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日本中を「東京の縮小版」にしなくていい

プレジデントオンライン / 2018年11月27日 9時15分

「鎌倉」の街並みと富士山 ※写真はイメージです(写真=iStock.com/7maru)

鎌倉市で唯一の上場企業カヤックが、まち全体を巻き込んだ「鎌倉資本主義」の実験にのりだした。「みんなが東京になることを目指すのではなく、「多様性」を地方創生の世界でも生かすには、新しい豊かさの指標が必要だ」。同社CEOの柳澤大輔氏はそう話す。東京を目指さない地方のあり方とは――。

■経済合理性だけなら、渋谷や六本木のほうが有利

企業が本社をどこに置くのか。そこには企業の意志や思い、戦略上の理由が投影されるべきです。面白法人カヤックの本社は鎌倉にあります。

デジタルテクノロジーを使って「面白コンテンツ」をつくるのが僕たちの仕事なので、経済合理性だけを考えると、IT企業が集積する渋谷や六本木を選択したほうが、あらゆる点で効率がよく、有利な選択といえます。

実際、2014年に上場したこともあり、陣容も拡大したので本社機能を一部横浜に移したりもしました。でも本社は鎌倉から移していません。むしろ今後も鎌倉に積極的にコミットし続けたいと思います。創業20周年を迎える今年、新たに開発拠点を鎌倉に開設し、ご縁があった方々に無料で使っていただけるパートナーオフィスもつくりました。なぜカヤックは鎌倉にこだわるのか。

■コピーがオリジナルより面白くなることはない

それは、僕たちが「面白法人」であるからです。地方都市にいくと“東京の縮小版”のようなところが少なくありません。東京はたしかにすばらしい都市ですが、日本中が東京のようになったらちっとも面白くない。僕たちの考える面白さを一言で表すと「多様性」になります。

選択肢がたくさんある社会ほど面白いものが生まれる。企業の本社についても同様です。1つのまちだけに企業が集中するのではなく、個性ある企業がそれぞれの地域で、そのまちの特色を生かしながら活躍したほうが面白い。

多様性の視点からいまの日本を見てみると、地方の幹線道路沿いはどこも同じような街並みで、どこもみんな東京になろうとしているかのようです。コピーがオリジナルより面白くなることはありません。だから、地域もオリジナルを追求するべきだと思うのです。他の地域を真似したり、流行に乗っかったりするのではなく、地域独自のよさを誰にでもシンプルに届くかたちで伝えていくことが、その地域に住みたい、働きたいと思う人を増やすことにつながるのではないでしょうか。

■鎌倉で働きたい人は「平均」からはズレている人たち

鎌倉は都心から離れているぶん、不便です。東京のように何でも揃っているわけではありません。それでもここに住みたい、ここで働きたい、という人は、きっと「平均」からはズレている人たちです。だからこそ面白い。

柳澤 大輔(著)『鎌倉資本主義』(プレジデント社)

誰もが東京を目指すのではなく、地域がそれぞれの個性を強みとして繁栄していく地方創生は面白い。グローバル化がすすむ時代に、企業があえて地域にコミットしていくことが、いま資本主義が抱えている課題に取り組むことにもならないか。鎌倉で活動するうちに、そんな仮説を持つようになりました。

少し飛躍しているように聞こえるかもしれません。順を追って説明します。従来の資本主義が抱えている課題について、多くの人がたくさんのことを語っています。僕も専門書籍も含めて何冊か、それに関する本を読んでみました。そのうえで、いま資本主義が直面している最大の課題を挙げるとするなら、次の2つになると思います。

・地球環境汚染
・富の格差の拡大

なぜこのような問題が生まれるのか。それはGDP(国内総生産)という単一の指標を企業や国が追い求め過ぎていることに起因しているのではないかと思いました。

■長距離・長時間の電車通勤のほうがGDPは増加する

GDPは経済活動の状況を示す指標ですが、この一世紀近く、経済的な豊かさを測るための指標としても使われてきました。GDPが右肩上がりで成長し続けることが、よいことだとされてきました。でも、本当にGDPだけが豊かさの指標になるのでしょうか。

たとえば、鎌倉などの地域に住んで、職住近接のワークライフスタイルを実現する。地産地消の食材を楽しむ。コミュニティでつながりが生まれて、金銭の介在しないプロジェクトをみんなで立ち上げて、自分の住むまちをよくしていく。そうした活動は、GDPの増加には貢献しません。

職住近接ではなく、多くの人たちが長距離・長時間の電車通勤をするほうが、輸送にお金が使われるぶんGDPは増加します。地元でとれた食材を食べるより、海外から飛行機で輸入した食材を消費するほうが、GDPは増加します。でもそれって、なんだかおかしくありませんか?

通勤時間は短いほうが疲れないし、地元の食材のほうが輸入品より安くて新鮮です。GDPだけを見ていると、こういうちょっとした矛盾が積み重なって、結果的に大きな問題になってしまいます。

■さまざまな地域があるように、資本主義も多様であっていい

こうしたGDPのもたらす矛盾は、東京一極集中ではなく、地域での生活や仕事を多様化していくなかで解消できるのではないか、と思ったのが「鎌倉資本主義」というものを考え始めたきっかけです。「鎌倉」のところには、それぞれみなさんがお住まいの地域名を入れて考えていただければと思います。

つまり「鎌倉資本主義」とは「地域資本主義」の1つです。それぞれの地域でGDPに代わる、あるいはGDPを補完する指標を考えていけばいい、つまり、資本主義も多様であっていいと思うのです。

新しい豊かさの指標をつくるのは、地域のさまざまなプレイヤーが関わるべきだと思いますが、そのなかでの株式会社の役割は、自分たちが得意なビジネスを通じて、新しい価値観が見直されるような環境をつくっていくことだと思います。

■これまであまり定量化されてこなかった2つの資本

僕たちが考える「地域資本」は次の3つの資本で構成されています。

地域経済資本―財源や生産性
地域社会資本―人のつながり
地域環境資本―自然や文化

従来の資本主義における資本や売上に当たる部分が地域経済資本です。それに、地域社会資本と地域環境資本の2つを追加し、3つの資本をバランスよく増やすために企業、行政、NPOといった地域のステークホルダーが一緒になって取り組む。これが鎌倉資本主義の骨子です。経済資本以外の2つの資本は、これまであまり定量化されてこなかった価値です。
それを測るためにはどんな指標が必要なのか。それについては『鎌倉資本主義』という本に書きました。ここでは「地域資本」の具体例について、少し掘り下げたいと思います。

鎌倉が持つ地域資本には、どのようなものがあるのでしょうか。鎌倉は、都心まで電車で1時間足らずのアクセスでありながら、美しい自然があります。海と山に近く、歴史あるお寺や神社という文化資本に恵まれ、それがいずれも歩いていける距離にあるのが大きな魅力です。それを守り伝えるための景観条例が整備され、住民たちが景観を守る努力を重ねています。それもあって、住みたい街の上位にランクインしています。

■宗派の違う宗教が毎年一同に会し、一緒に祈る

鎌倉の文化的、社会的な魅力は、「多種多様な価値観を受け入れる土壌」と「新しい文化を生み出す力」と「世界に向けての発信力」だと考えています。

たとえば、鎌倉はナショナルトラスト発祥の地でもあり、一説にはNPOの発祥の地ともいわれ、非常に数多くの市民団体が存在します。また、鎌倉には鎌倉宗教者会議というものがあります。東日本大震災以降、神道、仏教、キリスト教という、宗派の違う宗教が毎年一同に会し、一緒にお祈りを捧げています。

価値観や立場の違う人たちが手を取り合ってお互いの価値観を尊重する。これは世界的に見ても珍しい試みだといわれています。

こうした自然や文化が、僕たちの考える「地域環境資本」です。では、「地域社会資本」とはどういうものでしょうか。鎌倉市では「共創型未来都市」をスローガンに掲げていますが、僕たちは、この「共創」を「つながる」こととして解釈しました。

■「つながり」に基づく資本は数値化しにくい

僕たちが考える「つながる」には4つあります。「仕事でつながる」「助け合いでつながる」「ライフスタイルでつながる」「遊休地でつながる」。そのそれぞれが、「つながり」を広げ、深めていくことで「地域社会資本」が充実します。

地方創生の議論の本を見ると、「バケツの穴を塞ぐ」というような表現で、域内の生産と消費を増やすことで、地域外への対貿易赤字を減らすという議論があります。経済資本を充実させるには当然やるべきことです。この部分の経済活動は数値化しやすいので、取り組みやすいものでもあります。

でも、地域社会資本という「つながり」に基づく資本は数値化しにくいので、そこを充実させる方法論までなかなかたどりつかない。人同士がつながると生産性も上がるので、地域社会資本を増やすことは、結果として経済資本を増やすことにもつながります。新しい指標をつくることでその流れをつくることが、鎌倉資本主義の目指すところです。

■「週に2日はオフィス以外で仕事をする」

鎌倉では「つながる」ための具体的な取り組みも始まっています。2018年7月、鎌倉市は、鎌倉テレワーク・ライフスタイル研究会の研究会準備会を開催しました。働き方改革の一環で、テレワークを推奨する企業が増えています。

たとえば「週に2日はオフィス以外で仕事をする」ような働き方です。都内から電車で1時間足らず、海と山に囲まれた鎌倉でテレワークをしてもらうことで、鎌倉で働く人を間接的に増やす。そんな取り組みです。

冒頭で述べた「パートナーオフィス」はこの動きとも連動したものです。過去5年間にカヤックとお取引いただいた企業に勤める人であれば、誰でも利用できます。鎌倉で「働く人を増やす」ことは、採用にも直結する重要なテーマです。

■「まちの社員食堂」という地域活性化コンテンツ

さらに、働く人たちが、会社や組織の垣根を越えてつながっていけるような新しい「場」も生まれています。「まちの社員食堂」です。

まちの社員食堂の外観。(撮影=プレジデント社書籍編集部)

地元で働く人たちみんなが、美味しい朝食で1日のエネルギーを蓄えたり、ランチミーティングをしたり、軽く飲みながら交流を深めたりできる場所。料理は週替わりで、地元のレストランが提供しています。オープン以来、たくさんの取材をいただき、日本全国の自治体や企業、国の行政機関などから多くの視察が訪れています。

カヤックが自社社員のためだけに社員食堂をつくったのであれば、これほど注目されることもなかったでしょう。地元企業や飲食店などを巻き込んだ、新しい地域活性化コンテンツだからこそ「面白い」のです。

東京のコピーをつくれば地域の経済資本は増えるかもしれませんが、環境資本や社会資本がむしろ貧しくなる可能性もあります。それぞれの地域がそれぞれのよさを生かした社会経済のモデルを模索し、発信しつつ、緩やかにつながっていく。そんな新しい時代の資本主義を一緒につくっていく仲間が増えていくことを願っています。

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柳澤大輔(やなさわ・だいすけ)
面白法人カヤック代表取締役CEO
1998年、学生時代の友人と面白法人カヤックを設立。2014年12月東証マザーズ上場(鎌倉唯一の上場企業)。鎌倉に本社を置き、Webサービス、アプリ、ソーシャルゲームなどオリジナリティあるコンテンツを数多く発信する。2015年に冒険法人プラコレ、2016年に株式会社ガルチ、2017年に鎌倉R不動産、ウェルプレイドがカヤックグループにジョイン。
子会社として、2016年にカヤックハノイ支社、鎌倉自宅葬儀社、2017年に株式会社カヤックLIVINGを設立。ユニークな人事制度やワークスタイルを発信し、新しい会社のスタイルに挑戦中。2015年株式会社TOWの社外取締役、2016年に株式会社クックパッドの社外取締役就任。

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(面白法人カヤック代表取締役CEO 柳澤 大輔 写真=iStock.com 撮影=プレジデント社書籍編集部)

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