40年前のビジネス書は本当に役立つのか
プレジデントオンライン / 2018年12月6日 9時15分
■古典的ビジネス本が上位に多い理由
ランキングを見ると、古典的ビジネス本が上位に並んでいます、つまり時代に左右されない普遍的理論を人は求めているのではないでしょうか。
例えば1位のジム・コリンズらの『ビジョナリー カンパニー』はまさに古典的名著。これが多くの人に選ばれたのは、会社の業績などの表面的な情報ではなく、企業が追求する価値を重要視するべきという考え方が支持されたからだと考えます。
『ビジョナリー カンパニー』
ジム・コリンズ、ジェリー・ポラス 日経BP社
2位 大塚家具の経営幹部に読んでほしい
『マネジメント』
ピーター・F・ドラッカー ダイヤモンド社
3位 中国生まれのビジネスマンが見た日本のヤバイ営業
『新版 やっぱり変だよ日本の営業』
宋 文洲 ダイヤモンド社
日々の仕事に追われると、受注数を増やして利益を上げれば十分な経営と思えてきます。ですが、会社というのはビジョンや理念が非常に重要であり、それが存続のために必要不可欠ということを教えてくれます。副題で「時代を超える生存の原則」とありますが、本書で取り上げられている企業事例は時代を問わず通用します。スティーブ・ジョブズが亡くなってもアップルが今なお評価されている理由がここには書かれています。
本書には「時を告げるのではなく、時計をつくる」という言葉が出てきます。これは本書の趣旨を一言で表しています。
経営者が会社や組織をリードするときには「時間を正確に伝える」のではなく、トップがこの世を去っても時計のように永遠に時を刻み続ける「仕組み」が重要であるということです。今も昔も企業に必要な観点は同じ。企業はその気になれば誰でもつくれますが、世の中に本当にためになるビジョナリーな会社をつくれる企業はその中でもごく一部なのです。
この本は、特にこれから起業を志している人にはお勧めです。起業となると利益やビジネスモデルに目が向きがち。ですが、会社として最初に考えるべきことは自分が会社を去ってからも世の中に提供できる価値。今を席巻するIT企業経営者でこの本を読了した方は多いはずです。
2位ドラッカー『マネジメント』も長年読み続けられている古典的名著です。経営の抜本的改革が求められている大塚家具の幹部が読めば、参考になるかもしれませんね。
偉そうなことはいえませんが、自社の強みをなくして苦境に陥ったときに、わずか10行でも読む価値がある本です。1行1行が本質を突いていて、何回読み返しても得るものがあります。
今回の企画で同書を読み直して「販売とマーケティングは逆だ」という箇所に改めて感心しました。例えば、広告営業が売り上げを確保するなら、当然広告を売ってこいという話になります。しかし、商材の営業(販売)ではなく必ずマーケティングを先にせよと書いてある。売れる状況が先に整っていなければ商材は売れないというマーケティングの本質を指摘しています。
一方で、本書を開くと難解な文体が飛び込んできます。40年以上前の本ですので、古くさい印象を持つ人もいるかもしれません。しかし、内容は今読んでも全く色褪せていません。
ドラッカーの言葉は他のビジネス書でもよく出てきます。社会人としての基礎をもう1度つくる意味でも読む価値ありです。
『エスキモーに氷を売る』
ジョン・スポールストラ きこ書房
5位 マーケティングの基本コンセプトを解説
『コトラーのマーケティング・コンセプト』
フィリップ・コトラー 東洋経済新報社
6位 『マネジメント』を読んだ女子高生の青春小説
『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』
岩崎夏海 ダイヤモンド社
7位 今再び注目を集める、日本軍の敗因分析
『失敗の本質』
戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎 中公文庫
8位 日本に「コンサル」を広めた一冊
『企業参謀』
大前研一 プレジデント社
9位 営業マンの理想的なおじぎとは一体?
『かばんはハンカチの上に置きなさい』
川田 修 ダイヤモンド社
10位 営業の神様による営業の“空手の型”
『営業マンは「お願い」するな!』
加賀田 晃 サンマーク出版
■現場の営業マンにはやっぱりこれ
8位の『企業参謀』著者の“和製ドラッカー”大前研一氏は日本のマネジメント層に非常に影響を与えた人物で、本著には彼の原点が詰まっています。また、日本企業にコンサルティングを広めた本でもあります。
1970年当時のビジネス書とは、国民的評価のある研究者や経営者しか書いていませんでした。今でこそ、もともと知られていない人がビジネス書の刊行を機に有名になったというケースは珍しくないですが、当時、若くして著書で名を上げた人は大前氏以外にいなかったはずと思います。
本書はやさしい内容ではないですが、新入社員に読んでほしいです。学生と違い社会人になってロジカルで戦略的な思考を身に付けなければならないときに基礎となる。漫画版があればより理解が深まるでしょうね。
10位の『営業マンは「お願い」するな!』は“営業の神様”の異名を取る加賀田晃氏による営業マンのための本です。
これは人に何かを売る、契約を取るという場面での、空手の型のような奥義が書かれている実践書です。例えば、営業のアポを取って契約を取らなくてはならないときに『ビジョナリーカンパニー』のような長期的なビジョンの話を読んだところで、即効性がありません。その点で、私がここまで紹介した本と少し毛色が違い、現場で力を発揮してくれる本です。
同書の内容は営業マンの心にガツンと直接響く衝撃的なエピソードが並びます。マーケティング戦略で売れるのは、消費者に対して商品をマス単位で販売する大企業の方がほとんど。彼らはあまりお客さんと正対することはありません。対して、不動産や保険の営業、コンサルタントなどは、お客さんと1対1で契約を取らなければなりません。後者のようなお客さんに直接セールスするすべての人に読んでほしいですね。
とくに「何も売らずに帰ることこそ無礼千万である」という言葉は強く印象に残っています。「売って差し上げるのがお客さんのためであり、『何も売らずに帰ることこそ無礼千万である』」と言い切っており、ここまでいくとすごいなと感心しました。ほかにも営業されることを嫌がっていた顧客に最後は感謝されるエピソードもあり、仰天します。とにかくエピソードが熱血で一歩引いて読むと心の距離感が生まれてしまうかもしれないので、できるだけ本に入り込み「私もできる」と営業の戦意高揚に使ってほしいです。
■新世紀到来を告げる革命的一冊は
ランキング外では『ブルー・オーシャン戦略』『フリー』『ハイパワー・マーケティング』をお勧めします。
W・チャン・キムらの『ブルー・オーシャン戦略』はマーケティングのバイブルです。既存のビジネス書界に風穴を開けた一冊といえます。
発想を転換すれば既存のビジネスから脱して、大儲けの機会が眠っていることが書かれています。未開拓な新たなマーケットを創造するのが「ブルー・オーシャン」、競争が激しく消耗戦を強いられる既存の市場を「レッド・オーシャン」と呼び、そのコンセプトはとても秀逸。ブルー・オーシャンの創造プロセスは、徹底的に論理的で、天性のひらめきがなくとも誰もが導き出すことができます。
クリス・アンダーソンの『フリー』は、新世紀の到来を告げる革命的な一冊です。
WEB時代は、フリー(無料)からビジネス(お金)が生まれるというビジネスモデル(=フリーミアム)を実現させました。従来のビジネスでは「タダより高いものはない」が常識でしたが、フリービジネスモデルでは逆。企業の利益は確保されたうえで、サービスや商品はタダで提供できるのです。キャッシュポイントを別につくることで、消費者に従来は有料だったものを無料で提供できる社会が訪れています。実際に音楽や本、映像などさまざまなフリーの戦略が現在広まっていますが、その原点となった本といえます。
ジェイ・エイブラハムの『ハイパワー・マーケティング』はマーケティングのあらゆるノウハウが詰め込まれた叡智の結晶といえます。
事例も豊富で、非常に読みやすい文章で書かれています。即座に売り上げを倍増させることを目的としたマーケティングの手法が解説されている。日本のマーケターと呼ばれる人間の多くも教本としており、費用対効果の高い一冊といえます。
1.『ブルー・オーシャン戦略』
W・チャン・キム、レネ・モボルニュ(有賀裕子訳)ダイヤモンド社
2.『フリー』
クリス・アンダーソン(高橋則明訳)NHK出版
3.『ハイパワー・マーケティング』
ジェイ・エイブラハム(金森重樹監訳)ジャック・メディア
ネットで無料公開された吉本芸人・西野亮廣氏の『革命のファンファーレ』は『フリー』戦略で、SNSで話題となり有料本も売れた。
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ビジネス書作家
1973年生まれ。会社経営を経て2008年に『成功本50冊「勝ち抜け」案内』でデビュー。以後も『知っているようで知らない「法則」のトリセツ』『幸福の商社、不幸のデパート』など話題作を発表する。累計著書は20冊以上。
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(ビジネス書作家 水野 俊哉 構成=ツマミ具依 撮影=市来朋久)
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