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スタバやコメダが「プロント化」する背景

プレジデントオンライン / 2018年11月29日 9時15分

スタバが販売する「ホットデリボックス ローストチキン&ラビオリ」(画像提供=スターバックスジャパン)

スターバックスが今年から、「箱入りパスタ」を売り始めている。さらにコメダ珈琲店や、ドトールの別ブランドでもパスタが新メニューとして登場した。なぜ今カフェチェーンはパスタメニューを増やしているのか。その背景には「プロント化」とも呼ぶべき現象がある――。

■カフェフードの選択肢が増えている

国内に1392店(2018年9月末現在)と最大の店舗数を持つ「スターバックス」が、今年の春、パスタメニューを発売した。

スタバだけではない。コメダやドトールといった大手カフェチェーンも、こぞってパスタメニューの充実に取り組み始めている。

カフェや喫茶店というと、ドリンクやスイーツが取り上げられることが多い。2000年代初めからの「カフェ」業態の躍進とともに、ドリンクやスイーツは多様化したが、実は、フードの主力商品はあまり変わってこなかった。大手カフェチェーンでは、昔も今もパンメニューが多い。

一方で、昭和時代の「喫茶店のスパゲティ」に端を発するパスタメニューを扱うカフェチェーンといえば、これまでは多彩なパスタを展開する「プロント」がその代表格だった。ここに今、変化が起きているのだ。

■スタバが投入した「パスタ」の中身

スタバが投入したパスタは、「デリボックス」シリーズだ。4月18日に発売したのは、「スターバックス デリボックス バジルヌードル&ローストチキン」と「スターバックス デリボックス トムヤムヌードル&ローストポーク」(当時)の2種類(620円+税)。前者はイタリアン、後者はアジアンテイストで、野菜や肉とパスタを盛り合わせたボックス型の商品だった。(※上記2品はすでに終売)

さらに現在は、「スターバックス ホットデリボックス ローストチキン&ラビオリ」(680円+税)を販売中。いずれも店内調理ではなく仕入れ商品で、「ホットデリボックス」は店舗で温めて提供するほか、テイクアウト後に自分で温めて食べることもできる。

「『ヘルシーかつ腹持ちの良い食事メニューも欲しい』というお客さまの需要に応えるため、社内で検討した結果、パスタを加えた商品となりました。主に女性を意識し、野菜や豆などの具材と、パスタ、お肉を組み合わせ、バランスとボリューム感を考えた内容です。秋冬の商品はボリューム感のあるほうれん草とチーズのラビオリに、ローストチキン、パンプキンサラダ、トマトサラダ、オリーブオイルとブラックペッパーで和えたキャベツを添えました」(同社)

見た目に鮮やかで、栄養バランスのよい内容だが、分量はやや少ない。別々の機会に購入した女性客に聞いたところ、「もう少しおなかを満たせるボリューム感が欲しかった」(東京都在住の30代女性、兵庫県在住の50代女性)という意見で一致していた。

■コメダが試験的に導入する「スパゲティ」

一方、店舗数810店(2018年9月末現在)と国内3位のコメダは、「コメダ珈琲店 宮益坂上店」(東京都渋谷区)で3種類のスパゲティを販売している。

「カルボナーラプレート」(1400円/いずれも税込み)、「ナポリタンプレート」(1350円)、「明太子プレート」(1300円)で、ドリンクがつく。商品名に「プレート」とあるように、ワンプレートにパスタと生野菜、フランスパンが盛られた内容だ。

コメダ珈琲店の「ナポリタンプレート」(筆者撮影)

一般客として店に行き、ナポリタンプレートを注文してみた。率直に言って、街中にあるパスタ専門店や個人喫茶店と比べて、もう少し改善が必要に感じた。コメダが得意としているサンドイッチやバーガーなどのパンメニューに比べて、道半ばに思えたのだ。まだ一斉導入という段階ではないだろう。

全店舗のうちFC店が97%を占めるコメダの中で、渋谷宮益坂上店は数少ない直営店であり、 “実験店舗”の意味合いも持つ。同店はタッチパネルでの注文を取り入れているが、他のコメダ店舗では見かけない。一方で、ブラックコーヒー「コメ黒」のように同店での導入後、全国の各店に展開していった商品もある。

他の競合店では、たとえばドトールは、別ブランドの「神乃珈琲」で生めんを使ったスパゲティメニューを提供する。「神乃珈琲 銀座店」(東京都中央区)で注文した「マッシュルームとパンチェッタのカルボナーラ」は、ドリンクつきで1890円。決して安くないが、コーヒーもフードも味は本格的だった。

■カフェのフードが限定される3つの理由

なぜ大手各社がここにきて、フードメニューとして「パスタ」を導入するのか。これには、カフェ業態の立ち位置や店内条件と関係している。

(1) カフェはコーヒー中心のメニュー構成
(2) パンやパスタはコーヒーとの相性がよい
(3) 店は厨房も狭く、多彩な料理を調理しにくい

「紅茶の店」などの看板を掲げない限り、カフェの主力はコーヒーだ。昭和時代からコーヒーに合うフードメニューを試行錯誤した結果、トーストやサンドイッチといったパンメニューが中心となった。パスタも、コーヒーとの相性は比較的よい。

業界関係者を取材すると、よく「カフェはレストランではない」という言葉が出てくる。この真意は質問内容に応じてさまざまだ。少人数で店を切り盛りするという意味もあれば、レストランではないので、厨房スペースが限られるという意味もある。

個人経営の喫茶店(個人店)では、ハンバーグ定食やしょうが焼き定食を出す店があるが、大手チェーン店ではあまり見かけない。ドトール日レスホールディングスが運営する「星乃珈琲店」のように「ハンバーグプレート」が人気の店はあるが、これは運営母体が多彩なレストラン事業を持つため、スケールメリットで提供できる例外的存在だ。

数店舗程度の店ならともかく、大規模チェーン店では、各店で均一化や均質化が大変になる。アルバイトでも調理準備できるメニューを考えると、ごはんモノはむずかしい。となると、消費者に長年親しまれているパスタメニューが取り組みやすいのだ。

先行する「プロント」がパスタメニューに成功した理由はなぜか。元ドトールコーヒー常務でフードビジネスコンサルタントの永嶋万州彦氏はこう解説する。

「製粉メーカーと連携して冷凍パスタの開発に成功したことが大きい。加えて、冷凍麺を生麺のように戻すスチーマーの開発に、機械メーカーが協力したのです。これによりモチモチ感のあるパスタメニュー開発に弾みがつき、女性客にも支持されていきました」

永嶋氏は重ねて、「スタバやコメダやドトールは、コーヒーと合うパンメニューで成功を収めたから、これまではパスタに参入しなくて済んでいた。ですが、『客単価増』を図るためには、新たなフードメニューの開発に迫られます。その手段としてパスタを導入したのでしょう」とも話す。

客単価を上げるために本格的な展開を目指すなら、メーカーと連携した開発といった本気度も問われるのだ。

■パスタに対する消費者の舌は肥えた

歴史の視点も踏まえておきたい。戦後の高度成長期以降、各地の喫茶店が食事メニューを取り入れた際、各店がさまざまなメニューを試した。中にはかつ丼やラーメンがある店もあったが、やがてパンとスパゲティが主流となり、特に後者が定番化した。

その理由は前述したとおりだが、「スパゲティはゆで上げて油を絡めると数日置くことができ、注文を受けてすぐに調理するのに向く商品だった」(創業50年の老舗喫茶店の創業者)と指摘する声もある。来店客の食事ニーズに応える場合、スパゲティメニューは使い勝手がよい。注文数が増えれば客単価も上がり、店の売り上げ拡大につながる。

その意味で、大手各社が今パスタメニューを導入するのは「温故知新」ともいえるが、当時と現在で大きく異なるのが、業態を超えた競合の存在だ。パスタ専門店は都市部を中心に増え、小売店で売られる冷凍パスタも安価でおいしくなった。

「カフェのパスタと小売店のパスタを一緒にするな」と思われるかもしれない。だが消費者を取材すればするほど、送り手が思うほど受け手は「業態を意識していない」のだ。代表例がコンビニコーヒーで、今や100円コーヒーの標準の味となった。

だからこそ、カフェでの食事ニーズを求める消費者に応えつつ、「この味とこの価格ならまた注文したい」と思わせる水準に仕上げなければならない。大手各社はプロントのように本格的な食事メニューの開発に進むのか。それともコーヒーに合うメニューにとどめるのか。各社の取り組みに注目が集まっている。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト 高井 尚之)

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