術大学大学美術館の秋元雄史館長が聞いた――。

■バスキアを123億円で落札

【秋元】昨年サザビーズで落札されたバスキアは、123億円とうかがっています。飛び上がるような金額ですが、前澤さんは、あのバスキアの絵にはそれだけの価値があると認めた。バスキアに限らず美術品の価値は、金額とリンクしているとお考えでしょうか。

【前澤】はい。美術品のコレクターであれば、みなさんそうおっしゃるとおもいますよ。作品単体でみても素晴らしい作品は人気があって高く、そこに歴史や伝来などが加わればなおさらです。また、入手しにくければそれも値段が上がる要因になります。結局、価値のある美術品は、それに見合うだけの値段がつけられるのです。

【秋元】お金は美術品の正当な価値の指標であるというわけですね。

【前澤】それも、かなり洗練された指標になっています。資本主義社会では、なんでもそうではないですか。あらゆるモノやサービスの価値を表すのに最も適しているのは、やはりお金です。そういう意味では、お金というものは、本当にうまくできています。

ただし、モノが介在しなかったりレバレッジを利かせたりする金融資本主義的な世界は、やはり少しどこか狂っています。その世界に関して僕はあまり好きではありません。実体を伴わず、ただ“お金がすべて”という価値観は変えていきたいですね。

【秋元】美術の世界には、作品を投資対象としてみる金融資本主義社会の住人には、入ってきてほしくないですか。

【前澤】僕にはそれに関していう権利はありません。ただ、作品を買っても倉庫から一度も出さず、10年くらい経って市場価値が高まった頃に売却して「3億円儲かりました」などと言うのは、アートへの理解もなければアーティストへの敬意も欠けていると思う。僕自身はそうなりたくないと思っています。

■アートは世界中の人と共有すべき

【秋元】バブルのころ、ゴッホの絵を手に入れたある日本の経営者が「自分が死んだらこの絵も棺桶に入れて一緒に焼いてくれ」と発言して物議を醸したことがありました。コレクターのひとりとしてそういった感情は理解できますか。

【前澤】とんでもない。購入した作品は自分のものというより、受け継がれていくべき人類の財産を一時期だけ所有させてもらっているというイメージです。だから、とてもそんなことはできないし、そうしたいとも思いません。素晴らしいアートは世界中の人と共有すべきです。アートにはコミュニケーションを促進し、みんなを笑顔にする力があります。僕はそんなアートの素晴らしさを多くの人に伝えていきたいのです。

【秋元】前澤さんは今年、フランス芸術文化勲章「オフィシエ」を受章されました。まさにそういった活動が認められたということですね。

【前澤】そんな大層なものを、僕なんかがもらってしまっていいのかなっていうのが率直な感想です。でも、まあ、ほめられて悪い気はしませんけどね(笑)

【秋元】文化大国のフランスに比べ、日本の文化に対する成熟度はどうですか。

【前澤】日本人は、美術品を鑑賞するのは好きで、見る目もあると思います。ただ、所有や保管という点では、残念ながらあまり意識が高いとはいえません。実際、すごく価値のある骨董品が、蔵の隅でほこりをかぶっていたり、先祖代々受け継がれてきた貴重品を、保管が面倒だからと二束三文で売り飛ばしたりしてしまう。そのおかげで、巡り巡って僕のところに来たりするのでしょうけど(笑)。

欧米では、歴史的なものを後世に残すことに、国を挙げて取り組んでいますが、日本は、その点ではかなり遅れています。芸術文化に割く国や自治体の予算も少ないし、公益財団法人一つ簡単にはつくれない、相続するにも税金が高い。いいものがどんどん国外に流出してしまうのも仕方ない気がします。

「北大路魯山人 蟹絵皿」を手に持つ前澤社長。(撮影=宇佐美雅浩)

■アートをビジネスにする予定はない

【秋元】日ごろから、競争するより協調する社会にしたいと発言されています。今、世界は競争を強める方向に進んでいるような気がしています。どうすれば人々がもっと協調し合える社会になると思われますか。

【前澤】競争が強くなっていますか? 僕には社会全体が協調に向かっているようにみえますが。たしかに会社同士は競争しているのでしょうけど、でも、その会社も減っていくのではないですか。中途半端な会社はなくなり、本当に必要とされる会社だけが残る、自然とそうなると思いますよ。

【秋元】これから起業しようという若者の手本に、自分がなっているという自覚はありますか。

【前澤】ないです。僕なんかより素晴らしい経営者がたくさんいるので、そういった人たちをぜひ参考にしてください。

【秋元】今後、アートをビジネスにしていく予定はありますか。

【前澤】それはありません。ただ、自分でつくってみたいという気持ちはあります。特に陶芸をやってみたいですね。

【秋元】絵はどうですか。

【前澤】絵はダメですね。絵心がないのです。ドラえもんとか描かせたらひどいですよ(笑)。

■億を超える金額でポップアートを購入

【秋元】美術品のコレクションを始めたきっかけを教えてください。

【前澤】10年ほど前に、会社の空いている壁に掛けようと、ロイ・リキテンスタイン(アメリカのポップアートの代表的作家)の結構大きめのペインティングを購入してからですね。それまでシルクスクリーンやポスターのようなものはいろいろ買ってはいたのですが、いわゆる本格的なペインティングというのはそれが最初です。

【秋元】10年前のリキテンスタインというと、すでにかなりの金額だったのではないですか。

【前澤】そうですね、億は超えていましたね。

【秋元】コレクションの入り口というと、一般的には印象派や日本画だと思うのですが、リキテンスタインというアメリカの現代アート(20世紀以降の美術)を選んだのは、どういう理由からですか。

【前澤】近代絵画というものに当時は、あまり興味がありませんでした。ピカソやゴッホであれば知っていましたけれども、その頃はまだどれを観ても一緒だなという印象であまり惹かれなかった。その点、現代アートはものすごく個性的なものが多いではないですか。

【秋元】強い個性に魅力を感じたということですね。

【前澤】それに、社内に飾るのが目的だったので、作品単体でどうというより、会社の内装や社員のファッションなども考慮して、その中で最も合うものがリキテンスタインだったのです。

【秋元】単なる会社のインテリアだったはずのものが、それにとどまらずどんどんエスカレートしていったということですね。

【前澤】たしかに、初めは、壁をアートで埋められればいいという程度の意識しかありませんでした。でも、引っ越して広くなると壁の数も増えるし、季節や内装が変わればそれに合わせてアートも取り換えたくなりますよね。

それで、そのたびに好きな作品を探して買い足していくと、自然と数が増えてしまった。最初からコレクションしようと思って始めたわけでないですし、今も自分ではコレクターだという意識もないんです。

前澤社長の私邸には著名な現代アート作品が並べられている。(撮影=宇佐美雅浩)

■アートを盛り上げるパトロンという存在

【秋元】子どものころから、クワガタやキン消し(キン肉マン消しゴム)などを集めるのが好きだったようですから、やはり集めること自体が好きなのでしょう。ただ、一点一点吟味して自分の気に入った作品を購入しているところをみると、単に収集欲を満たすためだけではなく、むしろ、もっと知りたいという知識欲のほうが強いような気がします。

【前澤】それはあるのかもしれませんね。好きな作品だとそれをどんな人が制作したのかを知りたくなりますし、その作家を知ればその作家の作品の中で一番いいものがほしくなります。ミュージシャンと一緒ですよ。このアーティストがいいとなれば、自分にとってマスターピース(傑作)を探したくなります。ジャン=ミッシェル・バスキア(ハイチ系アメリカ人の画家。88年27歳で死去)も、ものすごくたくさん観ましたけど、2017年5月に購入したブルーの作品(「無題」)こそが、僕にとってまさにマスターピースだったんです。

【秋元】よくわかります。間違いなくあの絵はバスキアのトップクラスの作品です。直島のアートプロジェクトや国吉康雄のコレクションで知られるベネッセが、やはり90年頃にバスキアの2メートルを越える作品を購入していますが、1988年に亡くなっていますが、それから間がない2年後に、すでに2億円近い値段で取引されています。それから30年弱で61倍です。あれだけの金額で買った勇気には心底敬服します。

【前澤】ありがとうございます。

【秋元】これにより美術界の人間はみな前澤さんという存在に一気に注目しました。どれくらいのコレクションをもっているのかとか、どういう考えで美術品を集めているのかというのはもちろんですが、それだけではありません。美術史をみると、どの時代にも芸術を理解し、芸術家を支援し後援するパトロンがいて、大きな役割を果たしてきました。日本だと岡山県の大実業家である大原孫三郎さんやベネッセ創業者の福武總一郎さんがそうです。今後は前澤さんもパトロンとして美術界の発展に力を貸してくれるのではないかと、期待の目でみているのです。

【前澤】自分ではそんなたいそうな意識はないんですよね。申し訳ないです(笑)。アートだけを取り出して美学・美術史的に評価するようなことは得意ではないですし、文化の啓蒙だとか、社会のためなどといった大義名分が伴うような文化活動にも、あまり興味がないのです。

【秋元】私が15年間一緒に美術をやってきたベネッセの福武さんも、前澤さんと似ている点がありました。彼も、自分は慈善活動でやっているのではないとよくいっていました。他のコレクターと比べてどうのこうのというのもなかった。彼にとってコレクションは、自分の哲学の反映だったのだと思います。私は前澤さんに、美術界を応援してくれとはいいません。ただ、前澤さんの思想や哲学が前面に出るような関わり方を、今後も美術を通してしていってほしいと、切に願っています。

【前澤】がんばります(笑)。

友人と一緒にときどき「ぐい呑み」会を楽しむ。一口で「ちょっとした高級外車が買える金額」だという。(撮影=宇佐美雅浩)

■アーティストってみんな変人ですから

【秋元】前澤さんはもともとミュージシャンで、バンド活動もされていました。それとアートのコレクションとは何か関係がありますか。

【前澤】特別に意識するようなことはないですね。しいて言うなら、アートも音楽も、そしてビジネスも、好きなことを徹底して突き詰めている、という点でしょうか。

【秋元】では、美術作品と向き合うときの気持ちのありようは、どんな感じなのでしょう。

【前澤】作品によっても違うし、日によっても違うと思いますよ。

【秋元】でも、気に入った作品の作家は追いかけるのですよね。いまだと誰ですか。

【前澤】アメリカでいえば、ロサンゼルスのマーク・グローチャンやジョナス・ウッドとか、最近だとマーク・ブラッドフォードとか。ジェフ・クーンズも好きなアーティストで、よく会ったりもします。あとジョー・ブラッドリー。ヨーロッパだとアントニー・ゴームリーとかアンセルム・キーファーとか。名前を挙げた人は全員スタジオまで会いにいきました。

【秋元】作品もそこで買うのですね。

【前澤】いいものがあれば。もちろん彼らの作品はオークションやセカンダリーマーケット(二次市場)でも買います。そこにこだわりはありません。

【秋元】作家の人間性が作品に表れると思いますか。

【前澤】そこは、正直いってよくわかりません。というか、作家自身もよくわからないのではないですか。会うたびに深い話をするというわけでもありませんし、深い話をしてもきっと意気投合できる気はしませんね。アーティストってみんな変人ですから(笑)。でも、それはそれでいいのです。その人というよりその人が生み出す作品が好きなのです。

■アートとは、生活を彩り、暮らしの中にある風景

【秋元】私のように美術にどっぷり浸かってしまうと、作家と作品を分けるのは逆に難しい気がします。作品を、作者の精神的な産物として受け止めているようなところはありませんか。

秋元 雄史『直島誕生』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

【前澤】いえ、僕が観るのは色や形やバランスですね。そういう意味では、写真も家具も洋服も見方は同じです。深読みして作品単体に必要以上に意味をもたせるのは、あまり好きではないんです。

【秋元】バスキアはいま2点おもちですね。たとえば80年代の主要なアートを集めて、時代の空気のようなものを表現してみようという思いはありますか。

【前澤】ないです。ただ、バスキアはまだほしい作品がたくさんあるので、それらを一つひとつ買っていけば、その結果として80年代のものが集まったということはあるかもしれません。

【秋元】なるほど、あくまで結果として集まることもあると。

【前澤】美術館や展覧会だと、観せるときに歴史や背景といった意味づけがどうしても重要になりますよね。でも、僕は、好きなものをただひたすら買い集めて、それをみんなで共有して楽しむだけなので、余計なことは考えないし、その必要もないです。

【秋元】まあ、美術館というのは一種の教育装置ですから、どうしてもああいった展示の仕方にならざるを得ない。あれが正しい飾り方かといわれたら、そういうわけでもないのです。

要するに、前澤さんにとってアートというのは生活を彩るものであり、暮らしの中にある風景のようなものなのですね。

【前澤】まさにそのとおりです。大量生産されたものじゃなくて、一点モノや大事に受け継がれてきたものと暮らすことで、それをつくったり、描いたりした人に思いを馳せることができます。

■環境と建築とアートがうまく調和する場所

【秋元】個人の美術館構想もおもちだとうかがっています。それはご自身の中ではどういう位置づけになるのですか。

【前澤】生活空間の延長というくらいの感覚です。毎日そこにいたいとは思わないけども、週に一回くらいそこに行くと新鮮な気持ちになれる。そういう場所のひとつですね。

【秋元】これまで感動したり影響をうけたりした美術館はありますか。

【前澤】デンマークにあるルイジアナ近代美術館のジャコメッティ(スイス出身の20世紀の彫刻家)がある空間はすごく好きです。遠くに池や木々が見えていて、その前に歩く人があって、さらにその前に「ヴェニスの女」のシリーズがあるという、抜け感のある展示の仕方が実にかっこいいのです。

【秋元】ルイジアナ近代美術館は、現代アートのプライベート美術館の草分けですね。ひとつひとつの作品へのこだわりがありますし、私邸から公開型の美術館へと発展していったいい例ですね。環境と建築とアートがうまく調和している非常に美しい美術館だと私も思います。

【前澤】あの場所は、本当に楽しいです。

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前澤友作(まえざわ・ゆうさく)
ZOZO社長
1975年生まれ。早稲田実業高校卒業後、バンドの活動の一環として渡米。98年スタートトゥデイ(現ZOZO)設立。2004年ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を設立。公益財団法人現代芸術振興財団会長。世界的なアートコレクターであり、2017年にはフランス芸術文化勲章オフィシエを受勲した。
秋元雄史(あきもと・ゆうじ)
東京藝術大学大学美術館館長・教授/練馬区美術館館長
1955年東京生まれ。東京藝術大学美術学部絵画科卒。1991年、福武書店(現ベネッセコーポレーション)に入社。瀬戸内海の直島で展開される「ベネッセアートサイト直島」を担当し地中美術館館長、アーティスティックディレクターなどを歴任。2007年から10年にわたって金沢21世紀美術館館長を務めたのち、現職。

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(ZOZO社長 前澤 友作、東京藝術大学大学美術館館長・教授/練馬区美術館館長 秋元 雄史 構成=山口雅之 撮影=宇佐美雅浩 取材協力=スターダイバー)

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