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直感で資産運用をする人が成功しないワケ

プレジデントオンライン / 2018年11月29日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/phototechno)

資産運用をしていると、株価の動きが気になる。10年前の「リーマン・ショック」のような金融危機が起きれば、資産は大きく目減りする。売却して、それ以上の損失を防ぎたくなるが、それは間違いだ。元財務官僚の柴山和久氏は「人間の脳は損することを極端に嫌う。だが慌てると、むしろ損失を広げてしまう。資産運用では直感はあてにならない」という。どういうことなのか――。

※本稿は、柴山和久『元財務官僚が5つの失敗をしてたどり着いたこれからの投資の思考法』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

■脳は「損すること」が大嫌い

資産運用をするとき、なぜ直感があてにならないのでしょうか。それは、たとえ一時的にでも、人間の脳が「損をすること」を極端に嫌うからです。

たとえば、株価が1万円から3割近く下がったとします。これは誰にとっても怖いことです。このため、資産が下がるタイミングで投資し続けることに対し、普通は強い恐怖を覚えます。その後、相場が上がるとわかっていたとしても、その恐怖が和らぐことはありません。

行動経済学の研究では、「損をすること」による感情の揺れは、「得をすること」による感情の揺れのおよそ2倍になるといわれています。

何らかの理由で1万円を失ってしまったと想像してください。次に、何らかの理由で1万円を偶然手に入れたと想像してください。1万円を失ったときの心の痛みは、1万円を手に入れたときの喜びよりもずっと大きいのではないでしょうか。

「損をしたくない」という感情は、人間にとってとても自然な感情です。しかし、ごく自然なこの感情が、冷静な思考を妨げてしまいます。これが、人間の脳が資産運用に向いていない本質的な理由です。

■元本から1万円の増減でも大きな不安に駆られる

資産運用と人間の脳の関係について、もうひとつわかっていることがあります。それは、リターンがゼロ付近で動く、つまり元本付近でプラスとマイナスを行ったり来たりするときは、ほんのわずかな変化にも過敏に反応してしまうということです。

資産運用を始めて間もない頃は、リターンがプラスとマイナスを行ったり来たりしがちです。その度に一喜一憂すると、心理的に疲れ果ててしまいます。

たとえば100万円の元本が1万円増えて101万円になると、「資産運用をしてよかった!」と大きな喜びを感じます。逆に、100万円の元本が1万円減って99万円になると、「大丈夫だろうか? 始めるタイミングを間違えたのでは」と、大きな不安に駆られるでしょう。毎日のようにリターンをチェックしてしまうかもしれません。

リターンがある程度大きくなると、感情の揺れは小さくなります。100万円の元本が110万円になったとしましょう。110万円からさらに1万円増えたり、1万円減ったりしても、それほど大きな喜びや失望を感じないのではないでしょうか。

リターンがマイナスのときでも同じです。100万円の元本が90万円まで減っているときリターンが1万円増えて91万円になったり1万円減って89万円になったりしても、心はそれほど揺さぶられないはずです。資産がいわゆる塩漬け状態になっても、あきらめて放っておけるのはそのためです。

元本付近でリターンがプラスとマイナスを揺れ動くと、心もまた大きく揺さぶられます。リターンが元本から離れてくると、冷静さを取り戻せます。心の揺れは、「長期・積立・分散」の資産運用を軌道に乗せるうえで、極めて大きな障害になります。

■「長期・積立・分散」投資は開始直後に一喜一憂しがち

あらためて、「長期・積立・分散」の資産運用を25年間続けたときのシミュレーションを見てみましょう。

資産は25年間で約2.4倍になっており、順風満帆だったように見えます。しかし資産運用をスタートした直後をクローズアップしてみると、まったく別の様相を呈してきます。

図の下側、資産運用をスタートした直後の動きに注目してください。資産運用をスタートしてすぐにリターンがマイナスになり、元本まで回復したかと思ったらすぐにまたマイナスになっています。プラスとマイナスの行き来は、半年以上続いています。このシミュレーション通りに資産運用をしていたら、最初の半年は一喜一憂していたかもしれません。

一喜一憂することに疲れた頃、リターンがプラスになると、利益を確定(利確)させようという人が出てきます。「もうこれ以上マイナスになるのを見たくない。利確してしまおう」と資産運用をやめてしまうのです。最初の苦しい時期を乗り越えられなかったがために、将来の大きなリターンを失うことになります。

気を取り直して資産運用を再開しても、振り出しに逆戻りです。資産運用を始めたばかりだと、リターンはプラスとマイナスを行き来しやすく、また一喜一憂することになります。

25年間のシミュレーションでは、最初の苦しい時期を乗り越えて資産運用を続けると、プラスのリターンが大きくなっていきました。こうなると、資産が1%増えたり減ったりしても、心の揺れは小さくなるでしょう。残高を確認する頻度も減り、短期的な資産の増減はあまり気にならなくなるはずです。

資産運用を始めたばかりの苦しい時期を乗り越えることが、「長期・積立・分散」の資産運用を成功へ導きます。長い目で資産を見守りましょう。

■リーマン・ショックは「何もしない」が正解だった

柴山和久『元財務官僚が5つの失敗をしてたどり着いたこれからの投資の思考法』(ダイヤモンド社)

前項で述べた通り、「長期・積立・分散」の資産運用は、スタートして早々に、苦しい時期にぶつかります。それを乗り越えると、リターンが安定し、落ち着いて資産運用をすることができるようになります。

しかし金融危機が発生すれば、リターンが大きく失われ、普段は冷静な投資家もパニックになります。近年のもっとも極端な事例が、リーマン・ショックでした。

多くの投資家がパニックに陥り、リーマン・ショック後に株を売って、株よりもリスクの低い債券や金、現金などに移したことがわかっています。

前述の通り、アメリカ人である私の妻の両親も、パニックに陥りました。妻の両親は1990年代からプライベート・バンクで「長期・積立・分散」の資産運用を続けており、幾度かの金融危機を乗り越えてきました。しかし、さすがに株価が3割も下落し、悲観論に満ちたメディアに日々接していると、資産運用をやめたほうがいいのではと思うようになりました。

■プライベート・バンカーからの4つの助言

待ったをかけたのが、彼らが信頼し資産運用を長年任せてきたプライベート・バンカーでした。妻の両親は、次のような助言をもらったそうです。

●過去の金融危機でも株価は大きく下落したが、やがて回復している
●今回も一時的な下落であるなら、損失も一時的なものに留まる
●株価が大きく下がっている今売ると、一時的であるはずの損失が確定してしまう
●手元のお金に余裕があれば、割安で追加投資をする大きなチャンス

妻の両親は、さすがに追加投資をする勇気はなかったものの、プライベート・バンカーを信じ、資産運用をやめないことにしました。すると株価はますます下落し、やがて資産の評価額は下がり、ますます不安が募ります。腹をくくって様子を見ていると、ご存じの通り株価は上向き、2年後にはリーマン・ショック前の水準に戻りました。リーマン・ショックから9年経つと株価は元の水準の2倍以上になりました。

■もし運用をやめていれば、資産は30%低い水準だった

プライベート・バンカーは、「損をしたくない」という妻の両親の感情を上手にコントロールし、「長期・積立・分散」の資産運用を成功に導いてくれました。助言がなければ、妻の両親はパニックのあまり資産運用をやめ、20年近く続けてきた資産運用の成果をふいにしてしまったでしょう。

もちろん、助言を無視して、資産運用を中断していたとしても、その後、資産運用を永遠に再開しないということはなかったとは思います。底値で再開できるようならリターンも高くなりますが、底値で資産運用を再開できるくらいなら、そもそもパニックに陥ることもありません。

リーマン・ブラザーズの経営破綻を見て株価が約30%下がったタイミングで資産運用を中断し、その後、株価がリーマン・ショック前の水準に戻った2011年1月くらいのタイミングで再開するのが現実的ではないでしょうか。その場合には、2017年9月末には資産はリーマン・ショック前の約1.6倍となります。これは、アドバイザーの助言に従って何もしなかった場合と比べると、約30%低い水準です。やはり、助言に従って何もしなかったのが正解だった、ということになります。

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柴山 和久(しばやま・かずひさ)
ウェルスナビ代表取締役CEO
2015年4月にウェルスナビ株式会社を設立。2016年7月にロボアドバイザー「WealthNavi」、2017年5月におつり資産運用アプリ「マメタス」をリリース。2018年8月に預かり資産1000億円、申込件数13万口座を突破。起業前には、日英の財務省で合計9年間、予算、税制、金融、国際交渉に参画。その後マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務し、ウォール街に本拠を置く10兆円規模の機関投資家を1年半サポート。東京大学法学部、ハーバード・ロースクール、INSEAD卒業。ニューヨーク州弁護士。

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(ウェルスナビ代表取締役CEO 柴山 和久 写真=iStock.com)

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