元ダイソン日本社長伝授のダイソン打倒法
プレジデントオンライン / 2019年1月15日 9時15分
■ダイソン元社長が、ダイソンの敵に
ダイソンが火付け役となった「プレミアム掃除機」ブーム。いまや5万円を超える価格帯の掃除機がメーカー各社から続々と発売されている。なかでもダイソンの人気は底堅く、コードレススティック型掃除機の4~5割のシェアを誇ると言われている。
しかし、日本と同じくダイソン一強だった米国において、ダイソンを打ち破ったメーカーがある。シャークニンジャだ。アメリカでは「ダイソンキラー」とも呼ばれる同社は2018年8月日本市場に鳴り物入りで参入した。同社の日本法人社長、ゴードン・トム氏は、1998年にダイソンが立ち上げた日本法人の社長に抜擢され、それまで国内での認知度はゼロに等しかったダイソンの名を世に知らしめた、いわばプレミアム掃除機市場の立役者だ。同社の参入は、日本のプレミアム掃除機市場にどのような影響を与えるのだろうか。
――シャークニンジャの成り立ちについて教えてください。
2015年からシャークニンジャという名前になりましたが、新興メーカーではありません。元は「ユーロ・プロ」という名の生活家電メーカーで、北米では100年以上の歴史があります。ユーロ・プロは「シャーク」という掃除機ブランドと「ニンジャ」という調理家電ブランドを持っていますが、両ブランドの知名度の高さを受けて社名も「シャークニンジャ」に変更されました。
■潔癖で品質に厳しい日本人が大好き
――アメリカで急成長を続けるシャークニンジャですが、日本市場参入を決めた理由は何だったのでしょうか。
本社の売り上げは現在およそ2000億円で、その内95%は北米です。北米では掃除機だけでなく、ほとんどの調理家電に関しても高いシェアを獲得しています。ある意味シェアを獲得し尽くしてしまった状態です。では今後どうするかと考えたとき、選択肢は3つありました。ひとつは「まだ会社が作っていない製品を開発する」。2つ目は「まだ売っていない市場に進出する」。3つ目は「その両方を取る」。迷うことなく3つ目の道を選びました。
――日本市場に進出することで得られる御社のメリットとは何でしょうか。
アメリカの掃除機市場は約2000万台。比べて、日本は800万台と40%ほどです。
一見するとあまり大きくない市場に思えますが、掃除機にかける平均単価はアメリカの倍。つまり台数は40%でも、金額ベースの市場規模は約80%にもなります。いいモノには掃除機でもお金を惜しまない、綺麗好きな国民性がうかがえます。
また、日本進出は、数字だけではない大きなメリットがあります。日本の消費者は品質に対して非常に細かくて厳しい。例えば北米向けの商品ですと製造ラインも割とのんびりとしたものですが、日本向けの品質管理はそうはいかない。製品に指紋がひとつ残っていたらアウトです。ですから、日本市場に進出するということは製造ラインの品質管理レベルが上がるということになります。結果、日本の消費者が満足できる製品を作ると、どんな国でも満足していただけるという副次的効果もあります。
これはメーカーにとって非常によいこと。だから私は日本の消費者が大好きなのです。
――ゴードン社長は20年の日本在住経験があり、日本市場のノウハウにも精通しているとお聞きしました。これまでの経歴をお聞かせください。
初めは英国外務省の外交官として、駐日英国大使館で勤務したのが日本との関わりのスタートです。その際に、私はビジネスでも政治でも日英関係がこれからいっそう重要なものになると考えていたので、率先して日本語を勉強しました。その後は、ダイソンに入社し、98年のダイソン日本法人の設立に合わせて初代社長に就任しました。06年からはダイソン・アメリカの社長を務めました。その後、ダイソンを離れ、自分のコンサルタント会社を設立したのですが、その時のクライアントのひとつがスウェーデンの家電メーカーのエレクトロラックスでして、同社の日本進出に合わせて再び日本に来ることになりました。
そして、16年にシャークニンジャの日本進出サポートの依頼を受けます。日本市場の現状説明や事業計画の打ち合わせを重ねるうちに、日本法人の社長をやってほしいと頼まれました。17年の8月から今回で5度目の長期日本滞在中です。コンサルタントとして月に8日分の仕事しかしなかった生活から、週に8日分の仕事をすることになってしまって、忙しく駆けずり回っています(笑)。
■コンパクトさと充電機能の差で勝負
――日本進出第1弾となる掃除機「EVOFLEX」ですが、どのようなこだわりがあるのでしょうか。
日本向け商品プロジェクトをスタートさせる際に重視したのが、「日本の一般家庭での使いやすさ」です。基本的な構造は本国モデルを踏襲しつつも、単にサイズを変更しただけのモデルチェンジではなく、徹底的に日本の消費者に寄り添ってほぼ新しいモデルとして作り直しました。例えば、マルチフレックスというパイプがL字に折れ曲がる独自の構造にすることで、ソファの下などの隙間を掃除する際、腰を屈めることなく掃除ができます。また、これによって、コンパクトに自立させることが可能になり、日本の住宅事情にもマッチした収納が可能になりました。ダイソンなどの製品には、専用壁掛けツールがありますが、壁に穴を開けて設置することは賃貸物件に住む家庭も多い日本ではなかなか難しい。結局無造作に立てかけて、部屋の中で目立つオブジェになることも。背が低く、自立することは日本家庭での収納に最適です。
――既存の製品にはなかった「着脱式バッテリー」を採用したのは特に思い入れがあるとお聞きしました。
当社の掃除機はユーザーがバッテリーを自由に取り外しできます。そもそもバッテリーは消耗品ですから、2~3年もすればだんだんと弱くなります。内蔵式ではユーザーが自分で交換することはできません。交換したいと思ったら、コールセンターに電話し、修理センターに送り、1週間ほど待ち、送り返された物を受け取らなければならない。手間も時間もかかりますし、その間の掃除はどうしたらいいのでしょうか。企業がユーザーの使い方を限定するようではいけない。「使い方はご自由に」、これが本当の使いやすさだと考えています。
――ダイソンやエレクトロラックスなど、ご自身の過去の成果と戦うことになりますが。
戦いだとはまったく考えていません。確かに競争は激しいですが、あくまでもフォーカスはユーザーの満足に向けています。いい物をつくって商品の良さを伝えること、これが私たちの責任だと思っています。数多くの他社製品と比較されるなかで選ばれるために、口酸っぱく各部署に言い続けてきたことがあります。それは「無駄な数字は使わない」ということ。部品をバラバラにしたCG写真に、フィルターが微細な粒子を99.97%除去できる性能だとか、何万Gの遠心力だとか、あれこれ書いても、読んだ人が理解できなければ意味がありません。もちろんシャークの製品にも最先端のテクノロジーが詰まっています。しかし、それは専門的な数字を並べ立てずとも十分に伝えられるのです。例えばiPhoneはたくさんの技術が入っていても、説明書さえついていません。私もたくさんのアップル製品を持っていますが、詳しいテクノロジーはわかりません。でも使いやすいから使う。なぜならその製品のよさは肌で体感しているからです。この思いは日本の消費者の皆様にも伝わると確信しています。
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シャークニンジャ株式会社社長
イギリス、スコットランド出身。1998年より、ダイソン日本法人社長、2006年、ダイソン・アメリカ社長を務める。その後、エレクトロラックス社など電化製品メーカーを経て、17年8月末より現職。
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■▼【図表】米国ではダイソンに圧勝!
(シャークニンジャ株式会社社長 ゴードン・トム 構成=プレジデント編集部 撮影=奥谷 仁)
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