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"平均2800万"認知症老人の貯金の使い道

プレジデントオンライン / 2018年12月1日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/fatido)

認知症高齢者が保有する金融資産は140兆円、2030年には200兆円を超える――。第一生命経済研究所が推計した数値が反響を呼んでいる。これは一人当たりになおすと平均2800万円にもなる。だが認知症になれば、預金口座が凍結され、自由に使えなくなるリスクがある。お金があるのに使えないという現実とは――。

■認知症高齢者の保金融資産「140兆円」の衝撃

「認知症高齢者が保有する金融資産は、2018年3月時点で140兆円に上り、さらに高齢化が進む2030年には200兆円を超える」

この数値を算出したのは民間のシンクタンク第一生命経済研究所。国がまとめた認知症の人の数や家計のデータをもとに預貯金や株などの金融資産をどのくらい保有しているかを推計したものです。

認知症になると症状の度合いにより、預貯金が凍結(自由に引き出せない)されることがあります。株などの有価証券も本人の同意がなければ解約できません。要介護者本人がせっかく貯めた総額140兆円もの資産の多くが、有効に使われないままになってしまうのは実にもったいない話です。

本連載では以前、認知症の親御さんの預貯金が凍結されたことで、息子が生活費や介護サービス費用を負担することになり、家計が追い詰められた、という話を紹介したことがあります。老後のためと思ってせっせと貯めたお金を自分のために使うことができない。それどころか家族に迷惑をかけてしまうということがあり得るわけです。

■認知症の親の預貯金が凍結されると……

「家族が負担するといっても、親に資産があることがわかっていれば、その人の死後、遺産相続で補填できるからいいじゃないか」と考える向きがあるかもしれません。しかし、それを実現するにはいくつかのハードルを乗り越えなければなりません。

人が死に、それが親族の告知などで金融機関に知られると、その人の預金口座は凍結されます。相続人一同の了解を経ずに親族の誰かがその預金を引き出すと、トラブルになるからです。

といっても、故人の葬儀代や生前の入院費などで高額の支払いが生じるケースは少なくありません。その場合は凍結期間中でも親の預金を引き出すことはできますが、手続きには法定相続人全員の同意を確認できる書類やら全員の戸籍謄本、印鑑証明書など多数の書類が必要になり、大変な手間がかかるわけです。

■自分の資産がいくらか子供に言わない親も多い

それらがなんとか済んだ後、相続の手続きが始まります。相続人による遺産分割協議が確定することで凍結は解除され、預貯金の分配されることになります。

ただ、これは亡くなった要介護者に預貯金などの資産があることがわかっている場合です。子どもであっても親に資産があるかどうかわからないこともあるでしょう。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/wildpixel)

最近では“終活”が高齢者に啓蒙され、エンディングノートに保有する預金や有価証券、生命保険などの情報を書き込む人も出てきましたが、そういうことは考えたくないという人もいます。子どもに対しても、自分の資産がどのくらいあるか、言わない人もいるのです。

人が亡くなれば家族・親族は遺品の整理をすることになります。それによって故人の名義の預金通帳や有価証券が見つかればいいですが、自分以外の人に使われたくないという思いから、見つかりにくいところに隠しているケースもある。

また、認知症になった人は通常では考えられないことをすることがありますから、通帳やカードを捨ててしまうことだってあり得ます。それで資産があるかどうか、家族が把握できないままになってしまうこともあるわけです。

■10年間出入金の取引がない預金口座は「休眠預金」扱い

2018年1月に施行された「休眠預金等活用法」という法律があります。10年間、出入金などの取引がなく放置された預金口座は「休眠預金」と見なされます。この時点で金融機関は口座の名義人に郵送で通知をし、しばらく待ちますが、それでも連絡がない場合、口座のお金は預金保険機構に移管され、政府が指定した組織などを通じて、地域の活性化や子育て支援などに取り組む公益団体への助成金となるのです。

故人に高額の預貯金があったとしてもその通帳が見つからなかった場合、また、休眠預金になるという通知に気づかなかった場合、そのお金は国のものになってしまうのです。

なお、休眠預金が機構に移管された後でも相続人などからの申し出があれば金融機関は引き出しに応じてくれるようですが、10年以上放置されていた口座の存在を家族が気づくことは少ないのではないでしょうか。

■本当に1人平均2800万円の資産を持っているのか?

認知症高齢者が140兆円の資産を保有しているという事実について、介護現場で働く人たちはどう受け止めたのでしょうか。ベテランケアマネジャーのIさんとSさんに聞いたところ、「140兆円という数字には、あぜんとするしかありません」と声をそろえました。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/fatido)

その上でIさんはこう言います。

「私たちケアマネジャーは利用者さんの資産を知る立場ではありませんが、サービスを提供する関係で預金額を聞くケースがあります。施設の利用費などを減免する制度を利用する際、単身者は1000万円以内、配偶者がある場合は合計2000万円以内という基準があるからです。認知症の高齢者は約500万人いるといわれますが、140兆円で割ると平均値は2800万円。でも、私がお聞きしてきた利用者さんの預貯金額はみんな1000万円以内でした。だから、140兆円なんて額を耳にして本当に驚いているんです」

「140兆円」の試算をした第一生命経済研究所の星野卓也エコノミストはこう説明します。

「140兆円の中には、銀行の預金だけでなく、加入している保険商品や投資信託、本人が存在を忘れている資産なども含まれていて、一人当たりの資産額は意外に大きいと感じるかもしれません。ただ、高齢者の資産額は人により大きな差があり、多くの資産を持つ人とそうでない人がいます」

■「預貯金300万円程度で要介護生活を送る人もいます」

一方、Sさんは、140兆円の資産があると聞いて「私が担当する利用者さんは『相当の資産を残しておかなければ満足な介護は受けられないのではないか』と不安そうでした。そういう方はほかにもいるかもしれません」と言います。

「フィナンシャルプランナーなどが、“老後を安心して過ごすには3000万円は必要”などと言って、現役時代に積み立てることの重要性を訴えますよね。確かにお金が潤沢にあれば快適に過ごせる有料老人ホームに入ることも可能ですから、その通りかもしれません。ただ、3000万円に満たないからといって十分な介護サービスを受けられないわけではありません。Iさんが説明したように、資産の少ない方には負担を減免する制度もありますし、預貯金が1000万円未満、たとえば300万円程度でも要介護生活を送っている人はたくさんいます。ひと月の生活費と介護サービスにかかる費用を計算し、年金で足りない分を補うだけの資産があれば、なんとかなるものなんです」

そしてSさんは「これはあくまで個人的な考えですが」と前置きしたうえで、こう語ります。

「認知症で要介護生活を送っている方は、資産を持っていても残念ながら自分の楽しみのためにお金を使うことはほとんどありません。本当は、その資産を子どもや孫に残したいという思いがあったかもしれませんが、本人が認知症の状態になったことが原因で、遺産相続でもめる場面もあります。そうしたケースを目にすると、私はこう思ってしまうのです。現役時代に必死に節約して、フィナンシャルプランナーが唱えるような額をため込むよりも、自分の好きなことにお金を使ったほうがいいのではないかと」

とはいえ、認知症高齢者がため込んだ資産140兆円は、結局のところ「ぜいたくは敵」で常に質素倹約に努める体質の日本人だからこそ実現できたものなのでしょう。

(スポーツジャーナリスト 相沢 光一 写真=iStock.com)

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